魚にとっても人にとっても理想的な河川環境づくりへ。地域・行政の協働が鍵を握る<東洋大学SDGs NewsLetter Vol.30>
水質汚染や臭気の発生など、河川にまつわる環境問題は日々深刻化しています。生態系の保全はもちろん、河川を利用する人々の安心安全のために何ができるのか。河川保全の研究に取り組む理工学部都市環境デザイン学科 青木 宗之准教授の見解をお聞きしました。
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魚の生息環境を守ってきた魚道。今求められるのは多様性保全の視点
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実験水路に設置した実物大の魚道
──魚道とはどのような目的で設置されるものでしょうか。
魚道は堰やダムなど落差がある場所に設置される構造物で、魚類や甲殻類の遡上・降下を手助けする役割があります。河川や用排水路にはいくつもの落差が見られ、ダムの場合は落差が15m以上になることもあり、特に狭くて窮境な土地が多い日本では山から海までの流れが非常に速くなります。また、水道水を送水するために川を堰き止めるなど、人々の生活を優先したために生まれた段差も多数存在します。皆さんが普段目にする川の段差の多くは、川の流れを緩めたり、生活・工業・農業のために利用したりと、人々の生活によってできたものでしょう。段差があると魚類や甲殻類は下流から上流に上手く移動できず、堰の下流側で鵜などに食べられてしまいます。しかし、魚道があれば河川の縦断的かつ連続的な移動が容易になり、魚が棲みやすい生息環境を守ることができるのです。
もともと魚道は水産価値の高い魚のために設けられることが多く、北海道など北部の地域ではサケ、それ以外の地域ではアユが主な対象でした。しかし、現在は河川環境や生物多様性の保全が重視されるようになり、全ての魚種が利用できる魚道が求められています。これまでのように画一的な構造のものではなく、例えば底魚には地を這って泳ぐという特性に合わせた設計など、「水中の多様性」を考慮した魚道のユニバーサルデザイン化が必要です。
地域と行政の協働が、住民の思いに寄り添う川づくりにつながる
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現地水路に設置した魚道
──持続可能なより良い河川環境を実現するために必要なことについて教えてください。
生態系の保全はもちろん、河川を利用する人々の安心安全にも考慮した空間をつくることが重要であると考えます。しかし、日本の全ての河川に河川管理や水辺保全が行き届いているわけではありません。基本的に行政が河川法に基づいて管理を行いますが、予算規模に応じて、公共の安全を第一とした治水対策しかできないのが実情です。
より良い河川環境づくりに向けて、まずは興味を持つことが第一歩です。土木学会では「市民普請」というキーワードを用いて、市民主導の公共的な取り組みを推進しています。河川環境の分野でも同様に、住民が関心を持ち、行政に働きかけていくことで河川環境の改善につながることもあるでしょう。実際、滋賀県農村地域の住民組織から「かつて集落内に生息していたアユを取り戻したい」という要望があり、研究室の学生達と集落に接続される水路に簡易的な魚道を設置するプロジェクトを進めています。設置後の管理や修繕、他の水路への拡大を地域住民のみでも行えるように、ホームセンターで買えるものを材料として魚道を作製しました。実験室とは違って、現地では大雨や日照りによって水量が日々変化します。その場で臨機応変に対応する難しさにも直面しましたが、開始から4年ほど経った今でも、学生たちと意思疎通を図りながらブラッシュアップを重ねています。
──住民一人ひとりの心がけや行動の他に、重要なポイントはありますか。
地域と行政の連携強化も肝要です。行政は河川の氾濫を起こさないことを第一の目的としているため、治水対策に重点を置いています。一方で地域住民の中には「生物がたくさんいる川」や「子どもが遊べる川」などを望み、水質やにおいなど河川環境の改善を重要視する人もいます。特に都道府県が管理するような都市河川で、全国的に地域と行政の連携が広がっていけば、双方の要望を上手く取り入れた施策が実行できるのではないでしょうか。
