セルロースの基本単位である二糖を使って、光で切断できるマイクロ繊維を開発
2024年9月10日
岐阜大学
セルロースの基本単位である二糖を使って、 光で切断できるマイクロ繊維を開発
【本研究のポイント】
・水中で自己集合しマイクロ繊維を形成する二糖誘導体を開発しました。
・マイクロ繊維を形成している二糖誘導体の分子集合様式を原子レベルで解明しました。
・構築したマイクロ繊維は光照射によって切断できることを実証しました。
【研究概要】
岐阜大学大学院 自然科学技術研究科 生命科学・化学専攻の奥村 美央瑠さん(令和5年度修了生)、大富 拓さん(令和3年度修了生)、工学部 化学・生命工学科の池田 将 教授らの研究グループと、岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 (iGCORE) の山口 英利子 研究員、河村 奈緒子 助教、安藤 弘宗 教授らの研究グループは、マイクロ繊維を形成する二糖誘導体を分子設計•合成し、名古屋大学大学院 理学研究科の河野 慎一郎 講師、山形大学大学院 有機材料システム研究科の片桐 洋史 教授、株式会社リガクの佐藤 寛泰氏と共同で、マイクロ繊維を形成している二糖誘導体の分子集合様式を原子レベルで解明しました。さらに、得られたマイクロ繊維に光を照射することで切断できることを実証しました。
本研究成果は、学術雑誌「Communications Materials」†に、日本時間2024年9月10日にオンライン版 (Open Access) で発表されました。
†Communications Materialsは、ネイチャー・ポートフォリオが提供する選りすぐりのオープンアクセス・ジャーナルで、材料科学の全分野における高品質な論文・総説・論評を出版します (出版社HPから引用:最終確認日2024年9月9日) 。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202409096055-O6-KJ7kqa6G】
図1 研究概要 セルロース〔多糖〕の基本単位であるセロビオース〔二糖〕を誘導化したcellobiose(oNB)2-pNB分子は、水溶液中で自己集合しマイクロ繊維を形成します。本研究では、マイクロ繊維を形成しているcellobiose(oNB)2-pNB分子の集合様式を原子レベルで解明し、さらに得られたマイクロ繊維が光照射によって切断できることを実証しました。
【研究背景】
生物にとって重要なエネルギー源となるブドウ糖 (グルコース〔単糖〕) が、直線的に繋がったセルロース〔多糖〕は、地球上で最も多く存在する炭水化物です。植物質のおよそ三分の一がセルロースでできているとも言われます。セルロースを含めた糖鎖は、タンパク質、核酸と同じ生体分子ですが、その分子構造の多様性に特徴があります。例えば、糖鎖の連結様式には位置や配向がそれぞれ複数あり、グルコースだけに限定した二糖でさえ11種類もの可能性があります (図2) 。これは、同じアミノ酸を2分子連結したジペプチドでは、基本的に1種類の可能性しかないこととの大きな違いです。さらに、核酸やタンパク質は分岐構造をほとんど持ちませんが、糖鎖は分岐していることが一般的です。糖鎖の構成単位となる単糖には複数のキラル中心注1 や環状構造体も存在するので、グルコースに制限しない二糖以上の糖鎖ともなると、その可能性は膨大なものになることが容易に想像できます。このような糖鎖を選択的に作り分ける合成化学、さらに糖鎖分子を望みの機能や構造をもった材料に組み立てる分子集合化学の進展は、挑戦的な学術課題の1つといえます。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202409096055-O7-wVOT7Ytb】
図2 分子設計 セロビオース〔二糖〕誘導体型の自己集合性分子cellobiose(oNB)2-pNBの分子設計と関連する背景
