他魚種の追星を食べるアフリカンシクリッド魚類を発見
コイ科魚類の追星(恋のシンボル?)を主食とする奇妙な習性を初記載
ポイント
・アフリカ東部のマラウイ湖に棲むシクリッドの一種が、コイ科魚類の追星(おいぼし)を主食とすることを解明。
・追星を摂食する食性は、他の魚類でも記載の無い新発見。
・摂餌戦略のユニークな進化の例として、生物多様性の理解を深めることに貢献。
概要
北海道大学大学院理学研究院の竹内勇一准教授、龍谷大学先端理工学部の丸山 敦教授、愛媛大学大学院理工学研究科の畑 啓生教授らを中心とする国際研究グループは、世界一の魚種数(約800種)を誇るマラウイ湖において、野外で採取したシクリッド魚類の一種Docimodus evelynae(ドシモードス エベリナ)が、同所的に生息するコイ科魚類Labeo cylindricus(ラベオ シリンドリカス)の追星*1を主に食べていたことを突き止めました。
マラウイ湖は、アフリカ大地溝帯にある古代湖です。一般的な湖よりもはるかに前から存在する湖であり、極めて高い生物多様性をもち固有の魚類を育んでいます。とりわけ、バラエティに富むシクリッド魚類の多様性は、食性(餌メニューや食べ方)の多様性が支えていると考えられてきました。実際、魚食、虫食、エビ食、糸状藻類食、単細胞性藻類食、プランクトン食はもとより、鱗食や鰭食などのマニアックな食性が報告されてきました。しかし、追星食というのは、他の水系の魚類を含めて初めて観察されたものです。研究グループはDocimodus evelynaeの食性を、形態分析、組織解析、DNA分析により突き止めることができました。このような奇妙な食性がどのように進化してきたのかを明らかにできれば、生物多様性の創出や維持に寄与するメカニズムの理解に繋がると期待されます。
なお、本研究成果は、日本時間2024年8月28日(水)午後6時公開のScientific Reports誌に掲載される予定です。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202408285541-O1-859W57M1】
背景
アフリカや南米のシクリッド魚類は爆発的な種分化を遂げ、著しく異なる生態系と食性を獲得してきました。他の魚のウロコをはぎ取って食べる鱗食性シクリッドには複数の系統があり、その自然史と進化生態は部分的にしか解明されていません。研究グループはマラウイ湖において、鱗食魚として知られるDocimodus evelynaeの食性を調べました。
研究手法・研究成果
胃内容分析を行った結果、予想に反してウロコは胃内容物全体の10%にすぎず、主に「未知の白くて固いボツボツした物体」によって占められていました(図1)。この未知の物体が、小型生物なのか生物の一部なのか、あるいは無機物なのか、すぐには分かりませんでした。そこで、XRF分析を行ったところ、硫黄を多く含むことが分かり、生物の表皮由来の何かと判断しました。次に、「白い物体」のヘマトキシリン・エオシン染色した切片の観察から、これが多細胞性の生物組織であることが分かりました。表皮でできる多細胞性の硬い組織の候補として、様々な試料を調達し、形態計測、CT分析、及びDNA分析によって、最終的にコイ科魚類Labeo cylindricusの追星であることを突き止めました(図2、3)。
今後への期待
追星は一見すると栄養素が無さそうにも見えますが、主にたんぱく質のケラチンで構成され、魚やエビなどの他の動物と同等のカロリーを持つことが、本論文のなかでも示されています。追星はコイ科魚類Labeo cylindricusでは一年中みられることから、利用が持続可能な資源です。このシクリッドにとって、追星はエネルギー豊富な食物源として機能し、マラウイ湖の多様で競争の激しい生態系の中で、生存可能性に貢献していると考えられます(図4)。ただし、コイの口の周りにある追星は奪い取るのが難しいように思われるため、どのように捕食しているのか、非常に不思議です。シクリッド魚類の他種多様な生態はこれまでにも私たちを魅了してきましたが、未だに想像の域を超えた新しい現象を秘めていると言えます。
捕食者と被食者の相互作用(食う食われるの関係)は、生物多様性を支える重要な基盤と考えられています。本研究の結果は、熱帯地域における生物群集の多様性に富む生態系を形作るメカニズムを理解する上で重要な情報を提供するものです。
謝辞
本研究はJSPS科学研究費助成事業 基盤研究(C)(JP20K06851、JP23K05960)、国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))(18KK0208)、国際共同研究加速基金(海外連携研究)(23KK0131)、三菱財団自然科学研究助成、大隅基礎科学創成財団研究助成、東レ科学技術研究助成を受けたものです。
論文情報
論文名 Preying on cyprinid snout warts (pearl organs) as a novel and peculiar habit in the Lake
Malawi cichlid Docimodus evelynae(コイ科魚類の追星を捕食するというマラウイ湖のシ
クリッドDocimodus evelynaeにおける新規で奇妙な食性)
著者名 竹内勇一1、畑 啓生2、佐々木瑞希3、Andrew MVULA4、水原詞治4、Bosco RUSUWA5、
丸山 敦4(1北海道大学理学研究院、2愛媛大学大学院理工学研究科、3帯広畜産大学、4龍
谷大学先端理工学部、5マラウイ大学)