私自身も埼玉県主導のプロジェクト「Next川の再生in越戸川」で、地域・行政と連携し、河川整備における落差工の改修に合わせた魚道の設置に向けて意見を出してきました。同プロジェクトは地域住民から1.5mほどの落差に、魚道をつくれないかという相談を受けたことに端を発します。当初は雨樋いを使った、取り外し可能で簡素な魚道を設置したのみでしたが、稚アユの遡上を皮切りに、落差工の改修計画に合わせた魚道の設置が現実味を帯びてきました。何年か活動する中で他にもいくつか要望をいただき、結果として地域と行政、そして我々の研究室との連携が実現し、それぞれが望む河川環境づくりにつながったと思います。
河川の利用状況を定量分析し、理想的な河川環境を探る
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──今後のビジョンについてお聞かせください。
魚道から視点を変えて、河川利用者を対象とした研究を行いたいと考えています。テーマは「どのような人がどのように河川を利用しているのか」。人によって理想の河川環境は異なります。散歩するのに適しているのか、ベンチに座って景色を眺められたら十分なのか。レクリエーションを例に挙げるなら、花火大会やバーベキューができるなど、河川に求める条件はさまざまです。また、河川環境について考える場合、そこに棲む生物や人、街とのつながりも無視することはできません。理想の河川環境を定義づけることは容易ではありませんが、まずは現在の河川の利用状況を定量的に評価して傾向を探ります。研究過程で、もしも河川利用と魚道との関連性が見つかれば、これまでの知見を絡めながら追究していきたいですね。
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青木 宗之(あおき むねゆき)
東洋大学理工学部都市環境デザイン学科准教授/博士(工学)
専門分野:水理学、河川工学、環境水理学 研究キーワード:生態水理学、魚道、水制、流体力、親水
著書・論文等:A Novel Roughness and Flow Pattern for Steep Stream-Type Fishways: Preliminary Insights(共著)、急勾配な水路式魚道における粗度配置の工夫とウグイの遡上行動について(共著)、住民参加型川づくり実施区間における年齢層別にみた親水利用の特徴と環境要因(共著)、水制周辺の流れおよび河床形状と魚の遊泳行動について(共著)
本件に関するお問合わせ先
東洋大学総務部広報課
mlkoho@toyo.jp
取材お申し込みフォーム
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魚の生息環境を守ってきた魚道。今求められるのは多様性保全の視点
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実験水路に設置した実物大の魚道
──魚道とはどのような目的で設置されるものでしょうか。
魚道は堰やダムなど落差がある場所に設置される構造物で、魚類や甲殻類の遡上・降下を手助けする役割があります。河川や用排水路にはいくつもの落差が見られ、ダムの場合は落差が15m以上になることもあり、特に狭くて窮境な土地が多い日本では山から海までの流れが非常に速くなります。また、水道水を送水するために川を堰き止めるなど、人々の生活を優先したために生まれた段差も多数存在します。皆さんが普段目にする川の段差の多くは、川の流れを緩めたり、生活・工業・農業のために利用したりと、人々の生活によってできたものでしょう。段差があると魚類や甲殻類は下流から上流に上手く移動できず、堰の下流側で鵜などに食べられてしまいます。しかし、魚道があれば河川の縦断的かつ連続的な移動が容易になり、魚が棲みやすい生息環境を守ることができるのです。
もともと魚道は水産価値の高い魚のために設けられることが多く、北海道など北部の地域ではサケ、それ以外の地域ではアユが主な対象でした。しかし、現在は河川環境や生物多様性の保全が重視されるようになり、全ての魚種が利用できる魚道が求められています。これまでのように画一的な構造のものではなく、例えば底魚には地を這って泳ぐという特性に合わせた設計など、「水中の多様性」を考慮した魚道のユニバーサルデザイン化が必要です。
地域と行政の協働が、住民の思いに寄り添う川づくりにつながる
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現地水路に設置した魚道
──持続可能なより良い河川環境を実現するために必要なことについて教えてください。
