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2024年12月23日(月)

熊楠顕彰館で「龍とは何か」

架空の動物「龍」をテーマとした企画展(和歌山県田辺市中屋敷町の南方熊楠顕彰館で)
架空の動物「龍」をテーマとした企画展(和歌山県田辺市中屋敷町の南方熊楠顕彰館で)
 和歌山県田辺市中屋敷町の南方熊楠顕彰館は、干支(えと)である「辰(たつ)」にちなむ企画展「新春吉例『十二支考』輪読 龍とは何か」を開いている。2月11日まで。観覧は無料。

 熊楠は1914~23年に当時の雑誌「太陽」(博文館)に、その年の干支をテーマにした論文を発表。その中で16年の辰年は、龍の回として「田原藤太竜宮入りの譚」を発表した。この論文では、龍という架空の動物が、どのような想像力の結果として生まれてきたのかを考察している。

 「十二支考」の他の回は「○○に関する民俗と伝説」で大体統一されているが、龍の回だけは「田原藤太竜宮入りの譚」という題が付いている。この回は1~5章で構成されているが、「俵藤太物語」をテーマにした1、5章と「龍とそのモデル」をテーマとした2~4章とで、やや性格が異なる。全体としては、1章で示された龍とムカデクジラの決闘という話の謎を、2~4章の背景の説明を経て、5章で解決して大団円に持っていく流れといえる。

 こうした構成を読み解くために今回の企画展では、1章に詳述されている「俵藤太物語」について小峯和明・立教大学名誉教授が、辰年生まれの金文京・京都大学名誉教授が2章の「龍とは何か」を踏まえて中国の龍について、同じく辰年生まれで、顕彰館長の松居竜五・龍谷大学教授が3、4章の「龍の起源と発達」で出てくる龍のモデルとなった実在の動物について解説を加えている。

 「田原藤太竜宮入りの譚」は、平安時代の武将・藤原秀郷が、琵琶湖の龍を援助して大蜈蚣(むかで)を退治したという物語。秀郷は、東国で反乱を起こした平将門を征討した武将としてもよく知られる。古代の神話を中世に再創造した絵巻「平家物語剣之巻」では、ヤマトタケルが大蛇をまたぐ場面が見られ、英雄の武勇を示す型として共通する。

 熊楠は「田原藤太竜宮入りの譚」の中盤の3、4章で龍という架空の動物が、どのような現実の動物から生まれてきたかという点に絞って論じている。登場するのはヘビ、トカゲ、ワニ、恐竜の化石、海洋生物など。熊楠は、そのうちのどれか1種に絞るのではなく、それらが長い時間をかけて複合的に結び付き、龍という創造物が生まれたと考えているとみられる。「人間の想像力の中に、自然の多様性が反映されているという観点は、熊楠らしいものだと言えるのではないか」と松居館長。

 展示資料は「田原藤太竜宮入りの譚」掲載号である「太陽」22巻2月号(1916年刊)、「十二支考」の「龍」図版(複製)、腹稿「龍」(複製)など12点。熊楠は「十二支考」の執筆に際して毎回、腹稿(熊楠が論文の執筆のために使った独特のメモ)を作成している。

 1月6日午後2時~4時、顕彰館1階で講演会「龍とは何か」がある。講師は展示を担当した小峯名誉教授、金名誉教授、松居館長の3人。申し込み不要で定員30人。

 開館時間は午前10時~午後5時(最終入館は午後4時半)。休館日は1月8、9、15、22、29日、2月5日。