和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2024年11月28日(木)

私の視点―識者インタビュー― 参院選2022(2)/子育て支援/和歌山大学経済学部教授/金川(かながわ) めぐみさん(49)/社会保障学/惜しみない投資と理解を

金川めぐみさん
金川めぐみさん
 ―6年前の参院選では「保育園落ちた日本死ね!!」と窮状を訴える匿名ブログが共感を集め、社会問題化しました。その後、子育て支援は変わりましたか。

 全国的に見ると待機児童はかなり解消されました。データ上、県内ではほぼいません。もちろん「隠れ待機児童」と言われる問題はあるし、受け入れ基盤にはまだ課題があります。

 ―課題にはどんな背景があるのでしょう。

 保育士不足と雇用環境の問題です。今年1月の保育士の有効求人倍率は2・93倍、県内に限ると3・59倍。全職種平均の1・27倍より大幅に高い。

 求人難の背景には、厳しい労働環境と依然低い賃金水準があります。これが解決しないと人材は質量とも安定しません。子育て環境の整備は人材の問題とセットで取り組まないといけません。

 根本的な問題として、日本社会はケア労働の価値を軽んじてきました。それが保育や介護の処遇の低さを招いています。見直さなければなりません。

 ―最近の動きとしては、岸田文雄首相が「出産育児一時金(現行42万円)」を大幅に増額すると表明しました。

 出産・子育ての経済的支援が手厚くなるのは本来喜ぶべきことですが、今年4月の「不妊治療への医療保険適用」にも関連するように「出産=少子化対策」の点のみに経済支援策が特化していることに懸念があります。

 子育て支援は妊娠・出産期から18歳まで切れ目なく必要です。それなのに、児童手当には新たな所得制限による支給停止制度を設けています。子どもがいる限り一定必要な基礎投資が、保護者の経済状態に左右されるものであってはなりません。

 ―「母親になって後悔してる」というタイトルの書籍が話題になっています。

 さまざまな意見があって当然だと思います。ただ「こんなことを言う母親はけしからん」といった非難をする人は、そう言わせている社会を反省してほしい。

 教育行政学の研究者である末富芳さん(日本大学教授)が提唱された「子育て罰」という言葉があります。子どもと子育て世帯に冷たく厳しい日本の現状を指しています。楽しくも厳しい子育てという作業をしているにもかかわらず、社会からのまなざしが冷たい。子育てが「罰」とされない社会の姿勢が求められています。

 欧州では「社会への投資」が進んでいます。社会の基盤を担う次世代に対し、惜しみなく理解と投資を示す。そんな状況が求められます。