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2025年04月18日(金)

イベント詳細

特別展「生誕120年 村井正誠―画家にして版画家」

開催日時 2025年4月12日(土) 〜6月8日(日)
開催場所 田辺市立美術館
田辺市たきない町
イベント詳細  田辺市たきない町の市立美術館は12日から、田辺市20周年を記念した特別展「生誕120年 村井正誠―画家にして版画家」を開く。画家であり、版画家であった村井正誠(1905~99)の芸術を伝える。もう一つの特別展「河野愛 灯台へ、」も同日から、同館と熊野古道なかへち美術館(田辺市中辺路町近露)で開かれる。「灯台」を記憶や時間の標識として、美術家・河野愛の作品を象徴的に表す言葉とし、近年の作品を紹介する。どちらの特別展とも6月8日まで。

 「村井正誠」展は、日本の近代美術に抽象絵画の領域を切り開いた重要な画家の一人、村井正誠の生誕120年を機に、その画業を振り返る。村井は岐阜県に生まれ、医師だった父親の仕事に従って彦根、和歌山、田辺に移り住み、1913年からは新宮で育ち、現在の新宮高校を卒業した。その後、上京し、新宮市出身の建築家・西村伊作が創設した文化学院で3年間、洋画を学び、フランスに渡って研究を続けた。
 パリで発表される最新の作品に接しながら、ヨーロッパ各地を旅して古今の美術作品にも触れた村井は、普遍に通じる表現として抽象美術に関心を持ち、32年の帰国後も自身の制作について探求を重ね、幾何学的な構成の抽象絵画を発表して注目された。その後も、独自の抽象表現を展開し、色面と人の姿などを組み合わせたユニークで情感に満ちた作品を、93歳で亡くなるまで旺盛に制作し続けた。
 村井は画家としての歩みの初期から、版画の制作にも取り組んでおり、それは生涯継続された。版画の色彩と造形の試みは油彩画の表現とも結び付いており、その双方を知ることで、村井の芸術への理解はより深まるという。出品作品は、油彩画が「紀州」(1993年、県立近代美術館蔵)など、版画が「窓の人」(90年、田辺市立美術館蔵)など。
 5月17日午後2時から、市立美術館で「国際博物館の日」記念講演会「村井正誠と版画」がある。講師は、植野比佐見・県立近代美術館主任学芸員。5月31日午後2時からは、市立美術館で三谷渉・同館学芸員による展示解説会がある。どちらも予約は不要で、観覧料のみ必要。

■河野愛の近作紹介

 田辺市立美術館、熊野古道なかへち美術館の両館で紹介する河野愛は1980年生まれ、大阪市在住。2007年、京都市立芸術大学大学院美術研究科染織専攻を修了した。布や陶、ガラス、収集した骨董(こっとう)、写真などを複合的に使いながら、場所や人の記憶、時間をテーマにしたインスタレーション(空間を使った作品)を発表し続けている。近年の主な展覧会に、県立近代美術館(和歌山市吹上1丁目)で昨年開かれた、なつやすみの美術館14「河野愛『こともの、と』」など。
 市立美術館では、河野の祖父母が営んでいた、白浜町内のホテルのネオンサインの一部を使った「〈I〉シリーズ」のインスタレーションや映像作品を展示する。なかへち美術館では、異物や異者を示す古語から名付けられた「〈こともの〉シリーズ」を展示する。自身の体内から生まれ出た存在でありながら、異者のように感じたという幼子の肌のくぼみに真珠を挟み込んだ、河野の私的な写真を使ったインスタレーションや、母としての視点を他者と共有したプロジェクト「100の母子と巡ることもの」を紹介する。
 身近な物や者への親密でありながらも距離を持ったまなざしは、河野の制作の一つの特徴と言える。今回の特別展では、河野の個人的な記憶や時間だけではなく、鑑賞者を含めた他者や土地の記憶とも複層的につながる作品群を体感してもらう。
 出品作品は、市立美術館が「〈I〉pillar」(2024年、個人蔵、撮影:長岡浩司)など、なかへち美術館が「ことものforeign object(clock)」(24年、個人蔵、撮影:前端紗季)など。
 河野愛によるアーティストトークが5月24日午前11時から市立美術館で、午後2時からはなかへち美術館である。予約は不要で、観覧料のみ必要。
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 市立美術館、熊野古道なかへち美術館とも、開館時間は午前10時~午後5時(入館は午後4時半まで)、毎週月曜休館(ただし、5月5日は開館し、4月30日と5月7日が休館)。観覧料は市立美術館が600円、なかへち美術館が400円、学生と18歳未満は無料。