和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2024年11月24日(日)

全盲の精神科医、「SNS」の“心への悪影響”に言及 『目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったこと』

全盲の医師・福場将太さん
全盲の医師・福場将太さん
 片時も離さずスマホを持ち歩き、SNSをずっとチェックしている。そんな生活に染まっている人は少なくない。一方で、SNSに疲れてしまっている人もいるだろう。徐々に視野が狭まる病によって32歳で完全に視力を失いながらも、10年以上にわたって精神科医として活動する精神科医の福場将太さんは「SNSって見る必要ありますか?」と投げかける。初の著書『目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったこと』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成して紹介する。

【画像】鉄拳がイラスト、福場将太さんの似顔絵

■「みんな、見なくてもいいものを見過ぎているのではないか?」

 「視覚障がい者」は「情報障がい者」だと言われます。それは目が不自由だと必要な情報が得にくいからです。

 確かに空港や駅で電光掲示板が見えなかったり、町内会の回覧板が読めなかったりで、情報不足になることはよくあります。情報は社会で生きていく上で必要な栄養。栄養不足はお体によくありませんよね。ただ忘れてはならないのは、栄養過多でもお体に悪いということ。人間は低栄養でも過栄養でも健康を害してしまうのです。しかも、お体だけでなく、心の健康まで。

 私が近年ひしひしと感じているのは情報の過剰摂取、「みんな、見なくてもいいものを見過ぎているのではないか?」ということです。目が見えるおかげで色々な情報がキャッチできる、でもキャッチし過ぎて具合が悪くなっている人、本当に必要な情報を見落としている人が増えています。

 例えば目が見えない私の場合、インターネットで1つのサイトを開いて音声読み上げソフトで聞いてみると、広告だったりお薦めだったりの読み上げが延々と続き、見たかった記事に辿り着くまでに何分もかかることがよくあります。目でこのページを見ている人からすれば、これだけの情報が一気に視界に飛び込んでくるわけで、とんでもない負担だと思います。

 「情報化社会」と叫ばれてもうどれくらい経つでしょう。インターネットの普及で数え切れない情報が溢れ返っている昨今。欲しい情報がたくさん手に入るのはメリットですが、溢れ返り過ぎて見なくてもいい情報、見たくない情報まで飛び込んできてしまうのはデメリットです。

 おぞましい事件や深刻な不況を伝える報道。目を覆いたくなる災害や戦争の映像。もちろん社会情勢の把握は大切ですが、過剰に演出された情報は不必要に不安や怒りをあおります。

 そして今や当たり前となったSNS。もちろんそれによって懐かしい人と再会できたり、仲間の輪が広がったりと良い面もあることは知っているのですが、私はどうしても心に悪影響を与えている面に着目してしまいます。

 自分は独りぼっちなのに、SNSを見ると今楽しく仲間とパーティをやっている人たちがいる。自分は貧しくてひいひい言っているのに、SNSを見ると高級外車を乗り回している同世代がいる。そんな幸せそうな投稿にストレスを感じてしまう人は少なくないと思います。

 また逆に、死にたい気持ちや消えたい気持ちの書き込み、または実際に手首を切る映像や薬をあおる映像の投稿もあったりして、やはり見た人はストレスを感じてしまうでしょう。

 精神科医としても視覚障がい者としてもあえて問います。「それって見る必要ありますか?」目が見えない私はSNSを一切見ませんが、特に支障なく生活しています。だからSNSは絶対に必要な情報ではないというのがまず一点。

 そしてもう1つ、演出された嘘の情報かもしれないこともお忘れなく。普通のことを普通に投稿したって意味がない。パーティの映像なら楽しさを、高級外車の投稿ならリッチさをアピールしてなんぼ。写真は等身大ではなく、もしかしたら撮影を終えた瞬間に暗い顔になってパーティは盛り下がっているのかもしれない、高級外車は展示品かもしれないのです。私はSNSの全面禁止を訴えたいわけではありませんが、嘘や演出も過剰に含んだメディアであることはどうかお忘れなく。