雑誌名 Scientific Reports(自然科学系のオープンジャーナル)
DOI 10.1038/s41598-024-69755-z
公表日 日本時間2024年8月28日(水)午後6時(英国夏時間2024年8月28日(水)午前10時)(オンライン公開)
参考図
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202408285541-O2-jwF6Cu3y】
図1.マラウイ湖シクリッドDocimodus evelynaeとその胃内容物
(a)Docimodus evelynaeの標本写真。(b)胃とその中身。(c)体長別の胃内容物の構成。Docimodus
evelynaeは体長に関係なく、主に「未知の白くて固い物体」を摂食していた。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202408285541-O3-3MMR7DtT】
図2.Docimodus evelynaeと同所的に棲む唯一のコイ科魚類Labeo cylindricus
(a)Labeo cylindricusの標本。追星(矢頭)は口や鼻のまわりに存在する。(b)追星の拡大写真。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202408285541-O5-lPLh96Vg】
図3.Docimodus evelynaeの胃から見つかった白い物体とLabeo cylindricusの追星の形態学的特徴
白い物体の拡大写真(a)とCT画像(b)。追星の拡大写真(c)とCT画像(d)。染色した白い物体
の組織切片(e)とその拡大写真(f)。扁平化した細胞が積み重なっていることが分かる。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202408285541-O4-80g2YL10】
図4.マラウイ湖ではスキューバ潜水しながら刺網を用いて、魚類を採集する。右端が畑(丸山撮影)。
用語解説
*1 追星 … コイ科魚類の口の周りに見られる、ボツボツしたイボのようなもの。日本に生息するコイ科魚類では、繁殖期を迎えたオスの口部にばかり見られるもので、メスを惹きつけたり他のオスを追い払うのに使われると考えられている。今回見つかった「犠牲者」であるコイ科魚類Labeo cylindricusは、メスでも追星が見られるようで、この種の追星が何に使われているかは、よく分かっていない。いずれにしても、主な餌として追星を食べている魚の報告は、シクリッドだけでなく、他の魚類においても前例がなく、図鑑に書き加わるような新発見である。
プレスリリース詳細へ https://kyodonewsprwire.jp/release/202408285541
ポイント
・アフリカ東部のマラウイ湖に棲むシクリッドの一種が、コイ科魚類の追星(おいぼし)を主食とすることを解明。
・追星を摂食する食性は、他の魚類でも記載の無い新発見。
・摂餌戦略のユニークな進化の例として、生物多様性の理解を深めることに貢献。
概要
北海道大学大学院理学研究院の竹内勇一准教授、龍谷大学先端理工学部の丸山 敦教授、愛媛大学大学院理工学研究科の畑 啓生教授らを中心とする国際研究グループは、世界一の魚種数(約800種)を誇るマラウイ湖において、野外で採取したシクリッド魚類の一種Docimodus evelynae(ドシモードス エベリナ)が、同所的に生息するコイ科魚類Labeo cylindricus(ラベオ シリンドリカス)の追星*1を主に食べていたことを突き止めました。
マラウイ湖は、アフリカ大地溝帯にある古代湖です。一般的な湖よりもはるかに前から存在する湖であり、極めて高い生物多様性をもち固有の魚類を育んでいます。とりわけ、バラエティに富むシクリッド魚類の多様性は、食性(餌メニューや食べ方)の多様性が支えていると考えられてきました。実際、魚食、虫食、エビ食、糸状藻類食、単細胞性藻類食、プランクトン食はもとより、鱗食や鰭食などのマニアックな食性が報告されてきました。しかし、追星食というのは、他の水系の魚類を含めて初めて観察されたものです。研究グループはDocimodus evelynaeの食性を、形態分析、組織解析、DNA分析により突き止めることができました。このような奇妙な食性がどのように進化してきたのかを明らかにできれば、生物多様性の創出や維持に寄与するメカニズムの理解に繋がると期待されます。
なお、本研究成果は、日本時間2024年8月28日(水)午後6時公開のScientific Reports誌に掲載される予定です。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202408285541-O1-859W57M1】
背景
アフリカや南米のシクリッド魚類は爆発的な種分化を遂げ、著しく異なる生態系と食性を獲得してきました。他の魚のウロコをはぎ取って食べる鱗食性シクリッドには複数の系統があり、その自然史と進化生態は部分的にしか解明されていません。研究グループはマラウイ湖において、鱗食魚として知られるDocimodus evelynaeの食性を調べました。
研究手法・研究成果