生態系の保全はもちろん、河川を利用する人々の安心安全にも考慮した空間をつくることが重要であると考えます。しかし、日本の全ての河川に河川管理や水辺保全が行き届いているわけではありません。基本的に行政が河川法に基づいて管理を行いますが、予算規模に応じて、公共の安全を第一とした治水対策しかできないのが実情です。
より良い河川環境づくりに向けて、まずは興味を持つことが第一歩です。土木学会では「市民普請」というキーワードを用いて、市民主導の公共的な取り組みを推進しています。河川環境の分野でも同様に、住民が関心を持ち、行政に働きかけていくことで河川環境の改善につながることもあるでしょう。実際、滋賀県農村地域の住民組織から「かつて集落内に生息していたアユを取り戻したい」という要望があり、研究室の学生達と集落に接続される水路に簡易的な魚道を設置するプロジェクトを進めています。設置後の管理や修繕、他の水路への拡大を地域住民のみでも行えるように、ホームセンターで買えるものを材料として魚道を作製しました。実験室とは違って、現地では大雨や日照りによって水量が日々変化します。その場で臨機応変に対応する難しさにも直面しましたが、開始から4年ほど経った今でも、学生たちと意思疎通を図りながらブラッシュアップを重ねています。
──住民一人ひとりの心がけや行動の他に、重要なポイントはありますか。
地域と行政の連携強化も肝要です。行政は河川の氾濫を起こさないことを第一の目的としているため、治水対策に重点を置いています。一方で地域住民の中には「生物がたくさんいる川」や「子どもが遊べる川」などを望み、水質やにおいなど河川環境の改善を重要視する人もいます。特に都道府県が管理するような都市河川で、全国的に地域と行政の連携が広がっていけば、双方の要望を上手く取り入れた施策が実行できるのではないでしょうか。
私自身も埼玉県主導のプロジェクト「Next川の再生in越戸川」で、地域・行政と連携し、河川整備における落差工の改修に合わせた魚道の設置に向けて意見を出してきました。同プロジェクトは地域住民から1.5mほどの落差に、魚道をつくれないかという相談を受けたことに端を発します。当初は雨樋いを使った、取り外し可能で簡素な魚道を設置したのみでしたが、稚アユの遡上を皮切りに、落差工の改修計画に合わせた魚道の設置が現実味を帯びてきました。何年か活動する中で他にもいくつか要望をいただき、結果として地域と行政、そして我々の研究室との連携が実現し、それぞれが望む河川環境づくりにつながったと思います。
河川の利用状況を定量分析し、理想的な河川環境を探る
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──今後のビジョンについてお聞かせください。
魚道から視点を変えて、河川利用者を対象とした研究を行いたいと考えています。テーマは「どのような人がどのように河川を利用しているのか」。人によって理想の河川環境は異なります。散歩するのに適しているのか、ベンチに座って景色を眺められたら十分なのか。レクリエーションを例に挙げるなら、花火大会やバーベキューができるなど、河川に求める条件はさまざまです。また、河川環境について考える場合、そこに棲む生物や人、街とのつながりも無視することはできません。理想の河川環境を定義づけることは容易ではありませんが、まずは現在の河川の利用状況を定量的に評価して傾向を探ります。研究過程で、もしも河川利用と魚道との関連性が見つかれば、これまでの知見を絡めながら追究していきたいですね。
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青木 宗之(あおき むねゆき)
東洋大学理工学部都市環境デザイン学科准教授/博士(工学)
専門分野:水理学、河川工学、環境水理学 研究キーワード:生態水理学、魚道、水制、流体力、親水
著書・論文等:A Novel Roughness and Flow Pattern for Steep Stream-Type Fishways: Preliminary Insights(共著)、急勾配な水路式魚道における粗度配置の工夫とウグイの遡上行動について(共著)、住民参加型川づくり実施区間における年齢層別にみた親水利用の特徴と環境要因(共著)、水制周辺の流れおよび河床形状と魚の遊泳行動について(共著)
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