和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2024年11月25日(月)

『明日カノ』作者、新連載はリアル路線からの脱却 情報収集はSNS…女性の悩み描く理由

をのひなお氏の新連載『パーフェクト グリッター』(C) Hinao Wono / Cygames,Inc.
をのひなお氏の新連載『パーフェクト グリッター』(C) Hinao Wono / Cygames,Inc.
 発行部数が累計で650万部以上を超えてドラマ化もされるなど、多くの支持を集めた『明日、私は誰かのカノジョ』(小学館)。デビュー作にして“代表作”とも呼べるヒット作を生み出した漫画家・をのひなお氏が、「サイコミ」で新連載『パーフェクト グリッター』を11月15日よりスタートさせた。ORICON NEWSでは、をの氏にインタビューを実施し、新連載のきっかけや2作目を送り出す心境、『明日カノ』支持の要因、女性の悩みやコンプレックスを描き続ける理由、新作への想いなどを聞いた。(取材・文:遠藤政樹/編集:櫻井偉明)

【画像】どんな漫画?女性2人の悩み描く 新連載『パーフェクト グリッター』第1話の数ページ

■ヒットしたデビュー作後の新作 不安だらけで「もうプレッシャーしかない」

 『パーフェクト グリッター』は、をの氏が新境地に挑むガールズサスペンス。郊外の実家に住み、日々SNSに写真をあげては少ない“いいね”を糧に暮らす友達のいない桃子(モモ)が、ある日、憧れのインフルエンサー・イチカからDMをもらって会うことに。思いもよらない出来事に有頂天になるモモだったが……というストーリー。

 大ヒットを記録した『明日カノ』から約1年。新連載までの期間について、をの氏は「早いですか?むしろ休みすぎて、このままだと人間ダメになると思った」と笑う。

 「ちょこちょこ仕事はしていましたけど、週刊連載のペースに比べたら毎日何もしてないようなもの。毎日寝て起きて寝て起きての繰り返しで、何か地獄のような感じでした(笑)」。

 そんな“早すぎる”リスタートを本人は、「前作の連載中は一刻も早く長期休みが欲しいと思っていたけど、いざ休みになって遊ぶぞとなったら1、2週間ぐらいで終わってしまった。連載中は死ぬほどつらいと感じていたけど、改めてどっちがいいかと聞かれると連載をやっていた方がいいかな。でも連載が始まったら休みたいとなると思います(笑)。ないものねだりですね」と語る。

 デビュー作『明日カノ』が反響を呼んだが、新連載を始めるにあたって「もうプレッシャーしかない。本当もうプレッシャーしかないですね」と率直な心境を口にする。

 「前作の連載中はコンスタントに読者さんの反応をもらえていました。今は誰の反応もないまま黙々と描く作業が続いていて、『これで合っているのか』『これでいいのか』といった読者さんの肌感もわからないまま描いている状況です。不安だけが募っていく感覚です」。

■未来を見据え、あえて『明日カノ』とは異なるジャンルにシフト

 待望の新連載が決まるまでの過程には、「本連載まで行きそうになったネタがボツになっていて(笑)。取材までしたのですが、どうしても1話が描けなかった。自分の中でビジョンが見えず気後れした部分がありました」と苦悩があったことを明かす。

 その後、担当編集とコミュニケーションを重ね、「どうしようと話す中で、お互いに『それ、いいね!』となって肉付けしていきました。『明日カノ』と違って、今回の方は話がわかりやすく大筋で決まっています。ストーリーが決まってキャラが決まって、連載前の打ち合わせ最後の方は実際に描きながら、テーマについて担当さんと話し合いました」と経緯を説明する。

 試行錯誤の末に決まったジャンルはガールズサスペンス。前作と異なる路線への挑戦には、自身のチャレンジ精神と担当編集の「リアル路線しか描けない漫画家にはなってほしくない」という想いが込められている。

 「私自身は『明日カノ』がリアル路線だったので次描くときもリアルに描かなきゃと気負っていました。前作はおかげさまでヒットしましたが1作目。だからこそ2作目で実験的なことを取り入れて可能性の幅というか引き出しを広げてほしい。リアルから外した展開を入れないと自分の首が締まるだけと担当さんに言われて納得し、決断しました」。