池田教授らの研究グループは、水中で自己集合する分子を設計・合成し、それらの分子を自発的に集合させることによって得られる材料の開発に関する研究を進めています。糖鎖を研究することで生命の本質 (コア) の理解を目指す、糖鎖生命コア研究所に参画した後、単糖の1つであるグルコサミンから短工程で、還元反応に応答する自己集合性分子を開発した実績もあります 〖2021年7月27日プレスリリースを参照: https://www.gifu-u.ac.jp/news/research/2021/07/entry27-10925.html〗。本研究では、糖鎖の精密な合成化学を専門とする糖鎖生命コア研究所の河村助教・安藤教授らの研究グループ 〖2019年5月20日プレスリリースなど参照: https://www.gifu-u.ac.jp/news/research/2019/05/entry20-7136.html〗と共同で、刺激応答性を示す自己集合性セロビオース注2〔二糖〕誘導体を分子設計し、その化学合成を開拓するところから研究をスタートさせました (図2) 。
【研究成果】
前述の背景を念頭に、2分子のグルコースがβ1,4-結合で直線的に繋がった二糖であるセロビオースを母核とする新たな分子cellobiose(oNB)2-pNB (図2) を設計し、その化学合成を達成しました。次に、得られたcellobiose(oNB)2-pNBの水中での分子集合挙動を、水溶液を加熱後に速度制御して冷却する実験操作で調べたところ、冷却速度に依存して異なるマイクロ構造体が得られることを発見しました。具体的には、図3Aの顕微鏡画像に示しているように、ゆっくり冷却すると、直径が数µm、長さが100 µm以上のマイクロ繊維注3 が得られることを見出しました。一方、室温まで素早く冷却すると球状構造体が得られた後、徐々にマイクロ繊維へと構造変化することも明らかにしました (図3B) 。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202409096055-O8-2F8xbtJ6】
図3 マイクロ繊維の形成機構と顕微鏡画像 (A) ゆっくり冷却 (1分間に5 ºCの速度) したときに得られるマイクロ繊維の顕微鏡画像、(B) 急冷 (1分間に30 ºCの速度) したときに得られる球状構造体と、そのまま室温静置することで得られたマイクロ繊維の顕微鏡画像
得られたマイクロ繊維の構造を解明するため、各種顕微鏡観察、および単結晶X線構造解析、さらには電子回折構造解析注4 を行いました。単結晶X線構造解析から、cellobiose(oNB)2-pNB分子の集合様式の1つが明らかになりました。さらに、株式会社リガクと日本電子株式会社が共同開発した最新の電子回折装置であるXtaLAB Synergy-EDを用いた構造解析によって、マイクロ繊維を構成しているcellobiose(oNB)2-pNBの分子集合様式を、原子レベルで、直接解明することに成功しました。構造解析の結果を図4Aに示すように、cellobiose(oNB)2-pNBは、分子の長軸がマイクロ繊維の長軸に対して直交 (クロス) する様式で、秩序高く分子集合していることを解き明かしました。さらに、得られた水中のマイクロ繊維にUV光を照射すると、分子設計通り切断反応が進行することで分子の集合力が低下して (図4B) 溶けること、さらには光照射の位置を制限すると切断できることをそれぞれ実証しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202409096055-O9-fexQ7vhE】
図4 マイクロ繊維の構造解析と光応答 (A) 電子回折構造解析から明らかになったマイクロ繊維を構成するcellobiose(oNB)2-pNBの分子集合様式、(B) 領域を制限して光照射する前後の顕微鏡画像と光応答のメカニズム
【今後の展開】
繊維状構造体はものづくりの要となる用途範囲の広い素材の一つといえます。今回開発した、髪の毛の10分の1程度の太さのマイクロ繊維は、光照射によって切断できる性能も有しており、今後のさらなる研究と用途開発によって有用な材料の開発につながると期待できます。
【謝辞】
本研究の一部は、日本学術振興会 科学研究費補助金 (基盤研究(B) No. 23H01815)、iGCORE 共同研究促進支援、JSPS Core-to-Coreプログラム (JPJSCCA20200007)、JST CREST (JPMJCR18H2) の支援を受けて行われました。オープンアクセス化に関して、オープンアクセス加速化事業(文部科学省補助金)(東海国立大学機構 岐阜大学)の支援を受けました。
【用語解説】
注1 キラル中心
不斉原子または中心とも呼ばれ、分子のキラリティーを生じさせる元となる原子。代表的なものは、異なる4つの置換基に共有結合している炭素原子。図2の環状グルコースには、最大5つの不斉炭素原子が存在する。
注2 セロビオース
