和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

「99歳の皆地笠職人」

 田辺市本宮町で平安時代から作られている皆地笠(みなちがさ)を購入した▼ヒノキを割いて薄いひも状にし、それを手作業で編み上げたとんがり帽子の笠。本来は実用品だが、規則正しい編み目やきらきらと輝くヒノキの木肌は工芸品の域に達している。その美しさにかぶることをやめ、インテリアとして飾る人もいるほどだ▼笠の裏側にはぐるりと丸い笠台があり、頭の上にちょこんと載せるようにかぶる。笠と頭の間に空間ができるので風通しが良く、むれにくい。ヒノキは油を含んでいるので雨を弾き、大きく広がった縁は首の周りや肩がぬれるのを防いでくれる。熊野古道の雰囲気によく似合い、語り部にも愛用している人が多い▼この笠を作ることができるのは、田辺市文化賞受賞者で、来年1月に100歳を迎える芝安男さんただ一人。購入を機会に、20年ぶりに芝さんの工房を訪ねたところ、以前と変わらないはつらつとした姿で出迎えてくれた▼笠作りで最も大切なのは、材料になるヒノキの選定。長年の経験から、立木の姿を見て笠にできるかどうかを見極めて切り出す。目利きの技を伝えようと後継者の育成に努めたが、ついに習得する人は現れず、最後の皆地笠職人となった▼「これまで笠作りをやめようと思ったことは一度もありません。100歳になっても編み続けますよ」と力強く話す。毎日編み続けた指先は若々しく、つやつやしていた。(長)

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