胃内容分析を行った結果、予想に反してウロコは胃内容物全体の10%にすぎず、主に「未知の白くて固いボツボツした物体」によって占められていました(図1)。この未知の物体が、小型生物なのか生物の一部なのか、あるいは無機物なのか、すぐには分かりませんでした。そこで、XRF分析を行ったところ、硫黄を多く含むことが分かり、生物の表皮由来の何かと判断しました。次に、「白い物体」のヘマトキシリン・エオシン染色した切片の観察から、これが多細胞性の生物組織であることが分かりました。表皮でできる多細胞性の硬い組織の候補として、様々な試料を調達し、形態計測、CT分析、及びDNA分析によって、最終的にコイ科魚類Labeo cylindricusの追星であることを突き止めました(図2、3)。
今後への期待
追星は一見すると栄養素が無さそうにも見えますが、主にたんぱく質のケラチンで構成され、魚やエビなどの他の動物と同等のカロリーを持つことが、本論文のなかでも示されています。追星はコイ科魚類Labeo cylindricusでは一年中みられることから、利用が持続可能な資源です。このシクリッドにとって、追星はエネルギー豊富な食物源として機能し、マラウイ湖の多様で競争の激しい生態系の中で、生存可能性に貢献していると考えられます(図4)。ただし、コイの口の周りにある追星は奪い取るのが難しいように思われるため、どのように捕食しているのか、非常に不思議です。シクリッド魚類の他種多様な生態はこれまでにも私たちを魅了してきましたが、未だに想像の域を超えた新しい現象を秘めていると言えます。
捕食者と被食者の相互作用(食う食われるの関係)は、生物多様性を支える重要な基盤と考えられています。本研究の結果は、熱帯地域における生物群集の多様性に富む生態系を形作るメカニズムを理解する上で重要な情報を提供するものです。
謝辞
本研究はJSPS科学研究費助成事業 基盤研究(C)(JP20K06851、JP23K05960)、国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))(18KK0208)、国際共同研究加速基金(海外連携研究)(23KK0131)、三菱財団自然科学研究助成、大隅基礎科学創成財団研究助成、東レ科学技術研究助成を受けたものです。
論文情報
論文名 Preying on cyprinid snout warts (pearl organs) as a novel and peculiar habit in the Lake
Malawi cichlid Docimodus evelynae(コイ科魚類の追星を捕食するというマラウイ湖のシ
クリッドDocimodus evelynaeにおける新規で奇妙な食性)
著者名 竹内勇一1、畑 啓生2、佐々木瑞希3、Andrew MVULA4、水原詞治4、Bosco RUSUWA5、
丸山 敦4(1北海道大学理学研究院、2愛媛大学大学院理工学研究科、3帯広畜産大学、4龍
谷大学先端理工学部、5マラウイ大学)
雑誌名 Scientific Reports(自然科学系のオープンジャーナル)
DOI 10.1038/s41598-024-69755-z
公表日 日本時間2024年8月28日(水)午後6時(英国夏時間2024年8月28日(水)午前10時)(オンライン公開)
参考図
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202408285541-O2-jwF6Cu3y】
図1.マラウイ湖シクリッドDocimodus evelynaeとその胃内容物
(a)Docimodus evelynaeの標本写真。(b)胃とその中身。(c)体長別の胃内容物の構成。Docimodus
evelynaeは体長に関係なく、主に「未知の白くて固い物体」を摂食していた。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202408285541-O3-3MMR7DtT】
図2.Docimodus evelynaeと同所的に棲む唯一のコイ科魚類Labeo cylindricus
(a)Labeo cylindricusの標本。追星(矢頭)は口や鼻のまわりに存在する。(b)追星の拡大写真。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202408285541-O5-lPLh96Vg】
図3.Docimodus evelynaeの胃から見つかった白い物体とLabeo cylindricusの追星の形態学的特徴
白い物体の拡大写真(a)とCT画像(b)。追星の拡大写真(c)とCT画像(d)。染色した白い物体
の組織切片(e)とその拡大写真(f)。扁平化した細胞が積み重なっていることが分かる。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202408285541-O4-80g2YL10】
図4.マラウイ湖ではスキューバ潜水しながら刺網を用いて、魚類を採集する。右端が畑(丸山撮影)。
用語解説
*1 追星 … コイ科魚類の口の周りに見られる、ボツボツしたイボのようなもの。日本に生息するコイ科魚類では、繁殖期を迎えたオスの口部にばかり見られるもので、メスを惹きつけたり他のオスを追い払うのに使われると考えられている。今回見つかった「犠牲者」であるコイ科魚類Labeo cylindricusは、メスでも追星が見られるようで、この種の追星が何に使われているかは、よく分かっていない。いずれにしても、主な餌として追星を食べている魚の報告は、シクリッドだけでなく、他の魚類においても前例がなく、図鑑に書き加わるような新発見である。
プレスリリース詳細へ https://kyodonewsprwire.jp/release/202408285541