図2に化学構造を示すセルロースの基本単位となる二糖。直線的に2分子連結(β-1,4結合とよばれる)したグルコースからなる。糖類としてはやや水に溶けにくい。わずかな甘みがあるが難消化性で分解されず大腸に到達し、腸内細菌叢で資化される。自然界にはトウモロコシや松葉に極微量存在する。
注3 マイクロ繊維
幅 (直径) が数µm (10-6 m, マイクロメートル, ミクロン) の繊維。一般的な髪の毛の幅 (直径)は40 µmから100 µm。本研究で開発したマイクロ繊維は、髪の毛の10分の1程度の太さに相当する。
注4 電子回折構造解析
結晶性の試料に電子線を照射することで得られる回折パターンから分子構造を決定する技術。X線結晶構造解析と比較して小さな結晶の試料でも回折パターンを得ることができるが、結晶の厚みが適度に薄い必要がある。
【論文情報】
雑誌名:Communications Materials, 2024, 5, DOI: 10.1002/10.1038/s43246-024-00622-0. (Sep 10th, 2024, in press)
論文タイトル:Photodegradable glyco-microfibers fabricated by the self-assembly of cellobiose derivatives bearing nitrobenzyl groups
著者:Bioru Okumura, Eriko Yamaguchi, Naoko Komura*, Taku Ohtomi, Shin-ichiro Kawano, Hiroyasu Sato, Hiroshi Katagiri, Hiromune Ando*, Masato Ikeda*
DOI: 10.1038/s43246-024-00622-0
【プレプリント】
プレプリントサーバ:ChemRxiv, 2024 (Jan 18, 2024, Version 1).
タイトル:Photodegradable glyco-microfibers fabricated by the self-assembly of cellobiose derivatives bearing nitrobenzyl groups
著者:Bioru Okumura, Eriko Yamaguchi, Naoko Komura*, Taku Ohtomi, Shin-ichiro Kawano, Hiroshi Katagiri, Hiromune Ando*, Masato Ikeda*
DOI: 10.26434/chemrxiv-2024-jg4p5
【研究者プロフィール】
奥村 美央瑠(筆頭著者)
岐阜大学大学院 自然科学技術研究科 生命科学・化学専攻 令和5年度修了生
山口 英利子(筆頭著者)
岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 糖鎖分子科学研究センター 研究員
大富 拓
岐阜大学大学院 自然科学技術研究科 生命科学・化学専攻 令和3年度修了生
河村 奈緒子(責任著者)
岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 糖鎖分子科学研究センター 助教
河野 慎一郎
名古屋大学大学院 理学研究科 講師
片桐 洋史
山形大学大学院 有機材料システム研究科 教授
佐藤 寛泰
株式会社リガク アプリケーションラボ 研究員
安藤 弘宗(責任著者)
岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 糖鎖分子科学研究センター 副研究所長•教授
岐阜大学 医学部附属量子医学イノベーションリサーチセンター (兼任)
池田 将(責任著者)
岐阜大学 工学部 化学・生命工学科 生命化学コース 教授
岐阜大学大学院 自然科学技術研究科 (兼任)
岐阜大学大学院 連合創薬医療情報研究科 (兼任)
岐阜大学 Guコンポジット研究センター (兼任)
岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 (iGCORE) 糖鎖分子科学研究センター (iGMOL) (兼任)
岐阜大学 高等研究院One Medicineトランスレーショナルリサーチセンター (COMIT) (兼任)
岐阜大学 医学部附属量子医学イノベーションリサーチセンター (兼任)
名古屋大学 未来社会創造機構 ナノライフシステム研究所 (兼任)
