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2024年12月22日(日)

ツチノコと熊楠 来年2月9日まで企画展、和歌山県田辺市の顕彰館

南方熊楠が考えたツチノコの正体などに迫る企画展(和歌山県田辺市中屋敷町で)
南方熊楠が考えたツチノコの正体などに迫る企画展(和歌山県田辺市中屋敷町で)
 和歌山県田辺市中屋敷町の南方熊楠顕彰館は来年2月9日まで、来年の干支(えと)である「巳(み)」にちなむ企画展「新春吉例『十二支考』輪読 ツチノコと南方熊楠の知的ネットワーク」を開いている。奇妙な生物への関心が強かった熊楠は少年時代から、ツチノコ(野槌、ノヅチ)にも興味があった。1917年の巳年に連載された「蛇に関する民俗と伝説」ではツチノコについて、さまざまな考察を巡らせている。熊楠が考えたツチノコの正体に迫る企画展。観覧は無料。

 「新春吉例『十二支考』輪読」は年末年始恒例の企画展。熊楠は14~23年、当時、日本最大の出版社であった博文館による総合誌「太陽」に、その年の干支をテーマにした論文を発表。その「十二支考」で、蛇の回は最長のもの。蛇の話は日本だけでなく世界中に多く、熊楠も書き出したら止まらなくなったとみられる。今回の展示では「蛇に関する民俗と伝説」の腹稿(原稿執筆のための構想メモ)の解読にも成功し、熊楠の自由自在な文章の秘密に迫っている。

 「蛇に関する」の執筆には、当時の文化人や学者たちとの知的ネットワークが生かされた。石川県出身で大審院などの判事を歴任する一方、研究者として活躍した尾佐竹猛、熊楠と同じ和歌山県出身で教員として各地の学校に勤めながら、鳥類を専門とした生物研究で知られる川口孫治郎らとの蛇を介した交流についても紹介している。

 熊楠が「予が聞き及ぶ所、野槌の大(おおき)さ形状等確説なく」と記しているように、野槌やそれに類する名称で呼ばれる異様な蛇は文献や目撃談によって、その姿がさまざま。しかしながら、その中で胴がずんぐりとした蛇の図とともに紹介されるものがあることが、これまでの研究で指摘されている。

 幻の蛇の名称としてツチノコがすっかり定着した1987年、奈良県下北山村で新たなツチノコ目撃情報があり、新聞にも報道された。これをきっかけに、当時村議であった野崎和生さんが中心となり、ツチノコなどを対象とした野生動物研究会が発足した。

 展示資料は、熊楠の「蛇に関する」が連載された雑誌「太陽」第23巻、「蛇に関する」のために熊楠が作成した腹稿の複製、熊楠が飼っていた亀の写真、蛇の図鑑「日本蛇類大観」(高橋精一、1930年)、ツチノコの目撃場所周辺に立てられていた立て札(奈良県下北山村・下北山つちのこパーク蔵)、「ツチノコ手配書」(同)など約30点。

 関連イベントとして1月11日午後2時~4時、顕彰館で講演会「ツチノコを通した地域創生と、南方熊楠の知的ネットワーク」がある。野崎さんと山川志典さん(国立民族学博物館外来研究員)、神川隆さん(在野研究者)が話し、志村真幸さん(慶応義塾大学准教授)が司会を務める。申し込み不要で定員30人。

 開館時間は午前10時~午後5時(最終入館は午後4時半)。休館日は12月16、23日と28日~1月4日、6、13、14、20、27日と2月3日。