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2024年12月27日(金)

2025年に幕を開ける「BLUE FRONT SHIBAURA」の真意とは? “水と緑と商業施設”の融合で、「何もしない」という最良の体験をユーザーに提供

大規模複合開発が行われる芝浦
大規模複合開発が行われる芝浦
 東京・浜松町エリアの大規模複合開発「BLUE FRONT SHIBAURA(芝浦プロジェクト)」が、2025年2月から順次竣工となる。“水と緑とオフィス・商業施設の融合”をテーマに掲げてきた同プロジェクトは、かつて80年代に盛況だったウォーターフロント開発とは何が異なるのか? そして訪れる人々にどのような“価値ある体験”を提供していくのか? 先ごろ、野村不動産が開催したメディアセミナーでは、同社の芝浦プロジェクト本部・企画部課長・内田賢吾氏、株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門プリンシパル・高野寛之氏が出席。彼らのトークを通じてプロジェクトの真意が垣間見ることができた。

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■芝浦の大規模複合開発「BLUE FRONT SHIBAURA」とは? 目指す“水辺の街”東京

 11月19日に行われたメディアセミナー「世界の水辺の街と、最新の街づくりトレンド~今求められている街とBLUE FRONT SHIBAURAの街づくり」では、「BLUE FRONT SHIBAURA(芝浦プロジェクト)」の進捗が説明された。

 野村不動産・内田氏は、今回のプロジェクトが「水辺ならではのライフスタイルを創造し、これを広め、東京のベイエリアを繋いでいくこと」を目標に掲げていることを強調。2025年2月竣工予定のS棟、2030年竣工予定のN棟という二つの複合施設(高層部にラグジュアリーホテルである『フェアモントホテル』及び住宅、中層部にはオフィス、低層部にはショップ&ダイニング)を軸に、「旧芝離宮庭園から浜松町駅を挟んで、アプローチを敷地まで引っ張ってくることで、都心にありながら自然豊かな開発を目指す」とビジョンを述べる。

 また、開発後には芝浦に限らず、東京ベイエリア各地と連携していくことを表明。「船着き場を整備し、船の運航を整備していきたい。そうすることで、なかなかアクセスしづらい東京の水辺に対して、山手線からも行きやすくなる」と展望を明かした。

 とはいえ、これまでもこうした水辺開発は数多く行われており、埋立地は年々広がっている。ウォーターフロントと言いながら、主に物流機能に重きが置かれていて、“水辺の街”という意識は薄れてきてしまっているのではないか。

 そうした状況に対して内田氏が提案するのが、2019年に日の出埠頭に整備した「Hi-NODE」という新しい舟運施設の活用だ。ここでは船着き場とレストランが一体になった親水性のある世界をイメージしており、「2030年に街全体が完成したときには、人と水を隔てるものがないような、これまでのウォーターフロント事業とは異なる親水空間を作っていきたい」という。

 鉄道や路線バスなどの交通手段と船上交通のアクセスを強化することで、街と水上は一体化する。芝浦地区だけではなく、日本橋や神田など船着き場を持った複合開発地点と連携し、大きな枠組みで“水辺の街”として魅力的な都市を目指していくとのことだ。

 実は、こうした水辺の街づくりはすでに世界各国で実践されている。日本総合研究所の高野氏は、現在の潮流として「賑わい創出・観光の拠点化」「水上交通の発達」「イノベーションの集積」というポイントを挙げる。

 1つ目の「賑わい創出・観光の拠点化」については、「ニューヨークでは、パブリックアクセスや景観資源、 歴史的・文化的資源の向上を念頭に置きつつ、街を作っていこうとしている。特に水路へのパブリックアクセスの拡大、コミュニティとの一体化という目的を持つことで、社会課題が解決に向かうというコンセプト」と説明。

 2つ目の「水上交通の発達」は、まさに「賑わい創出・観光の拠点化」の開発を支えているという。実際、2018年と2024年のニューヨークを比較すると、フェリー航路が圧倒的に増えており、利用者も90パーセントが通勤・通学に使っている。便利だからという理由以上に、『他の交通手段より乗り心地がいい』という意見が多いそうだ。ニューヨーク同様、シドニーでも通勤・通学の手段としてフェリーが利用されているという事例も挙げた。

 そして、3つ目の「イノベーションの集積」については、「ニューヨークやフランスは水辺にイノベーション機能が集まり、空飛ぶ車の開発なども水辺にある事例が非常に多い」と挙げる。「水辺空間での新たなライフスタイルは、都市の活性化、競争力の観点から非常に重要。水辺開発で重視することは、パブリックスペースの存在、イノベーティブな体験であり、それを結ぶのが水上交通ということになる」と語った。