プレスリリース詳細へ https://kyodonewsprwire.jp/release/202409096055
岐阜大学
セルロースの基本単位である二糖を使って、 光で切断できるマイクロ繊維を開発
【本研究のポイント】
・水中で自己集合しマイクロ繊維を形成する二糖誘導体を開発しました。
・マイクロ繊維を形成している二糖誘導体の分子集合様式を原子レベルで解明しました。
・構築したマイクロ繊維は光照射によって切断できることを実証しました。
【研究概要】
岐阜大学大学院 自然科学技術研究科 生命科学・化学専攻の奥村 美央瑠さん(令和5年度修了生)、大富 拓さん(令和3年度修了生)、工学部 化学・生命工学科の池田 将 教授らの研究グループと、岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 (iGCORE) の山口 英利子 研究員、河村 奈緒子 助教、安藤 弘宗 教授らの研究グループは、マイクロ繊維を形成する二糖誘導体を分子設計•合成し、名古屋大学大学院 理学研究科の河野 慎一郎 講師、山形大学大学院 有機材料システム研究科の片桐 洋史 教授、株式会社リガクの佐藤 寛泰氏と共同で、マイクロ繊維を形成している二糖誘導体の分子集合様式を原子レベルで解明しました。さらに、得られたマイクロ繊維に光を照射することで切断できることを実証しました。
本研究成果は、学術雑誌「Communications Materials」†に、日本時間2024年9月10日にオンライン版 (Open Access) で発表されました。
†Communications Materialsは、ネイチャー・ポートフォリオが提供する選りすぐりのオープンアクセス・ジャーナルで、材料科学の全分野における高品質な論文・総説・論評を出版します (出版社HPから引用:最終確認日2024年9月9日) 。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202409096055-O6-KJ7kqa6G】
図1 研究概要 セルロース〔多糖〕の基本単位であるセロビオース〔二糖〕を誘導化したcellobiose(oNB)2-pNB分子は、水溶液中で自己集合しマイクロ繊維を形成します。本研究では、マイクロ繊維を形成しているcellobiose(oNB)2-pNB分子の集合様式を原子レベルで解明し、さらに得られたマイクロ繊維が光照射によって切断できることを実証しました。
【研究背景】
生物にとって重要なエネルギー源となるブドウ糖 (グルコース〔単糖〕) が、直線的に繋がったセルロース〔多糖〕は、地球上で最も多く存在する炭水化物です。植物質のおよそ三分の一がセルロースでできているとも言われます。セルロースを含めた糖鎖は、タンパク質、核酸と同じ生体分子ですが、その分子構造の多様性に特徴があります。例えば、糖鎖の連結様式には位置や配向がそれぞれ複数あり、グルコースだけに限定した二糖でさえ11種類もの可能性があります (図2) 。これは、同じアミノ酸を2分子連結したジペプチドでは、基本的に1種類の可能性しかないこととの大きな違いです。さらに、核酸やタンパク質は分岐構造をほとんど持ちませんが、糖鎖は分岐していることが一般的です。糖鎖の構成単位となる単糖には複数のキラル中心注1 や環状構造体も存在するので、グルコースに制限しない二糖以上の糖鎖ともなると、その可能性は膨大なものになることが容易に想像できます。このような糖鎖を選択的に作り分ける合成化学、さらに糖鎖分子を望みの機能や構造をもった材料に組み立てる分子集合化学の進展は、挑戦的な学術課題の1つといえます。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202409096055-O7-wVOT7Ytb】
図2 分子設計 セロビオース〔二糖〕誘導体型の自己集合性分子cellobiose(oNB)2-pNBの分子設計と関連する背景
