大学生が日本一の梅産地を応援 梅収穫スタディケーション始まる
紀州南高梅に代表される和歌山県の梅生産量は日本一を誇り、「みなべ・田辺の梅システム」は世界農業遺産に登録されています。一方で近年、梅農家の後継者不足や労働力不足、梅製品の消費低迷などが課題になっています。その解決の一助として2023年6月、和歌山大学の学生とJA紀南がタッグを組み、学生が農業を応援する「梅収穫スタディケーション」を実施しました。来年は参加大学や受け入れ農家を広げていく計画です。
スタディケーションは、スタディ(勉強)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語です。今回のプロジェクトは、梅農家の仕事を体験し、梅の魅力や梅産業が抱える問題について知ってもらうことを目的に、同大学の地域交流援農サークルagrico.(アグリコ)のメンバー8人が2グループに分かれて参加しました。アグリコは県内の農家の手伝いをしながら地域の人たちと交流するサークルで、設立から16年。49人が所属しています。
学生を受け入れたのは、上富田町岩田の農業・谷本憲司さん(46)。約2.5haの園地で梅を栽培しています。
■楽しみながら初めての梅収穫
今回の収穫作業は「落ち梅ひろい」。紀州南高梅特有の柔らかくて果肉の厚い梅干しをつくるには完熟した実を使います。広大な梅畑には一面、青いネットが敷き詰められています。完熟した実は地面に敷き詰めたネットの上に自然落果しますが、柔らかくてとても傷みやすいため、その日のうちに全て拾い集め、出荷しなければなりません。
午前8時、集合場所のJA紀南上富田支所の駐車場で谷本さんが笑顔で出迎えてくれました。細い農道を抜けて梅畑に到着した学生たち。いかにも農作業に向いた服装でしたが、「帽子がない!」「長靴を忘れた」とあわてる場面も。そんな学生たちを見て、笑いながらツッコミを入れる谷本さん。和やかな雰囲気の中で落ち梅拾いが始まりました。
■「暑い~ 午前中が勝負だ」
黄色く熟し、ほのかに赤く色づいた実を、たも網を使って拾い上げます。これにはコツが必要で、慣れるまではつい手を出したくなります。しかし「梅の集まっているところにはムカデがいるので手は出さないで」と注意を受けます。中腰になって、落ちている梅を拾っていく学生たち。その間にも、梅が木から落ちてきます。たも網の扱いに悪戦苦闘しつつも、少しずつ慣れていきます。時折笑い声も聞こえてきて楽しく作業していることが伝わってきます。収穫した梅を入れたコンテナがどんどんと積み上がっていきます。
炎天下の作業では休憩も重要。谷本さんがJAの梅ドリンクを差し入れてくれました。作業の合間の梅ジュースの味は格別。学生たちは初めて飲んだ梅ドリンクに、「もっと酸っぱいと思ってた!」「めっちゃおいしい!」と感激していました。
梅拾いを終えると、サイズごとに分ける選果の作業に移ります。傷のついた梅やまだ青い梅を取り除き、洗浄し、機械を使って大きさ別に仕分けていきます。選果した梅は20キロずつに分けて、軽トラックの荷台に積み上げていきます。コンテナを運ぶ作業をしていた学生は「思ったより軽い」と言っていたものの、作業を続けるうちに「腰が・・・」と背中をさする場面もありました。
■収穫を終えて「普段できない体験ができた」
学生たちは「日常食べている梅にこれだけの労力が掛かっていることを初めて知りました」「普段できない体験ができて楽しかったが、毎日となると大変だと思いました」などと話してくれました。
塩分濃度20%の「白干し梅」を食べて、あまりの酸っぱさに驚いたり、馴染みのない梅ジュースを飲んでおいしさに感動したりと、収穫作業だけでなく五感で梅を感じていました。初めての経験は刺激の連続だったことでしょう。
園主の谷本さんは「慣れない作業で大変だったと思います。最初は彼らの作業に不安もありましたが、途中から慣れてきて、僕が離れても大丈夫なくらいでした。繁忙期にとても助かりました」と学生たちに感謝していました。
■学生に学びの場を提供
大学生たちは、インターンを通じてさまざまな経験を積みたいと考え、地方に魅力を感じる学生も増えてきています。「地域の課題に触れ、学びたい」という意識の高い学生もいます。インターンでの経験が就職に役立つこともあるのでしょうが、「生き方」を見つけに来ているという印象も受けました。
梅農家としても若い学生たちを受け入れることは、単純に労働力を確保するということではなく、学生の意見を聞くことで視野を広げる機会にもなるでしょう。学生に来てほしいと考える地域や事業者は想像以上に多く、参加する学生の方が不足しているという現状も聞きます。
そもそも和歌山県南部の紀南地方には大学がなく、学生の移動手段や宿泊場所の確保といった課題があります。一方で、都会にはない豊かな自然や梅、みかんをはじめとした紀南地方特有の産業は学生にとって大きな学びにつながりそうです。学生のスタディケーションを継続していくためには、その課題を解決するとともに、地域の魅力をいかに発信するかが鍵となります。
■「梅スタディケーションの輪を広げたい」
JA紀南指導部の榎本義人部長は「今後、協力いただける大学を広げ、将来的には梅の収穫時期に途切れることなく学生が産地に入ってもらえるような環境をつくりたい」と期待しています。これに応える形で、和歌山大学経済学部の岸上光克教授は、大学間のネットワークづくりを進める考えです。