ストレスによる大腸の不調が学習能力を低下させることを発見
~大腸を標的とした精神疾患治療薬開発への期待~
藤田医科大学(愛知県豊明市 学長:湯澤由紀夫)医療科学部レギュラトリーサイエンス分野 毛利彰宏教授、田辺萌夏大学院生、國澤和生准教授、鍋島俊隆客員教授、齋藤邦明学部長らは、医学部消化器内科学、医科プレ・プロバイオティクス講座の廣岡芳樹教授、栃尾巧教授、藤井匡准教授との共同研究により、幼少期の社会的な孤立によるストレスが大腸の粘液を産生する杯細胞※1を減少させ、認知機能障害をひき起こすという精神疾患の新たな発症メカニズムを解明しました。また、胃潰瘍や胃炎の治療に広く使われているレバミピド※2が杯細胞を増やすことで脳内の炎症を抑制し、認知機能障害が改善されることも発見しました。本研究により、レバミピドが精神疾患の新たな治療薬となる可能性が示唆されました。
本研究成果は、欧州科学誌「Molecular Psychiatry」のオンライン版で2024年11月29日に公開されました。
論文URL :https://www.nature.com/articles/s41380-024-02826-9
研究成果のポイント
レバミピドが大腸の杯細胞を増やし、海馬のミクログリア※3の過剰な活性化を抑制することで、ストレスによる認知機能障害を改善することを世界で初めて発見しました。
精神疾患の新たな発症メカニズムとして、ストレスにより大腸の杯細胞が減少し、それに伴い血中アミノ酸であるシスチン※4の低下を介して海馬のミクログリアが活性化され、認知機能障害がひき起こされることを発見しました。
レバミピドが認知機能障害に対する新たな治療薬となる可能性を提唱しました。
背景
現在使用されている精神疾患の治療薬の多くは、脳に直接作用するものです。しかし、これらの治療薬では精神疾患による認知機能障害に対し十分に効果が得られない患者が多く、さらに副作用の問題もあるため、新たな治療薬の開発が求められています。研究グループは、従来とは異なるアプローチによる治療法を模索する中で大腸に着目しました。近年、腸内環境が健康と密接に関与することが明らかになり、特に「脳腸相関」と呼ばれる、腸と脳の機能的な連関が注目されています。ストレスによって腸内環境が変化し、精神疾患の発症に関与することは知られていますが、こうしたメカニズムに基づく有望な治療薬は未だ開発されていません。本研究では、大腸の粘液を産生する杯細胞に着目し、杯細胞の増加が腸内環境を改善し、精神疾患治療の新たな標的となる可能性について検討しました。
研究手法・研究成果
幼少期のマウスを隔離飼育することで社会的な孤立によるストレスを負荷した結果、大腸の杯細胞数が減少し、ストレスが腸内環境に影響を与えることが確認されました。さらに、ストレスを受けたマウスの血中代謝産物を網羅的に解析したところ、シスチンの減少が認められました。このシスチンの減少により海馬のミクログリアが活性化され、認知機能障害がひき起こされることを発見しました。次に、杯細胞を増やす作用を持つレバミピドをストレスを受けたマウスに投与したところ、シスチンの減少と海馬のミクログリアの活性化が抑えられ、認知機能障害が改善されました(図1)。
[画像1]https://digitalpr.jp/simg/2299/100364/700_442_20241203174218674ec46a617af.jpg
図1:本研究で明らかにした機序の模式図
今後の展開
本研究の結果から、レバミピドがストレスによる認知機能障害の新たな治療薬となる可能性が示唆されました。レバミピドは胃粘膜保護薬として既に臨床で広く使用されており、重篤な副作用がないため、安全な薬剤として精神疾患治療への応用が期待されます。
用語解説
※1 杯(さかずき)細胞
大腸の粘液を産生する細胞。粘液は細菌の大腸への侵入を防ぎ、腸内細菌の餌にもなることから、腸内の健康維持において重要な役割を果たしている。
※2 レバミピド