池田教授らの研究グループは、水中で自己集合する分子を設計・合成し、それらの分子を自発的に集合させることによって得られる材料の開発に関する研究を進めています。糖鎖を研究することで生命の本質 (コア) の理解を目指す、糖鎖生命コア研究所に参画した後、単糖の1つであるグルコサミンから短工程で、還元反応に応答する自己集合性分子を開発した実績もあります 〖2021年7月27日プレスリリースを参照: https://www.gifu-u.ac.jp/news/research/2021/07/entry27-10925.html〗。本研究では、糖鎖の精密な合成化学を専門とする糖鎖生命コア研究所の河村助教・安藤教授らの研究グループ 〖2019年5月20日プレスリリースなど参照: https://www.gifu-u.ac.jp/news/research/2019/05/entry20-7136.html〗と共同で、刺激応答性を示す自己集合性セロビオース注2〔二糖〕誘導体を分子設計し、その化学合成を開拓するところから研究をスタートさせました (図2) 。
【研究成果】
前述の背景を念頭に、2分子のグルコースがβ1,4-結合で直線的に繋がった二糖であるセロビオースを母核とする新たな分子cellobiose(oNB)2-pNB (図2) を設計し、その化学合成を達成しました。次に、得られたcellobiose(oNB)2-pNBの水中での分子集合挙動を、水溶液を加熱後に速度制御して冷却する実験操作で調べたところ、冷却速度に依存して異なるマイクロ構造体が得られることを発見しました。具体的には、図3Aの顕微鏡画像に示しているように、ゆっくり冷却すると、直径が数µm、長さが100 µm以上のマイクロ繊維注3 が得られることを見出しました。一方、室温まで素早く冷却すると球状構造体が得られた後、徐々にマイクロ繊維へと構造変化することも明らかにしました (図3B) 。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202409096055-O8-2F8xbtJ6】
図3 マイクロ繊維の形成機構と顕微鏡画像 (A) ゆっくり冷却 (1分間に5 ºCの速度) したときに得られるマイクロ繊維の顕微鏡画像、(B) 急冷 (1分間に30 ºCの速度) したときに得られる球状構造体と、そのまま室温静置することで得られたマイクロ繊維の顕微鏡画像
得られたマイクロ繊維の構造を解明するため、各種顕微鏡観察、および単結晶X線構造解析、さらには電子回折構造解析注4 を行いました。単結晶X線構造解析から、cellobiose(oNB)2-pNB分子の集合様式の1つが明らかになりました。さらに、株式会社リガクと日本電子株式会社が共同開発した最新の電子回折装置であるXtaLAB Synergy-EDを用いた構造解析によって、マイクロ繊維を構成しているcellobiose(oNB)2-pNBの分子集合様式を、原子レベルで、直接解明することに成功しました。構造解析の結果を図4Aに示すように、cellobiose(oNB)2-pNBは、分子の長軸がマイクロ繊維の長軸に対して直交 (クロス) する様式で、秩序高く分子集合していることを解き明かしました。さらに、得られた水中のマイクロ繊維にUV光を照射すると、分子設計通り切断反応が進行することで分子の集合力が低下して (図4B) 溶けること、さらには光照射の位置を制限すると切断できることをそれぞれ実証しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202409096055-O9-fexQ7vhE】
図4 マイクロ繊維の構造解析と光応答 (A) 電子回折構造解析から明らかになったマイクロ繊維を構成するcellobiose(oNB)2-pNBの分子集合様式、(B) 領域を制限して光照射する前後の顕微鏡画像と光応答のメカニズム
【今後の展開】
繊維状構造体はものづくりの要となる用途範囲の広い素材の一つといえます。今回開発した、髪の毛の10分の1程度の太さのマイクロ繊維は、光照射によって切断できる性能も有しており、今後のさらなる研究と用途開発によって有用な材料の開発につながると期待できます。
【謝辞】
本研究の一部は、日本学術振興会 科学研究費補助金 (基盤研究(B) No. 23H01815)、iGCORE 共同研究促進支援、JSPS Core-to-Coreプログラム (JPJSCCA20200007)、JST CREST (JPMJCR18H2) の支援を受けて行われました。オープンアクセス化に関して、オープンアクセス加速化事業(文部科学省補助金)(東海国立大学機構 岐阜大学)の支援を受けました。
【用語解説】
注1 キラル中心
不斉原子または中心とも呼ばれ、分子のキラリティーを生じさせる元となる原子。代表的なものは、異なる4つの置換基に共有結合している炭素原子。図2の環状グルコースには、最大5つの不斉炭素原子が存在する。
注2 セロビオース
