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2024年05月21日(火)

【国立国際美術館】特別展「梅津庸一 クリスタルパレス」2024年6月4日(火)から10月6日(日)まで開催

文化庁
美術家・梅津庸一の2000年代半ばより始まる仕事を総覧する、国公立美術館では初となる大規模個展を6月4日より国立国際美術館で開催




「この国で美術家として生きることはいかにして可能なのか?」という問いかけを起点に、「人がものをつくる」という行為の可能性について再考する


 梅津庸一(1982- )とは誰か?明治期における洋画の歴史を参照しながら自画像を描き、また奔放かつ繊細な抽象ドローイングも数多く手がけてきた彼は、ひとまず画家だと言えるでしょう。しかし、その仕事は絵画に限りません。近年では陶芸や版画の制作でも知られていますし、さらには作品制作という枠組みすらも軽々と越え、私塾の開設や展覧会の企画、非営利ギャラリーの運営、批評テクストの執筆といった活動を展開してきました。
 本展覧会は、そのような梅津の、2000 年代半ばより始まる活動の軌跡を追う試みです。とはいえそれは、彼の実像を浮き彫りにするための回顧展では必ずしもありません。「人がものをつくるとはなにか?」―彼の仕事の随所から生じてくるこの問いにうながされ、制作という行為がもつ可能性を根本から考えなおすことこそが、私たちの目的です。

 梅津はしばしば、自分の多種多様な仕事ぶりを「花粉」になぞらえてきました。一点の色斑が、一本の描線が、一語の言葉が、一個の作品が、あるいは一篇のテクストが、場所から場所へ、人から人へと移りゆく。そんな思いがけない伝播のプロセスそのものを、彼は重視しています。その点、梅津が今回の展覧会のタイトルとして「クリスタルパレス」なる語を選んだことは示唆的です。1851 年、ロンドンでの万国博覧会に姿をあらわし、後には巨大な温室を含む複合施設として転用されることにもなる、鉄骨とガラスのパビリオン。庭師あがりのジョセフ・パクストンが設計した水晶宮を念頭に、彼は展覧会場を、花粉の培養地に仕立て上げようとします。

 もちろん、自分の個展がこの時期、ここ大阪の地で開催されることに梅津は無自覚でありません。「クリスタルパレス」には、花粉の生成をうながす構造体という比喩のみならず、彼の政治的姿勢も含意されています。しかし、だからといって彼が、自作をとおして何か直接的かつ具体的な主張を展開することはないでしょう。現実の社会に対して「あるべき」姿や「ありえる」姿を提示することと、「私小説的」に美しい表現を追究すること。美術の制作は、その両者の微妙なあわいにこそ位置づけられるべきだと梅津は考えています。

 この国で美術家として生きることはいかにして可能なのか?―大学における造形教育や、アートマーケットのありかた、また制作を下支えする産業構造など、美術をめぐる諸制度にたびたび批判を加えてきた梅津は、いつもこう自問してきました。そもそも「つくる」とは、絵画や彫刻を手がける美術家だけに関わるものではなく、考えることや話すこと、つまりは生きることそれ自体とも重なり合う、きわめて広い射程をもった営みであるはずです。美学と政治、プロフェッショナルとアマチュア、芸術家と職人といった諸領域の重なり合うところに成立する「つくる」。梅津の飛ばす花粉は、誰もが無縁でいられない制作という行為について、あらためて考えるきっかけを与えてくれるにちがいありません。



「現代美術」というジャンルは多様性、多元性を謳うが、それは果たして実際の観客(受け手)に開かれているのだろうか? いま一度、「美術とはなにか」「つくるとはなにか?」を考える場をつくれたら幸いである。 ――― 梅津庸一

作家紹介

梅津庸一1982年、山形生まれ。美術家・パープルーム主宰。現在、相模原と信楽の二ヶ所で活動を展開。



主な展覧会:
「LIQUID NIGHT☆」(個展)2005年、ギャラリー本城
「POST GRADUATION」(個展)2008年、ARATANIURANO
「であ・しゅとぅるむ」2013年、名古屋市民ギャラリー矢田
「パープルーム大学物語」2015年、ARATANIURANO
「未遂の花粉」(個展)2017年、愛知県美術館
「 川井雄仁・梅津庸一 LOOPな気分でSHOW ME 【土塊】」2020年、艸居
「平成美術:うたかたと瓦礫 1989-2019」2021年、京都市京セラ美術館
「平成の気分」(個展)2021年、艸居
「6つの壺とボトルメールが浮かぶ部屋 梅津庸一・浜名一憲」2021年、艸居アネックス
「ポリネーター」(個展)2021年、ワタリウム美術館
「緑色の太陽とレンコン状の月」(個展)2022年、タカ・イシイギャラリー
「フェアトレード 現代アート産業と製陶業をめぐって」2022年、Kanda & Oliveira
「遅すぎた青春、版画物語(転写、自己模倣、変奏曲)」(個展)2023年、銀座 蔦屋書店
「森美術館開館20周年記念展 ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会 みんなで学ぼう、アートと世界」2023年、森美術館
「プレス機の前で会いましょう 版画物語 作家と工人のランデヴー」(個展)2023年、NADiff a/p/a/r/t
「梅津庸一・神崎倍充 二人展 ひげさん」2023年、艸居、艸居アネックス
「坂本夏子+梅津庸一 2人で描く 絵画は今、何を問えるのか?」2023年、パープルームギャラリー
「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?-国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ」2024年、国立西洋美術館

主なキュレーション:
「恋せよ乙女!パープルーム大学と梅津庸一の構想画」2017年、ワタリウム美術館
「梅津庸一キュレーション フル・フロンタル 裸のサーキュレイター」2021年、三越コンテンポラリーギャラリー
「窯業と芸術」2022年、gallery KOHARA、陶園、丸倍の自習室
「梅津庸一 エキシビションメーカー」2024年、ワタリウム美術館