粘液を産生する杯細胞を増やし、消化器官を保護する作用を持つ治療薬。胃潰瘍や胃炎の治療に広く使用されている。
※3 ミクログリア
脳内の免疫応答に関わる細胞で、過剰に活性化すると炎症性物質を放出し、神経細胞に損傷を与える。
※4 シスチン
体内で合成されるアミノ酸の一種で、解毒作用や抗酸化作用があるとされている。
[文献情報]
論文タイトル
Adolescent social isolation decreases colonic goblet cells and impairs spatial cognition through the reduction of cystine
著 者
田辺萌夏1,2、國澤和生1,3,#、齋藤いまり1、小菅愛加1、手塚裕之4、河合智貴1、今勇貴1、
吉富航洋1、鏡味明利1、長谷川眞也1、窪田悠力5、小鹿晴登1、藤井匡6,7、栃尾巧6,7、
廣岡芳樹6,7、齋藤邦明2,8、鍋島俊隆2,3,9、毛利彰宏1,3,#(#共同責任著者)
所 属
1 藤田医科大学 医療科学部 レギュラトリーサイエンス分野
2 藤田医科大学 医療科学部 健康医科学創造共同研究部門
3 藤田医科大学 精神・神経病態解明センター 神経化学部門
4 藤田医科大学 オープンファシリティセンター 細胞機能解析室
5 藤田医科大学 精神・神経病態解明センター 神経行動薬理学部門
6 藤田医科大学 医学部 医科プレ・プロバイオティクス講座
7 藤田医科大学 医学部 消化器内科学
8 藤田医科大学 医療科学部 先進診断システム開発分野
9 NPO医薬品適正使用推進機構
掲載誌
Molecular Psychiatry
掲載日
2024年11月29日 (オンライン版)
DOI
10.1038/s41380-024-02826-9
本件に関するお問合わせ先
学校法人 藤田学園 広報部 TEL:0562-93-2492 e-mail:koho-pr@fujita-hu.ac.jp
プレスリリース詳細へ https://digitalpr.jp/r/100364
藤田医科大学(愛知県豊明市 学長:湯澤由紀夫)医療科学部レギュラトリーサイエンス分野 毛利彰宏教授、田辺萌夏大学院生、國澤和生准教授、鍋島俊隆客員教授、齋藤邦明学部長らは、医学部消化器内科学、医科プレ・プロバイオティクス講座の廣岡芳樹教授、栃尾巧教授、藤井匡准教授との共同研究により、幼少期の社会的な孤立によるストレスが大腸の粘液を産生する杯細胞※1を減少させ、認知機能障害をひき起こすという精神疾患の新たな発症メカニズムを解明しました。また、胃潰瘍や胃炎の治療に広く使われているレバミピド※2が杯細胞を増やすことで脳内の炎症を抑制し、認知機能障害が改善されることも発見しました。本研究により、レバミピドが精神疾患の新たな治療薬となる可能性が示唆されました。
本研究成果は、欧州科学誌「Molecular Psychiatry」のオンライン版で2024年11月29日に公開されました。
論文URL :https://www.nature.com/articles/s41380-024-02826-9
研究成果のポイント
レバミピドが大腸の杯細胞を増やし、海馬のミクログリア※3の過剰な活性化を抑制することで、ストレスによる認知機能障害を改善することを世界で初めて発見しました。
精神疾患の新たな発症メカニズムとして、ストレスにより大腸の杯細胞が減少し、それに伴い血中アミノ酸であるシスチン※4の低下を介して海馬のミクログリアが活性化され、認知機能障害がひき起こされることを発見しました。
レバミピドが認知機能障害に対する新たな治療薬となる可能性を提唱しました。
背景
