和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2024年11月26日(火)

統合失調症に対する新規治療方法「間欠的シータバースト刺激」の有用性を検証

~陰性症状や認知機能障害、うつ症状、不安症状に有効であることが明らかに~

藤田医科大学(愛知県豊明市)医学部精神神経科学講座の岸太郎教授、佐久間健二講師、岩田仲生教授、東京慈恵会医科大学医学部精神医学講座の鬼頭伸輔教授らの研究グループは、統合失調症※1の陰性症状や認知機能障害に対する左背外側前頭前野※2への間欠的シータバースト刺激※3の有用性を、系統的レビューとネットワークメタ解析※4を用いて検証しました。この研究によって、左背外側前頭前野への間欠的シータバースト刺激は、統合失調症の陰性症状、認知機能障害、うつ症状や不安症状に有効で、かつ安全性にも優れていることが明らかになりました。これらの成果により、今後、左背外側前頭前野への間欠的シータバースト刺激が統合失調症に対する治療方法になる可能性があります。
本研究成果は、American Medical Association (United States・Chicago)の学術ジャーナル「JAMA Network Open」(2024 Oct 1;7(10):e2441159)で発表され、併せてオンライン版が2024年10月24日に公開されました。
論文URL : https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2825296


<研究成果のポイント>

既存の統合失調症治療薬である抗精神病薬は、統合失調症の陽性症状には有効ですが、陰性症状や認知機能障害への効果は限定的であり、これらの症状に対する新たな治療方法の開発が精神科医療の喫緊の課題でした。
これまで複数の研究で、統合失調症の陰性症状や認知機能障害に対する左背外側前頭前野への間欠的シータバースト刺激の有用性が検討されてきましたが、その結果は一致していませんでした。
そこで私たちは、系統的レビューとネットワークメタ解析を用いて既報の研究データを統合して解析し、統合失調症の陰性症状や認知機能障害に対する左背外側前頭前野への間欠的シータバースト刺激の有用性を検証しました。
この研究によって、左背外側前頭前野への間欠的シータバースト刺激は、統合失調症の陰性症状、認知機能障害、うつ症状や不安症状に有効で、かつ安全性にも優れていることが明らかになりました。
今後、同治療が統合失調症に対する治療方法のひとつになることが期待されます。



[画像1]https://digitalpr.jp/simg/2299/98637/500_255_20241108123437672d86cd13f10.jpg




<背景および研究手法>
現在、統合失調症には抗精神病薬を用いた薬物治療が行われることが一般的です。しかし、抗精神病薬は陽性症状には有効である一方、陰性症状や認知機能障害への効果は限定的であるため、これらの症状に対する新たな治療方法の開発が精神科医療の喫緊の課題でした。最近、様々な精神疾患に対する新たな治療方法として、反復経頭蓋磁気刺激療法※5が注目されています。現在、日本ではうつ病に対してのみ反復経頭蓋磁気刺激療法が行われていますが、諸外国においては、統合失調症の陰性症状や認知機能障害に対する左背外側前頭前野への間欠的シータバースト刺激の有用性が検討されています。しかし、各研究の結果は一致していませんでした。そこで私たちは系統的レビューとネットワークメタ解析を用いて既報の研究データを統合し、統合失調症の陰性症状や認知機能障害に対する左背外側前頭前野への間欠的シータバースト刺激の有効性と安全性を検証しました。


<研究成果>
この研究によって、左背外側前頭前野への間欠的シータバースト刺激は、統合失調症の陰性症状、認知機能障害、うつ症状や不安症状に有効であることが明らかになりました。また、同治療方法は、安全性にも優れていることが分かりました。


<今後の展開>
現在、日本ではうつ病に対してのみ反復経頭蓋磁気刺激療法が行われていますが、今後、左背外側前頭前野への間欠的シータバースト刺激が統合失調症に対する治療方法のひとつになることが期待されます。また、私たちは双極症うつ病のうつ症状にも左背外側前頭前野への間欠的シータバースト刺激が有効であろうことを見出しています[引用文献1, 2]。統合失調症の陰性症状と様々な精神疾患で認められるうつ症状は似た症状であり、左背外側前頭前野への間欠的シータバースト刺激は、疾患の垣根を越えて、このような症状に有効である可能性があります。

[画像2]https://digitalpr.jp/simg/2299/98637/300_297_20241108123437672d86cd10997.jpg
反復経頭蓋骨磁気刺激療法




[引用文献]
1. Kishi T, et al., Theta burst stimulation for depression: a systematic review and network and pairwise meta-analysis. Mol Psychiatry. 2024 in press
2. Kishi T, et al., Repetitive Transcranial Magnetic Stimulation for Bipolar Depression: a Systematic Review and Pairwise and Network Meta-analysis. Mol Psychiatry. 2024 Jan;29(1):39-42.


<用語解説>
※1 統合失調症:
約100人に1人が罹患する精神疾患で、陽性症状(幻聴や妄想など)、陰性症状(意欲の低下やひきこもりなど)や認知機能障害(集中力・持続力の低下など)が主要な症状です。

※2 左背外側前頭前野:
前頭葉の外側にある、思考や意欲を司る部位です。

※3 間欠的シータバースト刺激:
通常うつ病に用いられている高頻度刺激方法より治療時間を短縮することができる反復経頭蓋磁気刺激療法のひとつです。

※4系統的レビューとネットワークメタ解析:
複数の研究のデータを統合して解析する研究手法で、一般的に、系統的レビューとネットワークメタ解析から作り出された研究結果の質は高いと評価されています。

※5反復経頭蓋磁気刺激療法:
脳の特定の部位に繰り返し磁気刺激を与え、同部位の活動を変化させることにより、精神症状の緩和を目指す治療方法です。


<文献情報>
●論文タイトル
Theta Burst Stimulation Protocols for Schizophrenia: A Systematic Review and Network Meta-Analysis

●著者
岸 太郎1, 生田 敏一2, 佐久間 健二1, 濱中 駿1, 西井 保文1, 波多野 正和3, 鬼頭 伸輔4, 岩田 仲生1

●所属
1 藤田医科大学 医学部 精神神経科学講座
2 ミシシッピ大学 コミュニケーション障害科
3 藤田医科大学 医学部 薬物治療情報学
4 東京慈恵会医科大学 医学部 精神医学講座

●掲載誌
JAMA network open

●掲載日
2024年10月24日(オンライン版)

●DOI
10.1001/jamanetworkopen.2024.41159



本件に関するお問合わせ先
学校法人 藤田学園 広報部 TEL:0562-93-2868 e-mail:koho-pr@fujita-hu.ac.jp


プレスリリース詳細へ https://digitalpr.jp/r/98637
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