春休みは読書を/記者お薦めの一冊/中高生編(下)
『人間の縁』
浅田次郎 著
海竜社
記者の仕事をしていると、いろいろな人と出会う。「縁」というものだろうが、それを分かりやすく説明してくれている本だと思う。
「私の小説やエッセーの原理となっている『人間の縁』の部分を抽出し再録した」と紹介している。「小説は人間の営みを描くもの。(中略)そこに『縁』という要素を加えると、無限の展開と可能性を持つドラマが生まれる」との考えを読めば、さすがはいくつもの名作を世に送り出した作家だと感嘆するばかりだ。
掲載している文章は、一つ一つが短くて読みやすく、余韻が残る。元の作品に手を伸ばすきっかけにもなる。「戦争に勝ちも負けもない」や「君の夢は?」と名付けた文章は特に印象深い。
他人との縁について、筆者は「妙な期待や警戒はせず、出会いを楽しんだ方が得」だと書いている。これからの人生で、不思議な縁を感じることがきっとある。それを前向きに捉えてほしいと願う。(中陽一)
『下流志向』
内田樹 著
講談社
学生の時に「もっと早く読んでおけばよかった」と思った本を紹介したい。
「下流志向」という言葉が目を引き、たまたま書店で手に取った。副題は「学ばない子どもたち 働かない若者たち」。「余計なお世話だ!」と思いつつ、内容が気になったので買って帰った。
著者は、子どもたちが自ら進んで学びから逃走しているという視点から、「学力低下は努力の成果」と考察している。若者の働かないという選択も同じく、それが合理的と感じているからだと説く。
そしてそれらは、商品としての教育サービス、消費主体としての私、自己決定・自己責任論といった世相が背景にあると論じている。
なるほど、と思わず膝を打つ考察が多く、社会の流れを俯瞰(ふかん)する大胆な考え方も面白い。「学び」とは何か。「労働」とは何か。そんな当たり前のことに目を向けるきっかけにもなった。(山中弥)
『仮面病棟』
知念実希人 著
実業之日本社文庫
著者は現役医師。文庫本の帯に書かれた「シリーズ累計100万部突破」「ベストセラー映画化」などの派手な宣伝文句につられて読んでみた。
物語の舞台は、寝たきりの患者が多い療養型病院。そこにピエロの仮面を被ったコンビニ強盗犯が侵入し、自らが撃って負傷させた女の治療を要求する。当直勤務のバイトをしていた外科医は事件に巻き込まれ、入院患者や病院職員ととともに監禁される。女を治療し、脱出を試みる中、病院の隠された秘密を知ることになる―。
作品は、若手人気俳優の坂口健太郎、永野芽郁主演で映画化され、全国公開されている。登場人物を演じる俳優を想像しながら読むと、物語がよりドラマ仕立てに感じられて面白い。
夜間の閉ざされた病院で繰り広げられる心理戦に引き込まれ、読書が苦手という人も一気に読めるミステリー小説だ。(川本敦史)
浅田次郎 著
海竜社
記者の仕事をしていると、いろいろな人と出会う。「縁」というものだろうが、それを分かりやすく説明してくれている本だと思う。
「私の小説やエッセーの原理となっている『人間の縁』の部分を抽出し再録した」と紹介している。「小説は人間の営みを描くもの。(中略)そこに『縁』という要素を加えると、無限の展開と可能性を持つドラマが生まれる」との考えを読めば、さすがはいくつもの名作を世に送り出した作家だと感嘆するばかりだ。
掲載している文章は、一つ一つが短くて読みやすく、余韻が残る。元の作品に手を伸ばすきっかけにもなる。「戦争に勝ちも負けもない」や「君の夢は?」と名付けた文章は特に印象深い。
他人との縁について、筆者は「妙な期待や警戒はせず、出会いを楽しんだ方が得」だと書いている。これからの人生で、不思議な縁を感じることがきっとある。それを前向きに捉えてほしいと願う。(中陽一)
『下流志向』
内田樹 著
講談社
学生の時に「もっと早く読んでおけばよかった」と思った本を紹介したい。
「下流志向」という言葉が目を引き、たまたま書店で手に取った。副題は「学ばない子どもたち 働かない若者たち」。「余計なお世話だ!」と思いつつ、内容が気になったので買って帰った。
著者は、子どもたちが自ら進んで学びから逃走しているという視点から、「学力低下は努力の成果」と考察している。若者の働かないという選択も同じく、それが合理的と感じているからだと説く。
そしてそれらは、商品としての教育サービス、消費主体としての私、自己決定・自己責任論といった世相が背景にあると論じている。
なるほど、と思わず膝を打つ考察が多く、社会の流れを俯瞰(ふかん)する大胆な考え方も面白い。「学び」とは何か。「労働」とは何か。そんな当たり前のことに目を向けるきっかけにもなった。(山中弥)
『仮面病棟』
知念実希人 著
実業之日本社文庫
著者は現役医師。文庫本の帯に書かれた「シリーズ累計100万部突破」「ベストセラー映画化」などの派手な宣伝文句につられて読んでみた。
物語の舞台は、寝たきりの患者が多い療養型病院。そこにピエロの仮面を被ったコンビニ強盗犯が侵入し、自らが撃って負傷させた女の治療を要求する。当直勤務のバイトをしていた外科医は事件に巻き込まれ、入院患者や病院職員ととともに監禁される。女を治療し、脱出を試みる中、病院の隠された秘密を知ることになる―。
作品は、若手人気俳優の坂口健太郎、永野芽郁主演で映画化され、全国公開されている。登場人物を演じる俳優を想像しながら読むと、物語がよりドラマ仕立てに感じられて面白い。
夜間の閉ざされた病院で繰り広げられる心理戦に引き込まれ、読書が苦手という人も一気に読めるミステリー小説だ。(川本敦史)