 東京都が推奨する『東京ベイeSGまちづくり戦略』においても、「水と緑を生かした調和」「スマート」「イノベーション」という3点に注力していこうと開発が進められている。海外の成功事例をもとに、東京でもそうした取り組みは着々と進められつつあるということだ。

■「本当に船が交通手段に?」「富裕層向けでは?」メディアからのストレートな意見に真摯に回答

 このような海外事例を聞くと、たしかに「BLUE FRONT SHIBAURA」は東京という過密で味気ない街を、従来にはない水辺活用によって変えてくれるような気がしてくる。だが、両者のプレゼン後には、集まったメディアから数々の質問が投げかけられた。

 まず、水上交通の推進ついて。ニューヨークやシドニーでは多くの人が通勤・通学に利用している例が挙げられたが、「日本の電車・バスなどの交通手段は諸外国と比較して非常に便利。わざわざ水路を利用しようという人がどれだけいるのか?」。これに高野氏は同意しつつも、コロナ禍によるライフスタイルの変化に触れ、「以前よりは可能性が増している。また、『ベターライドエクスペリエンス』のように、移動にどこまで付加価値をつけることができるか。そこで得られる経験、感性を高められるか」と、価値観の変化にまで着手していく必要があることを課題に挙げた。

 さらに、「BLUE FRONT SHIBAURA自体が富裕層やインバウンドの外国人のためのもののように感じてしまう」という指摘。たしかに、ラグジュアリーホテルを誘致していたり、舟運サービス「BLUE FERRY」(晴海~芝浦・日の出区間)の価格が片道500円(現在はキャンペーン価格で250円)であるなど、正直、我々庶民が日常的に使うイメージはわきにくい。

 内田氏も、「“浮世離れした”交通手段と思う方もいるかもしれない」として改善点はあるとしながらも、「ライフスタイルに幅が出てくるなかで、無機質な地下鉄の景観とは違う船の上の景色などに対して、選択肢の一つとしてフェリーを使うことに付加価値を感じてもらえる可能性もある。また、混雑緩和という意味での利用も考えられる。たとえば大江戸線の勝どき駅は、混雑が激しく駅構内に入るのも大変。多少値段が高くても、水上交通を利用してみようという人も増えていくのでは」という期待も口にしていた。

 また、「芝浦地区に来ると何が楽しいと思えるのか。表参道ヒルズや六本木ヒルズなどは目的がわかりやすいが、この芝浦地区の魅力が曖昧に感じる」というストレートな意見も飛んだ。たとえば表参道ヒルズや六本木ヒルズなら、ブランドショップでの買い物やレストランでの豪華な食事、最先端のカルチャーを感じながら、この時期ならではのイルミネーションを楽しむこともできる。では、「BLUE FRONT SHIBAURA」は何を“テーマ”とし、人々が何を求めて集まることを想定しているのだろうか。

 ここで話題に上ったのは、「都市開発にテーマは必要か?」ということだった。上記のようなヒルズ系はテーマがわかりやすいが画一的でもあり、場所によっては「客が少ない、閑散としている」などと報道される場所もある。そこで高野氏が提示したのが、これまでの都市開発にない“価値”の考え方だった。

 「都市景観として、この地域はかなり素晴らしい場所だと思っている。水辺が好きな人は多く、ただそこに佇んでいるだけで心地よく感じる。そこで仕事をしたい、安らぎたい、集まりたい…それだけでも価値がある」。内田氏も、眼前に広がる空と海、ツインタワーを囲む運河と緑地というロケーションが身近にあるこの地域について「海の景観が人にどんな効果をもたらすか、実際に作業をしてもらい検証をしたところ、脳の活動や自律神経の活動に効果があることがわかった。やはり、水辺には人間にとって価値があると感じた」と語る。

 人々にとっての価値ある場所とは、ゴージャスなホテルか、ブランドショップか、レストランか。実はそうしたものはすでに飽和状態にあり、高野氏は「日本の都市開発でもパブリックスペースの重要性、安らげる空間の重要性が見直されている。だが、そういった場所は水辺にはほとんどない」と現状を明かす。都市が抱えるこのような課題に対し、今回のプロジェクトは計画時点からそうした価値を重視。「BLUE FRONT SHIBAURA」は、何かテーマ性を伝えるものではなく、水辺というメリットを最大限に生かし、人に安らぎを与えることで優雅なひと時を感じてもらうことが何よりも最大の売りだという。

 有効活用できる土地が極端に少ない日本では、「その場の用途をハッキリさせる」ことが通念だった。これまでの再開発においては、ユーザーへの“何もしない場所”の提供は否定的だった風潮すらある。そんな中で生まれた新たな潮流として、水辺を生かした再開発における“何もしない空間”の提供。これは現代に生きる我々日本人にとっては、最も貴重なものなのかも知れない。

(文:磯部正和)

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