和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2024年12月27日(金)

困難と栄光の歴史を次世代へ 和歌山県誕生150年で式典

県誕生150年記念式典で県民歌を歌う和歌山児童合唱団(21日、和歌山市で)
県誕生150年記念式典で県民歌を歌う和歌山児童合唱団(21日、和歌山市で)
記念式典で講演する作家の辻原登さん
記念式典で講演する作家の辻原登さん
 和歌山県の誕生150年を迎えたことを記念する式典が21日、和歌山市の県民文化会館であった。約1200人が出席し、映像や講演で、これまでのさまざまな「困難と栄光」を振り返り、皆で次の時代へさらに発展させていくという思いを共有した。


 現在の和歌山県は、1871(明治4)年の廃藩置県を経て、同年11月22日に和歌山県、田辺県、新宮県が統合、旧高野山領が加わって誕生した。記念式典は当初、150周年に当たる昨年の秋に開催する予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて延期していた。

 仁坂吉伸知事はあいさつで「和歌山県はさまざまな困難に見舞われ、さまざまな栄光を経て今日に至っている。県内に生きている喜びをかみしめながら、未来に向けて頑張っていこう」と呼び掛けた。県内選出の国会議員らも祝辞を述べた。

 映像では安政南海地震で多くの村人の命を救った浜口梧陵や外務大臣を務めた陸奥宗光、世界的博物学者の南方熊楠、田辺市にゆかりがある日本人初のノーベル賞受賞者の湯川秀樹、現パナソニック創業者の松下幸之助らを紹介。海外移住、林業、観光の歴史、明治大水害、紀伊半島大水害、昭和南海地震、和歌山大空襲などの災害や戦災にも触れた。

■「熊野は生まれ変わりの聖地」 作家の辻原さん講演

 記念講演では、印南町出身の芥川賞作家辻原登さんが「わが生地、わが聖地・熊野」を演題に「熊野は生まれ変わりが期待できる聖地だった。間違いなく白浜は神々が降り立った『死と再生』の場所である」などと述べた。

 辻原さんは「古代人にとって方位は宗教であり科学だった。神々は東西と南北の先端に宿る」といい、大和(奈良県)から見て東の端は伊勢(三重県)、西は出雲(島根県)で、北は白山(石川、福井、岐阜県)、南は熊野だと紹介。「死者の魂の行方を決めるのが文明の基本。現世(大和)を支えるのが東西南北の先端、あるいはその向こうのあの世の世界」だとし、その死者の魂を鎮める場所が伊勢、出雲、白山、熊野だとした。

 熊野の範囲は、自身の出身地である印南町の切目からで、この場所が結界だったといい、熊野詣での人は切目五体王子で身体を清め、熊野の神々に悪さをされないよう、境内を覆っていたナギの木の葉を髪にかざして結界を越えたのだとした。

 また、白浜についても、有間皇子の話や白山の語源などを紹介した上で「シラやシララは古来、神々や光を表す言葉であり『白浜』『白良浜』は砂が白いから呼ばれたのではないことは明らかだ。白山が聖なる山を表したように、白浜は聖なる浜、神々が降り立った場所を意味したのではないか」と説明。「熊野の奥深さには切りがない。熊野の霊地には新型コロナを退散させる何かがありそうだと夢想する」と締めくくった。

 政治学者の御厨貴さんが「和歌山の近代150年を問う」を演題に事前録画した講演も放映した。和歌山児童合唱団による県民歌の披露や小中高校生の作文発表、尺八、ピアノの演奏もあった。