現在使用されている精神疾患の治療薬の多くは、脳に直接作用するものです。しかし、これらの治療薬では精神疾患による認知機能障害に対し十分に効果が得られない患者が多く、さらに副作用の問題もあるため、新たな治療薬の開発が求められています。研究グループは、従来とは異なるアプローチによる治療法を模索する中で大腸に着目しました。近年、腸内環境が健康と密接に関与することが明らかになり、特に「脳腸相関」と呼ばれる、腸と脳の機能的な連関が注目されています。ストレスによって腸内環境が変化し、精神疾患の発症に関与することは知られていますが、こうしたメカニズムに基づく有望な治療薬は未だ開発されていません。本研究では、大腸の粘液を産生する杯細胞に着目し、杯細胞の増加が腸内環境を改善し、精神疾患治療の新たな標的となる可能性について検討しました。
研究手法・研究成果
幼少期のマウスを隔離飼育することで社会的な孤立によるストレスを負荷した結果、大腸の杯細胞数が減少し、ストレスが腸内環境に影響を与えることが確認されました。さらに、ストレスを受けたマウスの血中代謝産物を網羅的に解析したところ、シスチンの減少が認められました。このシスチンの減少により海馬のミクログリアが活性化され、認知機能障害がひき起こされることを発見しました。次に、杯細胞を増やす作用を持つレバミピドをストレスを受けたマウスに投与したところ、シスチンの減少と海馬のミクログリアの活性化が抑えられ、認知機能障害が改善されました(図1)。
[画像1]https://digitalpr.jp/simg/2299/100364/700_442_20241203174218674ec46a617af.jpg
図1:本研究で明らかにした機序の模式図
今後の展開
本研究の結果から、レバミピドがストレスによる認知機能障害の新たな治療薬となる可能性が示唆されました。レバミピドは胃粘膜保護薬として既に臨床で広く使用されており、重篤な副作用がないため、安全な薬剤として精神疾患治療への応用が期待されます。
用語解説
※1 杯(さかずき)細胞
大腸の粘液を産生する細胞。粘液は細菌の大腸への侵入を防ぎ、腸内細菌の餌にもなることから、腸内の健康維持において重要な役割を果たしている。
※2 レバミピド
粘液を産生する杯細胞を増やし、消化器官を保護する作用を持つ治療薬。胃潰瘍や胃炎の治療に広く使用されている。
※3 ミクログリア
脳内の免疫応答に関わる細胞で、過剰に活性化すると炎症性物質を放出し、神経細胞に損傷を与える。
※4 シスチン
体内で合成されるアミノ酸の一種で、解毒作用や抗酸化作用があるとされている。
[文献情報]
論文タイトル
Adolescent social isolation decreases colonic goblet cells and impairs spatial cognition through the reduction of cystine
著 者
田辺萌夏1,2、國澤和生1,3,#、齋藤いまり1、小菅愛加1、手塚裕之4、河合智貴1、今勇貴1、
吉富航洋1、鏡味明利1、長谷川眞也1、窪田悠力5、小鹿晴登1、藤井匡6,7、栃尾巧6,7、
廣岡芳樹6,7、齋藤邦明2,8、鍋島俊隆2,3,9、毛利彰宏1,3,#(#共同責任著者)
所 属
1 藤田医科大学 医療科学部 レギュラトリーサイエンス分野
2 藤田医科大学 医療科学部 健康医科学創造共同研究部門
3 藤田医科大学 精神・神経病態解明センター 神経化学部門
4 藤田医科大学 オープンファシリティセンター 細胞機能解析室
5 藤田医科大学 精神・神経病態解明センター 神経行動薬理学部門
6 藤田医科大学 医学部 医科プレ・プロバイオティクス講座
7 藤田医科大学 医学部 消化器内科学
8 藤田医科大学 医療科学部 先進診断システム開発分野
9 NPO医薬品適正使用推進機構
掲載誌
Molecular Psychiatry
掲載日
2024年11月29日 (オンライン版)
DOI
10.1038/s41380-024-02826-9
本件に関するお問合わせ先
学校法人 藤田学園 広報部 TEL:0562-93-2492 e-mail:koho-pr@fujita-hu.ac.jp
プレスリリース詳細へ https://digitalpr.jp/r/100364
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