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2025年04月21日(月)

南方熊楠賞に松浦氏 魚類学で功績、国立科学博物館名誉研究員

南方熊楠賞の受賞が決まった松浦啓一氏(和歌山県田辺市提供)
南方熊楠賞の受賞が決まった松浦啓一氏(和歌山県田辺市提供)
 世界的な博物学者、南方熊楠(1867~1941)にちなみ、博物学や民俗学の優れた研究者に贈る第35回「南方熊楠賞」に、国立科学博物館名誉研究員で魚類学者の松浦啓一氏(76)が決まった。魚類を対象とした分類学や生物地理学などの分野で優れた業績を上げ、生物多様性研究の発展に役立つさまざまな活動をしてきたことが評価された。

 主催する和歌山県田辺市と南方熊楠顕彰会(会長=真砂充敏市長)が19日、発表した。

 松浦氏は、フグ目の分類学的研究やサンゴ礁に生息する魚類の生物地理学的研究に取り組み、多くの新種を発見するとともに、その分類体系の見直しを進めた。さらに、世界各地の魚類標本の調査を進める過程で、日本産魚類データベースの構築に取り組むなど、この分野の発展を支える基礎となる活動を展開してきた。

 また、自身の業績を数多くの論文や教科書、児童向けの図鑑などにまとめ、一般市民の魚類の多様性や生態への関心を高めるほか、後継研究者の育成の上でも大きな役割を果たしている。

 松浦氏は「熊楠翁にちなんだ賞を頂けることは私にとって望外の喜びであり、名誉なことと思っている。研究対象は異なるが、生物の分類や分布などを研究した点では熊楠翁と共通点がある。魚類はわれわれになじみ深い生き物だが、毎年、約300種の新種が報告されており、そのペースは減少していない。魚類の多様性を明らかにする研究をさらに続けなければならないと思っている」とコメントした。

 南方熊楠賞は、後半生を田辺市で過ごした熊楠の偉業をたたえ、1990年に制定した。例年、人文部門と自然科学部門から交互に選考している。受賞は松浦氏で38人目。

 授賞式は5月10日に紀南文化会館(田辺市新屋敷町)であり、松浦氏が「魚類の多様性研究 魚類分類学からデータベース構築まで」と題して記念講演する。先着200人で申し込みを受け付ける。

 問い合わせは、南方熊楠顕彰会事務局(0739・26・9909)へ。



 【松浦啓一(まつうら・けいいち)】 1978年、北海道大学大学院水産学研究科博士課程修了。東京大学大学院教授、国立科学博物館動物研究部長などを歴任。日本動物分類学会賞など受賞。2024年に瑞宝双光章。主な著書に「したたかな魚たち」(KADOKAWA)などがある。