今後の展覧会予定:
「浮世:ジャポニズムから日本の現代アートまで」2024年、レ・フランシスケーヌ(フランス、ノルマンディー、ドーヴィル)
「梅津庸一・シルヴィ・オーヴレ」(仮)2024年、艸居、艸居アネックス


展示構成
1.知られざる蒙古斑たちへ
梅津庸一は、日本の洋画の歴史を参照しつつ、裸の自画像を手がけることで知られています。ラファエル・コランや黒田清輝など、この国の「美術」の始祖たちを下敷きにするその制作によって、彼は「この国で美術家として生きること」の可能性を根本から問いなおそうとしました。いっぽう、彼が人知れず手がけていた大量のドローイング群は、個人的かつ私秘的な制作への関心をありありと物語ってくれるでしょう。展覧会の出発点となる本章では、公と私、両方にまたがり展開する梅津の仕事を紹介します。


梅津庸一《智・感・情・A》2012-14年 布、パネルに油彩 東京都現代美術館蔵 撮影:大谷一郎

2.花粉を飛ばしたい! 美術家として、作品制作だけで身を立てることは難しい。そんな現実と向き合いながら、なお美術という領域において「私有地」を確保していくことが、梅津の課題でした。「花粉」というキーワードが示唆するように、彼はいつでも、異質なもの同士の思いがけない出会いを、そしてそれがもたらす予測不能な出来事の連鎖をもくろんでいます。その点で、彼が2013年、神奈川県相模原市の自宅で立ち上げた「パープルーム」は示唆的です。私塾にして美術家集団、さらには画廊としての側面も持つその活動をとおして、彼は「制作」と「生活」との架橋を試みました。



梅津庸一《霞ヶ浦航空飛行基地》2006年 板に銀、真鍮 高橋龍太郎コレクション


梅津庸一《フェンスにもたれかかるパームツリー》2021年 陶 作家蔵 撮影:今村裕司 画像提供:艸居3.新しいひび 2021年春、梅津は滋賀県に位置する六古窯のひとつ、信楽へと移住します。長引くコロナ禍の閉塞感に疲れ、さらには現代美術という領域そのものへの不信を募らせていた当時の梅津には、作陶によって、いまいちど制作する意欲を取り戻すための時間が必要でした。手探りで進められるその不慣れな制作は、まさにリハビリと呼ぶに相応しいでしょう。かつて絵画において取り上げていた主題を、今度は陶芸へと転移させ、また陶芸を手がけるように絵画をつくる、そんな相乗効果も確認できるはずです。





梅津庸一《幻視》2021年 陶 艸居蔵 撮影:今村裕司 画像提供:艸居

4.現代美術産業
粘土を捏ね、施釉し、窯で焼く日々を送るなか、梅津は次第に、自らの制作を下支えしてくれる「インフラ」への意識を強めていきます。窯という施設、また工人のサポートがなければ成立しない作陶実践を経て、あらためて意識されるのは「「つくる」とは個人に帰属するものだけでない」という事実です。それはまた、版画という別のジャンルに身を置くことでも再認識されるでしょう。摺師に促され、さまざまな版画技法を用いて実験をくりかえすなかで、梅津は制作という営みをより広い射程から捉えるようになります。

梅津庸一《sleep in the sky》2022年 陶 作家蔵 撮影:今村裕司


梅津庸一《勢力図》2023年 紙にエッチング、手彩色 個人蔵5.パビリオン、水晶宮梅津はあらゆるものをその身に引き受け、総合しようと企てます。過去と現在、産業と芸術、プロとアマ、「美学と政治」といった線引きを曖昧にしていくことが、その主たる狙いです。もちろん、本展覧会においてもその姿勢は一貫しており、だからこそ彼は、何らかの物語や型にはめこもうとする美術館側の意図に抵抗を示すはずです。むしろ逆に、彼はここ国立国際美術館の姿を、別様に浮かび上がらせようとするでしょう。1970年に開催された大阪万博、そこにルーツを持つ当館に、彼は「クリスタルパレス」という、新たな概念でもって介入しようと試みます。





梅津庸一《集団意識》2021年 紙に水彩、インク、アクリル、油彩、エナメル みそにこみおでん蔵 画像提供:艸居

開催概要
展覧会名|特別展「梅津庸一 クリスタルパレス」
会期|2024年6月4日(火)- 10月6日(日)
会場|国立国際美術館 地下3階展示室(〒530-0005 大阪市北区中之島4-2-55)
開館時間|10:00 - 17:00、金曜・土曜は20:00まで
入場は閉館の30分前まで
休館日|月曜日
ただし、7月15日(月・祝)、8月12日(月・休)、9月16日(月・祝)、9月23日(月・休)は開館し、7月16日(火)、8月13日(火)、9月17日(火)、9月24日(火)は休館
主催|国立国際美術館
協賛|ダイキン工業現代美術振興財団
助成|令和6年度 文化庁 我が国アートのグローバル展開推進事業
協力|艸居、Kanda & Oliveira、Taka Ishii Gallery、Kawara Printmaking Laboratory, Inc.
観覧料|一般1,200円(1,000円)大学生700円(600円)
( )内は20名以上の団体および夜間割引料金(対象時間:金曜・土曜の17:00―20:00)
高校生以下・18歳未満無料(要証明)・心身に障がいのある方とその付添者1名無料(要証明)

※本展覧会会期中は、展示室の整備・修繕のため、コレクション展を開催しません。


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https://www.nmao.go.jp/events/event/202400604_umetsuyoichi/
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