和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2024年12月22日(日)

熊野の魅力 語り合う 思想家・内田樹さんら登壇 和歌山・田辺でシンポジウム

真砂充敏市長(左)の司会で熊野の魅力について語る内田樹さん(中央)、釈徹宗さん=和歌山県田辺市新屋敷町で
真砂充敏市長(左)の司会で熊野の魅力について語る内田樹さん(中央)、釈徹宗さん=和歌山県田辺市新屋敷町で
 世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の登録20周年を記念したシンポジウムが6日、和歌山県田辺市新屋敷町の紀南文化会館であった。思想家で合気道家の内田樹さん、宗教学者で相愛大学学長の釈徹宗さんらが登壇。千年以上にわたって受け継がれてきた熊野の精神性や、この地が生んだ武道「合気道」の神髄について語り合った。

 熊野は「信不信を選ばず、浄不浄を嫌わず」と、全ての人を受け入れてきた寛容の地。一方で、市出身の植芝盛平(1883~1969)が創始した合気道は「和合の精神」を大切にしている。シンポジウムは、それぞれの魅力や共通点を探ろうと田辺市が主催した。

 基調講演では、内田さんが合気道の哲学について話した。

 合気道は試合がなく、相対的な優劣や勝ち負けを競わない武道。「勝とうと思うと負ける。強くなろうとすると弱くなる」。目指すのは、我執を捨てることだという。

 いまの日本社会では子どもも大人も「与えられた問いに答え、採点される」という枠組みに巻き込まれているが、それは「後手に回る」ことだと指摘。武道では、後手に回るのではなく「場を主宰する」ことが大切で、自分の心と体を深く見つめて雑音を消していくのだという。

 「合気道はみそぎ、心身の浄化である」とも述べ、「植芝盛平先生の哲学はなかなか理解が難しいが、合気道を学び、けいこすることによって、だんだんと分かってくる」と語った。

■浄化の聖地 熊野


 トークセッションは真砂充敏市長が進行役を務め、内田さんと釈さんが熊野の魅力について意見を交わした。

 内田さんは、熊野で生まれ育った盛平について「生まれた時から山河に囲まれ、自然の強大なエネルギーをびしびし感じていたはず。人知の限界を超える宗教的な直感のようなものが、この地に生まれたら育つのではないか」と話した。

 釈さんは「熊野は、行けば誰もが聖地であることを実感できる場所。余計なもの、要らないものが浄化されるのを実感する。『生命が生まれる海』と『死者が還る山』に挟まれた、生と死の境界線」と語った。

 これからの熊野についても話題を展開。内田さんは、明治維新後の神仏分離によって途絶えた「御師」制度の再建について言及した。御師とは自らの家を宿坊として提供し、聖地へ導いていた人のことで「聖と俗の間を取り持つ人。『田辺御師』というシステムを作ってはどうか」と述べた。

 釈さんは「小栗判官の物語など、この地にまつわる芸能の演目はたくさんある。『田辺伝統芸能ナイト』のような催しを開いては」と提案した。