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暮らしの安全は 参院選2022(下)/産科医不足/安心して出産できる環境を

長女のあさひちゃんを抱く笹尾紗甫さん
長女のあさひちゃんを抱く笹尾紗甫さん
題字・暮らしの安全は 参院選2022
題字・暮らしの安全は 参院選2022
 新宮市で暮らす笹尾紗甫さん(30)は4月、自宅から車で約1時間の距離にある串本町の町立病院で、長女のあさひちゃんを出産した。当初は10分ほどで着く地元の市立医療センターで出産予定だったが、産科医不足を理由にセンターが分娩(ぶんべん)の受け付けを休止したため、変更せざるを得なくなった。

 笹尾さんは「串本は結婚式を挙げた場所で思い入れがあり、結果的には串本で出産できてよかったと思っている」と話すが、周囲からは気の毒がられたという。

 医療センターではその後、各方面への働きかけが実って医師を確保。6月に分娩予約の受け付けと健診を再開したが、休止していた3月以降の約4カ月間で、57人が別施設での出産を余儀なくされた。串本町以外にも、田辺市や三重県松阪市の病院へ移った妊婦もいたという。

 昨年12月、9865人分の署名簿を添え、市に産科医確保を要望した住民有志の代表世話人、清原和代さん(56)=新宮市=は「医師を確保できたことはよかった。けれども、休止期間が生じてしまったのは本当に残念だった」と振り返りつつ「この状態がいつまで続くのかは分からない。産科医不足という問題を根本から解決しない限り、また同じような事態が起こるのではないか」と危機感を募らせる。

 業務が多忙で、拘束時間も不規則。訴訟リスクが高い。産科医不足が叫ばれる背景には、そうした課題があるといわれる。全国的な問題で、簡単に解決できるものではないが、決して無視できる話ではない。

 県は2023年度から、県立医科大学医学部の入試で「産科枠」(3人程度)を新設すると決めた。中長期的な取り組みとしており、卒業後は9年間、県内で勤務や研修をしてもらうという。

 このほか県は5月、国への提案・要望で「産科医確保対策の必要性」を明記。少子化に歯止めをかけるためには地域で安心して出産できる体制を堅持することが必要だとして、県立医大が設けるような「産科枠」は全国の各大学にも不可欠だと訴えた。

 こうした地方の声に、どう応えるのか。国の姿勢が問われている。
=おわり
(この連載は喜田義人、中陽一が担当しました)

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