和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2024年12月23日(月)

新築移転先変更へ 湯崎保育園、一部住民の理解得られず

建築から46年が経過し、老朽化している湯崎保育園(白浜町で)
建築から46年が経過し、老朽化している湯崎保育園(白浜町で)
 白浜町は1日、湯崎保育園の新築移転先を変更すると明らかにした。建設予定地付近の住民から反対する声があり、交渉してきたが理解を得られなかったという。新たな建設地は、町消防本部横の町有地とする方針を示した。「2020年度中」を目指していた新園舎の完成時期は、大幅にずれ込むことになる。

■ 高台の町有地で整備へ


 当初の予定地で園舎を建設するための設計は660万円を費やして昨年度に終えており、本年度の予算には工事費として2億2140万円を計上していた。このタイミングでの計画変更は異例。

 町は開会中の町議会12月定例会に、追加で補正予算案を提案する。工事費を減額し、新たな建設地を造成するための測量設計費を計上する。建てる場所を変えるため、造成だけでなく、改めて設計し直す必要もあり、その分だけ全体のスケジュールは後ろにずれ込むことになる。

 井澗誠町長は町議会全員協議会で、事業が進んでいないことについて「大変申し訳ない。心から深くおわびする」と陳謝した。議員からは「議会議決のある予算を執行できなかった重みを感じるべきだ。二度とこんなことがあってはならない」「(経緯を踏まえると)場所の変更には賛成だが、議会が紛糾してもおかしくない話だ。肝に銘じてほしい」という意見が出た。

 湯崎保育園は1974年5月の完成。老朽化しており、町内では唯一、耐震化できていない保育施設。周辺の道が狭いこともあり、保護者会や地元町内会は、新園舎の早期完成を町に求めていた。1日現在、1~5歳の計44人が利用している。

 当初の建設予定地は、現園舎から直線距離で約150メートル離れた県有地。町の説明では、反対した住民は、工事費を盛り込んだ予算案を議会が可決した後の5月以降、反対の意向を強く示すようになった。町は交渉を継続したが、理解を得られなかったという。

 新たな建設地を消防本部に隣接する町有地にするのは、高台であることや、送迎時のアクセス性を考慮したため。井澗町長は「一日も早く建設できるように取り組みたい」と語った。

 新園舎の整備を巡っては6月、町が田辺・西牟婁の15社を指名して競争入札を執行したが、全社が辞退した経緯もあった。指名業者のうち1社の幹部は取材に「金額が全然合わなかった」と理由を話した。予定価格は1億3893万円、最低制限価格(事後公表)は1億2675万4千円(いずれも税抜き)だった。

あしき前例にするな


 【解説】白浜町の湯崎保育園の新築移転計画は、本体工事の予算が付いた後で建設地の変更を余儀なくされるという異例の事態になった。

 完成後の保育園の運営を考えれば、新園舎の整備計画に反対する住民からも理解を得ようとした町の方針は納得できる。しかし、来年度に開所するという当初の予定がずれ込んだ結果、保護者会や地元町内会が求めていた「早期の環境改善」に応えられなくなった。「行政の執行能力が問われる」と町の姿勢を批判する声が地元から上がるのも無理はない。

 新園舎の当初の予定地は町が県に頼み込んで無償で借りた土地であり、工事費も議会の承認を得て予算化されていただけに、近隣からの反対があったから予定地を変更するという町の判断は「あしき前例」になってしまったのではと懸念する声もある。

 さらに、本体工事に関しては、6月の指名競争入札に参加した全15社が辞退し、成立しなかった。にもかかわらず、町は設計を見直さず、あるいは業者を入れ替えて入札をやり直すという手だてを講じていない。

 そもそも、湯崎保育園は老朽化、耐震不足という根本的な課題を抱えている。建て替えは今春の町長選で井澗誠町長が掲げた公約の一つだった。

 それだけに、町は早急に新たな候補地で建て替えの手続きを進め、整備するしかない。それが地元や保護者、保育園を利用する子どもたちに果たすべき最初の行動になる。 (中陽一)