和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2024年11月27日(水)

著書通じ熊野の魅力語る 三重県の桐村さん講演

講演で熊野の魅力などについて話す桐村英一郎さん(和歌山県田辺市本宮町で)
講演で熊野の魅力などについて話す桐村英一郎さん(和歌山県田辺市本宮町で)
 和歌山県田辺市本宮町の熊野本宮語り部の会(坂本勲生会長)は3月30日、熊野に関する著書を多数出版している三重県立熊野古道センター理事の桐村英一郎さん(76)=三重県熊野市=を招いた講演会を本宮町の世界遺産熊野本宮館で開いた。約50人が参加し、桐村さんは著書の内容を紹介しながら熊野の魅力について語った。

 桐村さんは朝日新聞の元記者で、東京本社経済部長、論説副主幹などを歴任し、2004年に退職。奈良県明日香村への移住を経て、10年から熊野市に移り住み、熊野の研究に取り組んでいる。「ヤマト王権幻視行―熊野・大和・伊勢」「一遍上人と熊野本宮―神と仏を結ぶ」などの著書がある。

 この日の講演会は、桐村さんが新たに著した「ごった煮のおもしろさ『熊野山略記』を読む」の出版記念として開催。桐村さんは記者時代のエピソードを披露したほか、著書の取材で熊野に足しげく通う中で魅力にとりつかれて移住したことなどを紹介。「私は黒潮に呼ばれて熊野に来たと思っており、その後、黒潮のロマンを追って書き物をしてきた」と話した。

 熊野山略記は、成立が中世にまでさかのぼると考えられており、熊野三山の由来などについてまとめた貴重な古文書。桐村さんは「本格的な解説本がないし、漢文の読み下しも口語訳もない。専門家にぶつけてみたら『いろんな文書から引いていて成立過程が分かりにくい』といった答えだった。要するに各種の寄せ集め、ごった煮文書であり、きれいに分析できないことが、専門家が敬遠してきた理由だと思うが、そういうさまがいかにも熊野らしい」と魅力を感じ、新たな題材に選んだと説明した。

 内容について「一言で言えば熊野山略記は熊野三山の自慢話」と紹介。ルーツが天竺(古代インド)まで至るとしている熊野権現や熊野三党などについて解説した。

 また、伊勢と対比しながら熊野の魅力を指摘。「伊勢は簡素できれいだが、熊野は雑多という気がする。伊勢のコスモス(秩序)と熊野のカオス(混沌)。熊野山略記に現れているように、ごった煮で、あちらこちらの文書から都合良く引用する。そういう大ざっぱさは逆に、熊野のある種の温かみ、人間らしさを物語っている。肩の力を抜いてもいいんだよと言われるような空気が、私にとっては熊野の魅力」と話した。