「とにかく楽しかった」「もっと交流の場を」 梅スタディケーションで発表・交流会(和歌山県)
梅の最盛期に和歌山県上富田町の農園で収穫作業を体験した和歌山大学(和歌山市)の学生による「梅スタディケーション発表・交流会」(JA紀南・紀伊民報共催)が2023年8月10日、田辺市新庄町の県立情報交流センターBig・U(ビッグ・ユー)で開かれました。学生からは「とにかく楽しかった」「早朝から作業をして昼から観光ができて良かった」という声が聞かれました。一方で、「ホテルではなく古民家や農家に泊まって、地元の方ともっと交流したかった」「学生は現地まで行く交通手段がない」といった課題も挙がりました。
「スタディケーション」は、「スタディ」と「ワーケーション」を掛け合わせた造語です。今回の梅スタディケーションはJA紀南(管内=田辺市~串本町)と紀伊民報がコーディネート。参加したのは、和歌山大学の援農交流サークルagrico.(アグリコ)のメンバー2グループ8人です。
梅の収穫が最盛期を迎える6月は、蒸し暑く雨も多い時季です。初日は午前8時から作業を始めましたが、あまりにも暑かったので翌日は午前6時からスタート。早朝の時間帯は涼しくて作業がはかどったそうです。
時間の繰り上げにはうれしい効果がありました。援農時間は午前6時から正午までの6時間。そこで1日の作業を切り上げて、昼食は地元の人に教えてもらった安くておいしい店にグルメ旅。昼からは南紀白浜の観光や、世界遺産に登録されている熊野古道や熊野本宮大社を訪ねることができました。
■休憩時間に交流
梅の収穫作業はとても体力を使う仕事。まめに休憩を取って、熱中症予防のために水分を補給します。そこで生まれるのが農家との交流。「休憩中に梅農家さんとゆっくり話ができた」ということが学生にとって大きな収穫だったそうです。
「梅干しは知っていても、梅農家や梅そのもののことは今回のスタディケーションを体験しなければ分からなかった」「参加者それぞれが梅について知ることができて勉強になった」「梅農家を尊敬する気持ちが強まった」といった意見が聞かれました。また、「滞在中に梅を使った料理を作ってみたかった」という意見もありました。
■交通手段や宿泊に課題
梅スタディケーションの課題として参加の学生から「交通手段」と「宿泊先」について提言がありました。全国一の梅産地である紀南地域は大学から約80km離れており「現地までの交通手段がないと興味があっても行けない」というのが悩み。仮に電車やバスで現地入りしても、宿泊先から農園までの交通手段も必要です。
今回はJA紀南の計らいでリゾートホテルに泊まりましたが「農作業では古民家に泊まってみんなでご飯を作ったり、地元の人と農業以外の時間に交流したりするのもいいのではないかと考えました」と、宿泊も含めた交流を希望しました。地元の魅力を一つでも多く知ってもらうために、地域の人と関わることができる宿泊先を検討する必要がありそうです。
■梅スタディケーションをどうすれば知ってもらえるか
梅スタディケーションをどうすればもっと知ってもらえるのかについても、学生からいくつかの提案がありました。
1.「農作業だけでなく、梅料理を一緒に作れる」「作業の後は温泉に行ける」など、「農作業と〇〇」のプランだったら参加したいと思う人が増えるのではないか。
2.「運動部の部活向け 梅収穫合宿」
梅の収穫作業は体力を使います。傾斜地での作業は平衡感覚を養うのに適していたり、足腰を鍛えるトレーニングになったりします。部活動をしている学生に「梅収穫合宿で寝食を共にする体験」を提案してみてはどうでしょうか。
3.「企業などに直接募集をかける」
企業の研修で梅スタディケーションを選んでもらうのも一つの方法。企業の理念に合致するプランを提案すれば、実際に体験してもらえそう。
JA紀南が販売している梅ジュースを作業の合間に飲んだ学生は「とてもおいしい。何本でも飲みたいと思った」と感激し、「このジュースを他の地域でも販売してほしい」と話していました。地元では馴染みのあるジュースですが、和歌山市内の大学に通う彼らにとっては新鮮な飲み物だったようです。
■梅産業の現状と取り組みについても発表
今回の梅スタディケーション発表・交流会には、JA紀南から「梅産業の現状について」、地域の活性化に積極的に取り組んでいる和歌山県立神島高校から「神島屋と梅の取り組みについて」、和歌山信愛女子短期大学から「生活文化学科食物栄養専攻」の紹介がありました。
JA紀南管内には梅農家が約2200戸ありますが、6年後には25%減の約1650戸になると予想され、高齢化や後継者不足が深刻化しています。また、この20年間で梅干しの消費量は4割減少しました。これは若い人の食生活が多様化し、米飯と相性が良い梅干しが選ばれづらくなっているためと考えられています。梅スタディケーションは、こういった課題を解決するために若者の意見を聞くことも目的の一つです。
■梅農家の「家庭の味」を試食
梅スタディケーションに参加した学生たちから「梅を使った料理を食べてみたい、作ってみたかった」という声がありました。そこで発表・交流会では、受け入れ先であった梅農家の谷本憲司さんご夫妻が試食用の梅料理を振る舞いました。
メニューは、梅干しと鶏のささみ、キュウリを和えたものと春雨入りの梅のお吸い物。谷本家では、梅干しをつぶしたものにニンニクを入れた自家製の梅ペーストを常備しているそうです。試食した学生や関係者からは「梅干しは酸っぱいというイメージが強かったが、さっぱりしておいしい」「梅を調味料に使う発想はなかった」といった感想が聞かれました。
谷本さんは「収穫を手伝ってくれて大変助かりました。来年も来てほしい。紀南の観光も楽しんでもらえれば」と話しました。
■来季開催に向けて
学生が援農サークルに参加したきっかけは「農業に関わってみたいと思った」「ボランティアをしたい」「友だちが援農に行っていた」「大学の授業で行って楽しかった」といったものです。実際に梅の収穫を体験したメンバーは「とにかく楽しかった」「大学の講義にはない梅の事情を知ることができた」と話しました。
こういった意見を受けてJA紀南は、今回の課題や改善点を整理し、来季の梅スタディケーションに取り組む考えです。