和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2024年12月23日(月)

「植物の楽しさ伝えたい」 熊楠賞授賞式で塚谷さん

南方熊楠賞を受賞し、あいさつする塚谷裕一さん(和歌山県田辺市新屋敷町で)
南方熊楠賞を受賞し、あいさつする塚谷裕一さん(和歌山県田辺市新屋敷町で)
 第33回「南方熊楠賞」(和歌山県田辺市、南方熊楠顕彰会主催)を受賞した東京大学大学院教授、塚谷裕一さん(58)の授賞式が6日、田辺市新屋敷町の紀南文化会館であった。顕彰会会長の真砂充敏田辺市長からトロフィーを手渡された塚谷さんは「これを機会にさらに精進し、植物学の楽しさも伝え続けていきたい」と喜びを語った。

 塚谷さんは植物学が専門。野外での調査と研究室での実験をつなぐ研究スタイルや、文理の垣根を越えて精力的に執筆活動に取り組む姿勢が、熊楠の精神に通じると評価された。

 式終了後は「植物学とエッセイと…興の赴くまま」と題して記念講演。これまでの研究生活の歩みを振り返った。

 塚谷さんが植物に興味を持つようになったのは、小学校中学年の頃。それまでは昆虫に夢中だったが、種類が多過ぎて全てを網羅する図鑑がないという「壁」にぶつかった。

■昆虫から植物へ

 一方で植物は、日本に生えているものなら、ほぼ全てが市販の図鑑に載っている。もしも図鑑にないものが見つかれば、それは新種であるということ。そこに引かれ、植物に「転向」することにしたという。

 1993年に東京大学大学院で博士号を取得。分子レベルの植物学研究において、葉の形態形成の遺伝子経路を解明し、世界をリードする成果を上げている。また、東南アジアの熱帯林をはじめとする国内外でのフィールドワークを通じて、キノコなどの菌類から栄養を取り込む「菌従属栄養植物」を含む多くの新種植物を命名してきた。

 さらに、その研究成果や植物誌を広く一般に普及させようと、学生時代からエッセーなどの執筆活動にも精力的に取り組んでいる。

 初めて出したエッセー集は、夏目漱石などの文学作品を植物学の視点から読み解いた「漱石の白くない白百合」。博士論文の執筆と並行して準備を進め、博士号取得と同時に刊行したというエピソードを紹介した。



 熊楠賞は、世界的な博物学者で後半生を田辺市で過ごした南方熊楠(1867~1941)にちなみ、民俗学や博物学で業績のある研究者に贈っている。