 視覚情報というものはどうしてもインパクトが強く、信ぴょう性が高いような気がしてしまいますが、それは本当に気がするだけ。見極めなければ簡単に騙されてしまいます。真に受けやすい人、見ることでストレスのほうが多い人は、無理して見なくてよいと思います。

 また、SNSに悲しみや苦しみの投稿をしている方。もしかしたらそれは演出ではなくて本当の叫び、心からのSOSなのかもしれません。ただSNSは本物と嘘の見分けがつきにくいメディア。冗談の「助けて」も本心の「助けて」も同じに見えて、せっかくのメッセージが埋もれてしまいます。

 もしあなたが本当に助けを求めているのなら、SNSよりも生身の人間にすがってほしいと思います。もしかしたら周囲の人間が誰も信用できなくてSNSに書き込んだという方もおられるかもしれませんが、そこは真剣に助けを求める場所としては不適切です。

 運良く誠実な支援者に届くこともあれば、運悪くそれを利用しようとする悪人に届くこともある。大変かもしれませんが、あなたの目で見た生身の人間に、あなたの生身の手を伸ばしてほしいと願います。

 視覚障がいのおかげで、仕事上で話は聞いていても、直接SNSを見たことはない私です。井の中の蛙かもしれませんが、なんとなくSNSの中のほうが井戸の中よりも狭いような気がします。

 くり返しますが、SNSに触れなくても私には何の支障もありません。依存症の件でもお話ししましたが、SNSがあなたの憩いの居場所なら良いのですが、どうもそうではなくなってきた、健康や生活に支障を及ぼしてきたと思ったら、新しい居場所へお引越しするのも選択肢です。

 栄養も情報も適切に摂取してこそのもの。もうお腹いっぱいで吐きそう、お腹を壊している、それくらい情報過多に苛さいなまれているのなら、思い切って目を閉じてみましょう。そう、シャットダウン。情報の8割が視覚から飛び込んでくるのなら、目を閉じれば過剰摂取は抑えられます。たった1日やってみるだけでも全然違いますよ。

 ネットから離れた世界には平穏な時間が流れています。いや、平穏どころか、本当に大切な情報がそこにいくつもあります。スマホをダラダラ見ていたことで見逃していた家族の表情。気づかなかった季節の移ろい。誰かの優しさ。

 スマホの画面から、少し視点をずらせば、愛する人の笑顔があるかもしれません。子どもたちのSOSサインがあるかもしれません。ネット上の情報と異なり、家族の大切な情報はその時にしか得られません。後からアーカイブ配信されません。見逃してはいけないのはこちらです。

 強制的に見せられる過剰な情報。見えているからこそ見過ぎている不必要な情報。そのために見落としてしまう、見失ってしまう本当に大切な情報。あなたの情報摂取量は適切か、これを機に見直してみてください。

■福場将太(ふくば・しょうた)
1980年広島県呉市生まれ。医療法人風のすずらん会 美唄すずらんクリニック副院長。広島大学附属高等学校卒業後、東京医科大学に進学。在学中に、難病指定疾患「網膜色素変性症」を診断され、視力が低下する葛藤の中で医師免許を取得。2006年、現在の「江別すずらん病院」(北海道江別市)の前身である「美唄希望ヶ丘病院」に精神科医として着任。32歳で完全に失明するが、それから10年以上経過した現在も、患者の顔が見えない状態で精神科医として従事。支援する側と支援される側、両方の視点から得た知見を元に、心病む人たちと向き合っている。また2018年からは自らの視覚障がいを開示し、「視覚障害をもつ医療従事者の会 ゆいまーる」の幹事、「公益社団法人 NEXTVISION」の理事として、目を病んだ人たちのメンタルケアについても活動中。ライフワークは音楽と文芸の創作。

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