和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2024年12月31日(火)

触れて「みる」アート 手で感じて会話で共有、和歌山・田辺市で体験会

アイマスクをした状態で、手で彫刻に触れるイベント参加者(和歌山県田辺市湊で)
アイマスクをした状態で、手で彫刻に触れるイベント参加者(和歌山県田辺市湊で)
 近年、全国の美術館・博物館で「触れる鑑賞プログラム」が話題になっている。「目で見る」から「全身の感覚でみる」体験の場に変えようという試み。障害の有無にかかわらず誰もが楽しめるアートとはどんなものか。和歌山県紀南地方でも新たな美術鑑賞が始まった。

 「トサカみたい。鳥人間?」「ロウソクの炎が揺れているのかな」「きれいに削られている。色は白のイメージ」「トゲのないサボテン。緑色かな」「カヌレみたいな形」―。

 JR紀伊田辺駅前の田辺エンプラスで19日、「手でふれてみる美術鑑賞会」があった。参加者はアイマスクをして、手で彫刻の質感や形を感じ取る「触察」を体験。感じた作品を絵や言葉で表現し、参加者同士で話し合った。

 芸術祭「紀南アートウイーク」(実行委員会主催)の催し。イタリアにある手で触れて鑑賞できる「オメロ触覚美術館」を題材にしたドキュメンタリー映画「手でふれてみる世界」の鑑賞会や、同映画の岡野晃子監督とイタリア・ミラノ在住の美術家で、嗅覚や触覚に働きかける作品を手がける廣瀬智央さんによるトークイベントもあった。

 廣瀬さんは「西洋では聴覚、視覚に比べ、あいまいな触覚、味覚は価値が低かった。そんな価値観が変わってきている」、岡野さんは「触察は全ての人が行える鑑賞方法。生命に触れるという感覚で触ってほしい。目が見える人も、視覚だけでなく、触覚を通して気付くことがあり、より深い美術鑑賞ができる」と話した。

 触察を初体験したパート小川実空さん(26)=田辺市=は「触れていると、形がどんどんイメージできる。油絵が好きで、色も思い浮かんできた。他の参加者の感想にもすごく共感できた」と新しい鑑賞方法を楽しんでいた。

■「みかんの旅」展
長野県で11月3日から

 「ミカン」をテーマにした昨年の紀南アートウイーク(実行委員会主催)で注目を集めたインスタレーション(展示空間も含めた全体が作品のアート)が、11月3日から長野県立美術館(長野市)で「みかんの旅」として再展示される。嗅覚に焦点を当てた展示で、リンゴの一大産地に、かんきつの香りを届ける。

 イタリア・ミラノを拠点に活動する美術作家、廣瀬智央さんの作品。ミカンを通じて、私たちの生活と産業、自然環境の循環について考えてほしいと7点の作品で構成している。昨年は田辺市上秋津の農業倉庫で展示した。

 廣瀬さんはレモンを使ったインスタレーションや彫刻作品などで、嗅覚や触覚に働きかける作品を多く制作してきた。紀南では長期的なアートプロジェクトとして、誰もが利用できる「コモンズ(共有)農園」づくりも進めている。苗木を育てることから始め、果実が実り、アート作品も点在する―。そんな農園の取り組みも紹介する。

 展示は来年2月12日まで。会場となる長野県立美術館2階の「アートラボ」は、視覚以外の感覚を使った鑑賞が可能な「実験室」となることを目指しており、これまでも視覚以外の感覚も使った鑑賞が可能な作品を展示している。