■キャラクターに自分の想いを話させるのは「違う」

 新たなジャンルに挑戦しつつも『明日カノ』でも描かれた“らしさ”も健在。特に第1話でモモがショッピングモールで同級生と遭遇した際にかけられる言葉は、多くの人が抱える悩みを象徴するかのようなセリフで印象的だ。

 「年齢とか性別関係なく、モモより長く生きている私でもたまにあるように、同じような気持ちになるときは他の人にもあるのではと思って描きました」と意図を説明する。

 強めのセリフを描く際の心構えについて「このキャラだったらこう思うというのを指標にしています。自分が思っていることをキャラに言わせるのは、私の中でまた違って。例えば同じ想いを抱えていたとしても、このキャラだったらこう言うかもと考えて描いています」。

 モモの憧れとして登場するイチカは、モモとの対比とも根っこの部分ではモモと同様の悩みを持つとも、いずれにも捉えられる描き方がされている。「イチカはイチカで同じような悩みだってあると思う。モモは置かれている状況が違うから『きっと私とは違う』と思うかもしれないですが、イチカだって孤独を感じることもあると思いながら描いています」と口にする。

 続けて、「今のところは多分イチカの方が描きやすいのかなと。重なるじゃないですけどわかる部分を多く描けるのはイチカな気がするという予想です。ただモモはモモで共感できるシーンもあるので、実はどっちもどっちなのかなとは思います」。

■『明日カノ』連載時はSNS感想見て「メンタルが落ちちゃう」 経験がいきた新連載

 新連載に向けた情報収集では、インスタグラムやX、作中に出てくるために入れたBeRealなど、さまざまなSNSを駆使。「いろんな人の考えが赤裸々に出てくるので、こういう考えの人もいるなとか、自分には全くない発想の意見とか書かれているとプロフィールを見に行ってその人の生い立ちを想像しちゃいます」という。

 『明日カノ』連載時は作品の感想に振り回された経験も。「読むとメンタルが落ちちゃうので、メンタルが元気なときは見てダメな場合は見ないようにとは思っていました。それでも気になって見ちゃって(苦笑)。担当さんからは振り回されたら良くないから見るなと釘を刺されました」と明かし、「その経験が新作にいきているかも」というポジティブな思考に変換する。

 今作のテーマを、「人は多面的だし、裏も表もあるし、その人にしか見せない顔もある。そういうことを描きたい」とをの。女性の悩みやコンプレックスが見え隠れし、『明日カノ』にも通じるような要素も盛り込まれている。

 そうした作品を描き続ける理由を、「根暗だからですかね」と笑いつつ、「私は人と上手く関係を築けてきたかというと、全然そうではない人間なので、テーマにしやすい部分もあるのかな」と分析する。

 「人付き合いを続けるのは結構大変という想いがあるし、ましてや今だとSNSもあって余計に上手くいかないことも多い。インスタの“親しい友達”を外されたとか、ストーリーの足跡がついている、ついていないとか、今の若い子たちは大変だろうなと思いながら描いています」。

 さらに「明るい漫画、みんなが読むような傑作の漫画でも、ハッピーエンドのシーンよりも途中でキャラがもがき苦しんだり、何かを変えたくても変えられないと悩んだりしている姿を読む方が好き」とにっこり。「明るくキラキラした楽しく読める漫画を描いてと言われたら、すごく難しいかもしれないです」と言ってほほ笑む。

■『明日カノ』ヒットの要因は?

 デビュー作にしてヒットを記録した『明日カノ』。自身は支持された理由をどう捉えているのだろうか。

 「出てくる女性たちはレンタル彼女やっていたり整形していたり、クセ強い子たちばかりですけど、その子たちの感情はレン彼をやっていなくても、整形していなくても、ホストに通っていなくてもわかると思う。そういう部分を描けたこと、共感してもらえたことが良かったのかなと思います」。

 今後の漫画家としての展望を聞くと、「『明日カノ』みたいな作品を描かせたらすごくいいか、オールマイティに描ける。どちらかでも言われるようになれたら本望です。まだ2作目なので、今後は何を描けるかは想像できないですが、いろいろやりたい気持ちはあります」と思いをはせる。

 衝撃的なシーンから開幕する新作。「連載が決まってフィールドワークした渋谷の夜の街の雰囲気も感じてほしいし、何が起きるかわからない予測不可能な物語を楽しんでほしい。」と見どころを語った。

(C) Hinao Wono / Cygames,Inc.

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提供:oricon news