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宇江さんが「狸の腹鼓」発刊 民俗伝奇シリーズ完結

民俗伝奇小説シリーズの完結作となる新刊「狸の腹鼓」を手にする宇江敏勝さん(27日、和歌山県田辺市役所で)
民俗伝奇小説シリーズの完結作となる新刊「狸の腹鼓」を手にする宇江敏勝さん(27日、和歌山県田辺市役所で)
 「山の作家」として知られる宇江敏勝さん(83)=和歌山県田辺市中辺路町野中=の新作「狸の腹鼓」が、新宿書房から発行された。年1冊のペースで10年間にわたって出版してきた民俗伝奇小説シリーズの完結編。大正や昭和を中心とした熊野地方の山や里を舞台に、若い男女の恋物語やスペイン風邪流行時の人々の様子を描いた作品など4編を収録している。

 宇江さんは熊野高校を卒業後、林業や炭焼きに従事。その経験を生かし、熊野を舞台にした文筆活動を続けている。民俗伝奇小説シリーズは、2011年の「山人伝」を皮切りにこれまで9冊を出してきた。

 新作は、同人誌「VIKING」に2020年5月から10月にかけて掲載した作品をまとめた。

 表題作の「狸の腹鼓」は、文通相手の女性と山の炭焼き小屋で過ごした60年前の一夜を振り返った、自伝的恋愛小説。コロナ禍をきっかけに執筆したという「牛車とスペイン風邪」は、大正時代に猛威を振るったスペイン風邪流行時の記録を基に、当時の人々の様子を描いた。

 ほかに「乞食」「山神の夜太鼓」を収録している。

 宇江さんは「このシリーズは10冊を目標に書いてきて、一つの区切り。創作だが、書かなかったら忘れられてしまうようなかつての山村の暮らしを、濃密に記録することができたと思う」と話している。

 四六判260ページ、2200円(税別)。近く、全国の書店に並ぶ。

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