“詐欺メイク”、ネガティブな印象にどう向き合う? ポジティブに変換したメーカー側の英断
今やすっかり定着した感のある「詐欺メイク」というワード。昨今のメイクアイテムを見ると“中顔面短縮”や“二重ライン強調”など、明らかに詐欺メイクを意識したコスメが増えている傾向も見られる。以前は「詐欺メイク」というワード自体がネガティブに受け取られており、企業側も迂闊には活用できず後手に回っていたが、コロナ禍以降、ユーザーのメイクに対する考え方が変わり、企業側も積極的に“キャッチ”として採用している。先んじて「詐欺」のワードを商品パッケージに入れて展開し、ヒット商品を生んだBCLカンパニーに話を聞いた。
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■SNSの発達により、「詐欺メイク」のトレンドが確変!?
自分のコンプレックスを隠し、まるで整形したかのように顔の印象をガラリと変える「詐欺メイク」。元々は「濃いアイラインで涙袋を書く」などパーツを強調するアイメイクが主流で、「盛る」というワードもよく使われていた。
しかし現在の「詐欺メイク」は、ただ単純に“盛る”ことだけでなく、全体のバランスを見ながら微調整する“繊細さ”も隠されているように感じられる。「詐欺メイク」のトレンドは、どのように変わってきたのだろうか。
「以前はメイクを上乗せして派手にしていく方向でしたが、今は顔全体の印象を操作する感覚だと思います。それは『中顔面短縮メイク』が一番大きいですが、そこに付随して、目だけでなく、リップやチークの入れ方など全てパーツに影響が出てきています。今は韓国のメイクアップアーティストさんのテクニックが発信されていることや、SNSのトレンドを作っているインフルエンサーの方々の影響もあり、ユーザーの方たちが高度なテクニックのメイクを研究されているなと感じています」(スタイリングライフ・ホールディングス BCLカンパニー 商品開発本部 企画2部 課長 小川麻衣さん/以下同)
肌治療や整形も身近になってきた今、トリックアートのように目を大きく見せたり、小顔に見せるコスメが次々と市場に登場している。これには「パーツの印象をメイクで変える」ことが、ユーザーだけではなくメーカー側にとっても当たり前になってきているという背景があるようだ。
「以前と比べて、今は『作り手側が消費者の方の小さなムーブメントをどれだけ早く拾い上げるか』という動きに変わり、さらには消費者の方が発信されることにメーカーがついていくことも少なくない状況です。やはりSNSの発達により、人々の情報の取り方が変わってきていて、メディアから発信される情報以外の影響が大きくなっていると思います。消費者の方々と距離が近いインフルエンサーの方が見せるメイクのビフォーアフターは、私もやってみたい!という気持ちをより高めているように感じます」
■「爆誕」「詐欺」と思い切ったワードチョイスで新商品を定着させた戦略
コロナ禍を経てマスクが外せるようになった2022年頃から、整形の施術をメイクにも反映する「中顔面短縮メイク」がトレンドに。各パーツを大きく見せる、盛るのでなく、顔全体のバランスを見た上で、人中を短くするなど、トリックアートのようなメイク技術による詐欺メイクにシフトチェンジしてきた。そんな2022年10月、同社は、目元のメイクに注力するブランド「アイホリック」をスタートさせ、その第1弾として「アイホリック ラメペンシル ツヤぷくベージュ」を発売。パッケージには「涙袋爆誕」とインパクトのあるワードが表記されていた。
「それまでの涙袋のメイクは、目の下にキラキラのアイシャドウを乗せるのが定番でしたが、この頃は、韓国のメイクアップアーティストさんのテクニックとして、コンシーラーを使うことが国内に広まってきたタイミングでした。それに伴い、他社さんも徐々にアイシャドウからコンシーラーの商品に切り替えられた時期でした。
若手プランナーたちが話し合う中で、『涙袋を作る』ことを分かりやすく表現するのに『爆誕』というワードがすごくいいねと盛り上がったんです。社内でも共感してもらいましたし、結果的にすごく惹かれるワードとしてお客様にも受け入れていただきました。『コンシーラーペンシル』は若手プランナーのアイデアから最先端のトレンドに着目したアイテムで、弊社らしいワードのチョイスもあり、お客様に認知いただいた商品だと思います」
そして2024年6月には『アイホリック 描く粘膜ペンシル』を発売。こちらのパッケージには「粘膜詐欺」「下まつげ詐欺」の文字が配置されている。「詐欺」というキーワードを用いたのはかなり思い切った発想だが、これも社内の話し合いから生まれたという。
「前の商品に代わるインパクトのあるワードをチョイスしようと検討がありました。『詐欺メイク』自体、そこまでネガティブな印象ではなくなっていた時期でしたが、『詐欺』自体は決して良い言葉ではありません。『どう受け入れられるか』との懸念もあったので、社内でも検討を重ね、得意先さんにもご意見をいただきながら最終決定になりました。こちらも発売してみると、やはりワードの分かりやすさという点でお客様に認知されたと思います」
■”自然に見える”ことが重要な詐欺メイク、やりすぎに見えないよう細部まで工夫
より自然に見えることも、現在の詐欺メイクのトレンドになっている。詐欺メイクは一つ間違えると不自然になり、「メイクが変」と言われてしまうほど、塩梅が難しい部分もあった。ユーザーは”自然に見える”ことに強くこだわるため、新商品発売の際には、パウダーの質やペンシルの筆感など、やりすぎに見えないように細部まで工夫を凝らしたという。
