和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2024年10月10日(木)

新宮―白浜は赤字年29億円 JR西が不採算区間公表

紀勢線 新宮―白浜の輸送密度
紀勢線 新宮―白浜の輸送密度
 JR西日本は11日、利用者が少ない路線の経営状況を初めて公表した。対象は輸送密度(1キロ当たりの1日平均利用者数)が2千人未満となる17路線30区間で、いずれも赤字。和歌山県内では紀勢線の新宮―白浜(95・2キロ)が該当し、2020年度の輸送密度は約30年前より85%少ない608人。20年度まで3年間の年平均赤字額は、30区間中2番目に多い約29億3千万円だった。


 利用状況が大きく減少している区間の実態や課題を明らかにし、地域全体での持続可能な交通体系を検討しながら、地元と廃線や存続を含めた協議を進めていくことを目的として公表した。

 新宮―白浜の輸送密度は、運営が国鉄からJRに移行した1987年度には4123人だったが、2019年度には26%に当たる1085人に減少。20年度はコロナ禍の影響もあり1987年度の15%に当たる608人まで落ち込んだ。

 この区間の年平均収入も、2018~20年度は約5億4千万円、営業費用は約34億7千万円。赤字額は山陰線の出雲市―益田(島根県)の約35億5千万円に次いで多かった。コロナ禍前の17~19年度平均も出雲市―益田に次ぐ約28億6千万円の赤字だった。

 しかし、新宮―白浜で100円の収入を得るためにかかった費用は、18~20年度平均で30区間中少ない方から4番目の647円。最も採算性が悪かったのは芸備線の東城―備後落合(広島県)で2万6906円だった。

 ローカル線では、沿線人口の減少や道路整備などによって利用者が減少してきたが、さらに20年度からはコロナ禍が追い打ちをかけた。同社によると、今後もテレワークなどの働き方改革や行動変容の定着などにより、コロナ禍前の状況に戻るのは難しいとみている。

 長谷川一明社長は「地域の皆さまとローカル線の課題を共有し、具体的な議論をさせていただくために公表した。最適な地域交通体系を、幅広く議論・検討し、地域の皆さまと共に実現していく」とのコメントを出した。

 紀勢線ではすでに、和歌山支社が県の要望を受け、予約や追加料金なしで普通列車に自転車をそのまま持ち込める「サイクルトレイン」を昨秋から開始するなど、利用者増に向けた取り組みを開始している。

 今回の公表を受け、地元自治体からはさっそく、利用者を増やす取り組みを支援していきたいとの声が上がった。井澗誠白浜町長は「地方に必要なローカル線を赤字だけの理由で廃線にすることのないようお願いしたい。サイクルトレインなどの利用客を増やす方策を考えるのみならず、町として可能な限りの支援をしたいと思う」と話し、田岡実千年新宮市長は「紀南への道路網の整備が進んだことに伴って乗客が減っていると思う。これまで列車に乗らなかった人にも利用してもらえるよう周辺自治体と共にサイクルトレインなどで観光を盛り上げていきたい」と答えた。

■「切り捨てはルール違反」 仁坂知事

 仁坂吉伸知事は、12日の定例記者会見で、この問題を取り上げ、「赤字額が巨額だからと、数字だけで議論しないでもらいたい。巨額なのは区間が長いからで、赤字率を考えると大したことはない」と指摘。その上で「交通網は国全体の資産であり、経営が悪いから要りませんとやっていいものではない。もうかる所は置いといてもうからない所は切り捨てるのはルール違反だ」と主張。一方で「経営を良くするために、協力しないといけない」といい、利用者増の対策などを含めて議論していきたいとした。