図2に化学構造を示すセルロースの基本単位となる二糖。直線的に2分子連結(β-1,4結合とよばれる)したグルコースからなる。糖類としてはやや水に溶けにくい。わずかな甘みがあるが難消化性で分解されず大腸に到達し、腸内細菌叢で資化される。自然界にはトウモロコシや松葉に極微量存在する。
注3 マイクロ繊維
幅 (直径) が数µm (10-6 m, マイクロメートル, ミクロン) の繊維。一般的な髪の毛の幅 (直径)は40 µmから100 µm。本研究で開発したマイクロ繊維は、髪の毛の10分の1程度の太さに相当する。
注4 電子回折構造解析
結晶性の試料に電子線を照射することで得られる回折パターンから分子構造を決定する技術。X線結晶構造解析と比較して小さな結晶の試料でも回折パターンを得ることができるが、結晶の厚みが適度に薄い必要がある。
【論文情報】
雑誌名:Communications Materials, 2024, 5, DOI: 10.1002/10.1038/s43246-024-00622-0. (Sep 10th, 2024, in press)
論文タイトル:Photodegradable glyco-microfibers fabricated by the self-assembly of cellobiose derivatives bearing nitrobenzyl groups
著者:Bioru Okumura, Eriko Yamaguchi, Naoko Komura*, Taku Ohtomi, Shin-ichiro Kawano, Hiroyasu Sato, Hiroshi Katagiri, Hiromune Ando*, Masato Ikeda*
DOI: 10.1038/s43246-024-00622-0
【プレプリント】
プレプリントサーバ:ChemRxiv, 2024 (Jan 18, 2024, Version 1).
タイトル:Photodegradable glyco-microfibers fabricated by the self-assembly of cellobiose derivatives bearing nitrobenzyl groups
著者:Bioru Okumura, Eriko Yamaguchi, Naoko Komura*, Taku Ohtomi, Shin-ichiro Kawano, Hiroshi Katagiri, Hiromune Ando*, Masato Ikeda*
DOI: 10.26434/chemrxiv-2024-jg4p5
【研究者プロフィール】
奥村 美央瑠(筆頭著者)
岐阜大学大学院 自然科学技術研究科 生命科学・化学専攻 令和5年度修了生
山口 英利子(筆頭著者)
岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 糖鎖分子科学研究センター 研究員
大富 拓
岐阜大学大学院 自然科学技術研究科 生命科学・化学専攻 令和3年度修了生
河村 奈緒子(責任著者)
岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 糖鎖分子科学研究センター 助教
河野 慎一郎
名古屋大学大学院 理学研究科 講師
片桐 洋史
山形大学大学院 有機材料システム研究科 教授
佐藤 寛泰
株式会社リガク アプリケーションラボ 研究員
安藤 弘宗(責任著者)
岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 糖鎖分子科学研究センター 副研究所長•教授
岐阜大学 医学部附属量子医学イノベーションリサーチセンター (兼任)
池田 将(責任著者)
岐阜大学 工学部 化学・生命工学科 生命化学コース 教授
岐阜大学大学院 自然科学技術研究科 (兼任)
岐阜大学大学院 連合創薬医療情報研究科 (兼任)
岐阜大学 Guコンポジット研究センター (兼任)
岐阜大学 糖鎖生命コア研究所 (iGCORE) 糖鎖分子科学研究センター (iGMOL) (兼任)
岐阜大学 高等研究院One Medicineトランスレーショナルリサーチセンター (COMIT) (兼任)
岐阜大学 医学部附属量子医学イノベーションリサーチセンター (兼任)
名古屋大学 未来社会創造機構 ナノライフシステム研究所 (兼任)
プレスリリース詳細へ https://kyodonewsprwire.jp/release/202409096055