和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2024年12月16日(月)

4期生がビジネス案発表 田辺市の「未来創造塾」修了式

ビジネスプランを発表する4期生(和歌山県田辺市東陽で)
ビジネスプランを発表する4期生(和歌山県田辺市東陽で)
 和歌山県田辺市と富山大学による人材育成事業「たなべ未来創造塾」第4期の修了式が8日、市文化交流センター「たなべる」(田辺市東陽)であった。農家や料理人、Iターン者らの塾生12人が、地域課題の解決につながるビジネス案を発表した。式には塾関係者をはじめ、県内外の自治体職員や企業経営者ら約120人が出席した。

 4期生は20~40代で、男性9人、女性3人。うちIターン者が5人いる。昨年7月に開講し、全13回の講義で地域の課題や資源、自社の強みの生かし方を学んだ。この日は1人3分でビジネス案をアピールした後、案を視覚的にまとめたポスターの前で来場者と質疑応答や商談をした。

 田辺市湊で飲食店を経営する岡野祐己さん(29)は地域のフードロスを使って弁当を作り、熊野古道を歩く観光客の朝食や農家の昼食に提供する仕組みを発表。深夜営業で生じる空き時間の活用や閑散期の売り上げ低下をカバーする狙いもある。

 Iターン者で、同市下屋敷町でシェアハウスを運営する三浦彰久さん(29)は、生きづらさを抱えた若者が、熊野古道歩きの体験などを通じ、自分の居場所を見つけるきっかけをつくる事業を企画。ニートの社会復帰、地域の人手不足解消を図る。自身もうつを発症した経験があり、当事者目線で支援したいという。

 その他、スポーツトレーナーが運営する体をケアする宿▽葬儀会社が身寄りのない高齢者の供養プランを生前に作って、死後の不安を解消するサービス▽羊毛フェルトを使って同市龍神村の地域資源に新たな魅力を加えるリメーク事業―など、塾生の特性を生かしたプランが次々登場した。

 塾長の真砂充敏市長は「地域課題の解決法がバラエティー豊かで驚いた。実現に進んでほしい。それには応援者をつくることも大事。地元の理解があってこそ、活動が根付く」とエールを送った。市は来年度、地域内外に「未来塾」の取り組みを発信する事業を計画している。

■つながる魅力

 「未来塾」の魅力は、個性的なプロジェクトだけではない。回を重ねるごとに増しているのが「つながる力」だ。

 異業種の塾生同士が連携することで、新たな課題に気付き、それがビジネスにつながっている。さらに行政、大学、金融機関など「塾」の構成機関はもちろん、地元の高校生や都市部の起業家らも巻き込んで活動は広がっている。

 例えば、神島高校との連携。林業関連のプロジェクトに取り組む塾生が、紀州材の普及や木育をテーマにした高校生のビジネスプラン作りを支援した。若者の県外流出が課題になっているが、生き生きと活動する大人に触れた高校生は、地元で暮らすことが将来の大きな選択肢になったのではないだろうか。

 「塾」は都市部ともつながっている。塾生に会いたいと、首都圏の青年らがたびたび田辺市を訪れている。人を通じて田辺に魅力を感じた彼らは、住んでいなくても農作業の手伝いや産品のPRで地域の力になってくれている。塾生と交流し、新たな事業を模索する起業家もいる。

 人口減少が進む中、地域づくりには多様な主体が協力する「総働」が欠かせない。世代や地域を超えて人をつなぐ「塾」はその核となる可能性を秘めている。(喜田義人)