和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2024年12月23日(月)

植物ツーショット(44)/スギとヒノキ

スギの雄花
スギの雄花
左側の赤茶色の木はスギ、右側の緑色の木はヒノキ
左側の赤茶色の木はスギ、右側の緑色の木はヒノキ
 学年末試験の頃にはティッシュが手放せなくなり、入試では頭がボーッとして、面接では涙を流しながらハンカチを持って……。子どもの頃はこれが花粉症だとは知らず、春は憂鬱(ゆううつ)でした。

 ウメが満開の頃にスギ、山桜の頃にはヒノキも咲きます。スギもヒノキも日本原産で、スギは沢沿いの湿気の多い場所、ヒノキは乾燥したところに自生します。スギは冬には葉が赤茶色になり、気温が上がると煙のように花粉をまきます。

 スギの花粉は顕微鏡で見ると角があり、かわいいです。スギやヒノキは、まだ昆虫が少ない時代に進化した風媒花なので、大量の花粉をまかないと子孫が残せません。所かまわずスギやヒノキばかり植えて多様性に乏しい林を増やしたヒトが悪いのです。

 以前、熊野古道を歩いて「緑の砂漠」と評した人がいます。熊野古道に原生林を期待するのは間違いで、中近世の街道なので、ほとんどがヒトの気配が多い農耕地や薪炭林の里山や植林地の中を通る道です。

 古道沿いでもかつての拡大造林の失敗で、細い木が林立し、暗くて生き物の気配が消えた植林が目立ちました。しかし、植林は手入れすれば明るくなり、雑木や草の種類が増え、多様な鳥獣も戻り、豊かで美しい林になります。

 かつて人家の近くには、うっそうとした社寺林があり、木材を搬出できないような奥山には標高に応じた自然林がありました。いま残っている社寺林や奥山を伐採するというのは時代錯誤で、許されません。植林地でも天空三分と言い、山頂や尾根に自然林を残したものです。

 植林に際しても、尾根にカシ、クリ、沢にトチなど動物が喜ぶ木を混植すれば、ヒトと共存し、生産性がありながらパッチワークのように多様で豊かな現代の熊野の森ができるでしょう。

 植林の伐採は自然破壊ではありません。丹精込めた田畑の作物の収穫と同じです。しかし、巻き枯らしなどで弱った木を放置すると害虫が増え、伐採跡を放置すると土壌が流れます。伐採後は速やかに獣害予防が必要で、植樹するにも、自然林に戻すにも、人手と時間が必要です。