和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2024年12月23日(月)

みなべで日本ウミガメ会議 全国から250人参加

全国から調査や研究、保護の関係者など約250人が参加した日本ウミガメ会議みなべ大会(和歌山県みなべ町山内で)
全国から調査や研究、保護の関係者など約250人が参加した日本ウミガメ会議みなべ大会(和歌山県みなべ町山内で)
千里の浜でふ化率を調べるウミガメ会議の参加者(和歌山県みなべ町山内で)
千里の浜でふ化率を調べるウミガメ会議の参加者(和歌山県みなべ町山内で)
ホテル駐車場に設けられた移動水族館と移動博物館で親子連れなどが海の生き物に親しんだ(みなべ町山内で)
ホテル駐車場に設けられた移動水族館と移動博物館で親子連れなどが海の生き物に親しんだ(みなべ町山内で)
 全国でウミガメの調査や研究に取り組む人らが情報交換する「第30回日本ウミガメ会議みなべ大会」(NPO日本ウミガメ協議会と大会実行委員会主催)が15~17日、和歌山県みなべ町であった。アカウミガメの上陸や産卵は全国的に減少傾向にあることや、台風や護岸工事などによって産卵場所となる砂浜が減少していることなどが報告された。

 同町での開催は1993年の第4回大会以来で、各地の調査・保護関係者、研究者、大学生など約250人が参加。15日は、国内最大のアカウミガメの産卵地とされる千里の浜の見学会、16、17日は町内のホテルで調査や研究の発表会があった。

■紀伊半島の砂浜減少

 「紀伊半島のウミガメ」と題し、三重県からみなべ町まで紀伊半島の各地で調査、保護の活動をする団体が現状について発表した。三重県の志摩半島では台風によって砂の浸食が進み、流失する産卵巣も多いこと、紀宝町でも七里御浜の井田海岸では石が増え、砂は松林付近にわずかに残る程度になったこと、海岸沿いでは人家を守るため、護岸工事が行われるようになったことなどの説明があった。

 和歌山県でも新宮市の王子ケ浜や那智勝浦町の下里大浜で、台風による砂の浸食や川の増水などの影響を受ける現状が報告された。すさみ町立エビとカニの水族館の平井厚志さんは県内87カ所の砂浜での調査報告で、自然の状態が残された砂浜はわずかで砂質や幅、奥行きの狭さなど産卵までできる所が少ないことを説明。なぜ千里の浜にウミガメの上陸、産卵が集中するかについては、何かしら条件が整っていると考えられるが要因は分からず、データを取り続け現状確認することが大事だとした。

 みなべウミガメ研究班の尾田賢治会長は、後輩への浜のパトロール指導や清掃活動、釣り人の車のライトからウミガメの上陸、産卵を守るために遮光ネットを設置していること、今年は日本ウミガメ協議会や日本郵船などの取り組みで、ウミガメに発信機を付けて調べたところ、みなべ町に上陸したウミガメがその後、韓国付近まで泳いでいることを説明した。尾田さんは今後について「故・後藤清さんはじめ諸先輩方の活動や意思を引き継ぎ、模索しながら和気あいあいと長く続けていきたい」と語った。

■アカウミガメの産卵減少

 日本ウミガメ協議会の松沢慶将会長が各地の調査関係者から提供を受けたデータを基に今年の上陸、産卵状況を報告した。それによると、アカウミガメは上陸2510回(前年比68%)、産卵1545回(同78%)と減少した。屋久島のデータは含んでいない。一方で、アオウミガメは上陸1453回(同133%)、産卵933回(同112%)と増えた。

 アカウミガメの上陸、産卵は、1990年代に減り、21世紀に入って増えたが、2013年をピークに落ちてきているのが大きな流れで松沢会長は「憂慮すべき状態」と語った。アオウミガメは南西諸島の状況として増加傾向にあり、世界的に食用捕獲が減り増えてきていると考えられているという。漁網に入ってしまう混獲(2018年10月~19年9月、調査地6地点と情報提供の合計)は741個体、漂着(同期間)は540個体との協議会の報告もあった。

 主要産卵地からの今年の状況説明でも、紀伊半島の発表と同様、浜の浸食が進み、アカウミガメの上陸、産卵が減少している報告が相次いだ。千里の浜も産卵回数は過去3番目の少なさだったと伝えた。

 屋久島については、エコツーリズム推進法を受け、ウミガメを守るための法的規制の検討も進んでいるという報告もあった。

 静岡県や沖縄県などでの海洋ごみの誤飲についての調査発表もあり、漂着死したウミガメを解剖して調べたところ、消化管からプラスチックやビニールなどが見つかる例があったと報告された。ただ、それらが原因で死んだと特定することは難しいという説明や、死因だと判断できる例はほとんどなかったという報告もあった。

■参加者交流深める

 参加者は発表会や懇親会を通じて情報交換し、交流を深めた。

 千葉県の「一宮ウミガメを見守る会」の御領徳子さんは「混獲の話を聞き、今後の保護を考える学びになった。砂浜の減少など、ウミガメの調査からも地球環境が変わってきていることが感じられる」、鹿児島県西之表市ウミガメ保護監視員で「NPO Turtle Crew」理事の増山涼子さんは「私たちと同じように浜を歩いて調査や保全活動をしている人と話をできることが楽しい。活動に関わる人をどう確保するか、話し合いたい」と語った。

 みなべウミガメ研究班の尾田会長は「全国の学生や関係者に、梅干しや梅酒をはじめとしてみなべの食や魅力もPRできた」と語った。

■「梅が守った」


 開会のあいさつでは、日本ウミガメ協議会の松沢会長が、長さ1・3キロと短く、狭い千里の浜に多い年でアカウミガメが350回の産卵をする、本州で最大の産卵地となっている要因として考えられることに、梅産業を挙げた。

 松沢会長は「浜を文化財指定したり、長年、浜で調査、保護する人がいたり、さまざまな奇跡が積み重なり、どれが欠けてもいまのウミガメはなかったが、バックグラウンドにあるのは梅産業だと思っている」と語った。梅産業という経済的な裏打ちがあったからこそ、千里の浜も人工的な開発を免れてきたし、ウミガメの産卵も観光化されずに済んでいると考えているという。