和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2024年12月22日(日)

樹木医「生態系や文化守りたい」 古座川町で地域希少種の「保存林」整備

観賞できる形で植物を保存する小森川保存林にしたいという矢倉寛之さん(和歌山県古座川町小森川で)
観賞できる形で植物を保存する小森川保存林にしたいという矢倉寛之さん(和歌山県古座川町小森川で)
基礎コンクリート工事を終えた段階のビジターセンター
基礎コンクリート工事を終えた段階のビジターセンター
 古座川の支流・小川の最上流、和歌山県古座川町小森川でクマノザクラなど地域の希少種を保存・繁殖する「保存林」を整備する樹木医矢倉寛之さん(41)が、「ビジターセンター」建設の資金協力を呼びかけている。気軽に自然と触れ合え、学べる拠点を設け、生態系や地域文化を守る活動への理解を広める狙いがある。


 身近な植物が失われていると感じたのが、活動のきっかけだった。矢倉さんが地域の植物だけで庭を造りたいと、ヤマアジサイを探したが、山を駆け巡って発見できたのは5株だけだった。「人気のあるアジサイでさえ、住民が知らない間に姿を消している」とがくぜんとした。

 紀南は固有種の宝庫。小規模な地域絶滅も、種全体の絶滅に直結する。また、ある地域で絶滅しても、県内の他地域に残っているから大丈夫―とはならない。「地域による多様性が失われると、その種は絶滅の危機に直面する」と話す。

 保存林ではクマノザクラ、ヤマアジサイ、キイジョウロウホトトギスなどを育てている。本数や植栽面積でなく、地域の生態系を守ることを優先。クマノザクラは町内の文化的価値が高い木を選び、挿し木によるクローン苗を増殖している。万一、親木が倒れても、クローンで復活させられる。保存林は「ノアの箱舟」だという。

 外来種の存在は、在来種に遺伝的な悪影響を与える可能性がある。隔離された小森川の環境は、保存林の適地となる。小森川集落は、町内にある矢倉さんの自宅からでも車で約1時間かかる。現地での活動を充実させるため、今年3月に住所を移し、集落唯一の住民となった。

 矢倉さんは「サクラの季節だけでなく、年間を通じ何度も小森川に足を運んで、活動に触れてほしい」と話している。


■ビジターセンター建設へ

 ビジターセンターでは、矢倉さんが樹木医として活動する中で集めた植物や環境、農業、林業、造園などの専門書や資料、光学顕微鏡などの特別な機材を設置して、一般にも活用してもらう。夏休みの自由研究の手伝いや生涯学習の支援もしたいという。イベント「小森川サクラ祭り」や地域の伝統神事「鯛釣り祭り」では、休憩場所にもなる。

 2020年に着工し、基礎コンクリートの工事は完了しているものの、建築資材の不足と価格高騰もあり、21年夏から中断していた。近く建設を再開する。

 ただ、補助金などの公的な支援はなく、全て自己資金で賄う必要がある。基本設備を整える来年3月までで350万円、トイレやまきストーブ、外構など「フル装備」で完成するまでに1千万円が必要という。

 活動支援の方法については、矢倉さんが代表理事を務める一般社団法人「樹木医甚兵衛」のホームページや交流サイト(SNS)で確認できる。