「涙袋で言うと、アイシャドウやアイライナーで強調しすぎてしまうと、それが不自然な印象を与えるきっかけになっていたと思います。『コンシーラーペンシル』はコンシーラーを使って涙袋を描くので、そうした不自然さの軽減にもなっています。ツヤのない、マットな質感を使って涙袋を作ることで、より本物の涙袋であるかのように見せるのがポイントです。また、涙袋を高く大きく見せるコンシーラーと、影をつけるリキッドライナーが一緒になっていて、これ1本で自然な涙袋が作れます。色味も薄くてナチュラル。口コミサイトでも『超自然』というコメントをいただいていますが、本当に自然な仕上がりになるように検討を重ねた色味になっています。
『描く粘膜ペンシル』は、目の際や下まぶたに描くものですから、より細かい作業になります。手元が安定するように、一般的なものよりも少し筆先が短く、コシのある肌当たりや形状にもこだわりました」
今後の展開については「やはり目元のブランドですので、今後も目元に特化したラインナップの製品を検討しております」という小川さん。「今後のトレンドもしっかりチェックしつつ研究を重ねて、今ユーザーの方がどういうふうにお顔を作っていきたいかということに寄り添った製品開発をしていきたいと思っています」。
PROFILE/小川麻衣
スタイリングライフ・ホールディングス BCLカンパニー 商品開発本部 企画2部 課長。『アイホリック』他、メイクコスメの企画・開発を行う。
文・水野幸則 撮影・小泉賢一郎
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■SNSの発達により、「詐欺メイク」のトレンドが確変!?
自分のコンプレックスを隠し、まるで整形したかのように顔の印象をガラリと変える「詐欺メイク」。元々は「濃いアイラインで涙袋を書く」などパーツを強調するアイメイクが主流で、「盛る」というワードもよく使われていた。
しかし現在の「詐欺メイク」は、ただ単純に“盛る”ことだけでなく、全体のバランスを見ながら微調整する“繊細さ”も隠されているように感じられる。「詐欺メイク」のトレンドは、どのように変わってきたのだろうか。
「以前はメイクを上乗せして派手にしていく方向でしたが、今は顔全体の印象を操作する感覚だと思います。それは『中顔面短縮メイク』が一番大きいですが、そこに付随して、目だけでなく、リップやチークの入れ方など全てパーツに影響が出てきています。今は韓国のメイクアップアーティストさんのテクニックが発信されていることや、SNSのトレンドを作っているインフルエンサーの方々の影響もあり、ユーザーの方たちが高度なテクニックのメイクを研究されているなと感じています」(スタイリングライフ・ホールディングス BCLカンパニー 商品開発本部 企画2部 課長 小川麻衣さん/以下同)
肌治療や整形も身近になってきた今、トリックアートのように目を大きく見せたり、小顔に見せるコスメが次々と市場に登場している。これには「パーツの印象をメイクで変える」ことが、ユーザーだけではなくメーカー側にとっても当たり前になってきているという背景があるようだ。
「以前と比べて、今は『作り手側が消費者の方の小さなムーブメントをどれだけ早く拾い上げるか』という動きに変わり、さらには消費者の方が発信されることにメーカーがついていくことも少なくない状況です。やはりSNSの発達により、人々の情報の取り方が変わってきていて、メディアから発信される情報以外の影響が大きくなっていると思います。消費者の方々と距離が近いインフルエンサーの方が見せるメイクのビフォーアフターは、私もやってみたい!という気持ちをより高めているように感じます」
■「爆誕」「詐欺」と思い切ったワードチョイスで新商品を定着させた戦略
コロナ禍を経てマスクが外せるようになった2022年頃から、整形の施術をメイクにも反映する「中顔面短縮メイク」がトレンドに。各パーツを大きく見せる、盛るのでなく、顔全体のバランスを見た上で、人中を短くするなど、トリックアートのようなメイク技術による詐欺メイクにシフトチェンジしてきた。そんな2022年10月、同社は、目元のメイクに注力するブランド「アイホリック」をスタートさせ、その第1弾として「アイホリック ラメペンシル ツヤぷくベージュ」を発売。パッケージには「涙袋爆誕」とインパクトのあるワードが表記されていた。
「それまでの涙袋のメイクは、目の下にキラキラのアイシャドウを乗せるのが定番でしたが、この頃は、韓国のメイクアップアーティストさんのテクニックとして、コンシーラーを使うことが国内に広まってきたタイミングでした。それに伴い、他社さんも徐々にアイシャドウからコンシーラーの商品に切り替えられた時期でした。
若手プランナーたちが話し合う中で、『涙袋を作る』ことを分かりやすく表現するのに『爆誕』というワードがすごくいいねと盛り上がったんです。社内でも共感してもらいましたし、結果的にすごく惹かれるワードとしてお客様にも受け入れていただきました。『コンシーラーペンシル』は若手プランナーのアイデアから最先端のトレンドに着目したアイテムで、弊社らしいワードのチョイスもあり、お客様に認知いただいた商品だと思います」
そして2024年6月には『アイホリック 描く粘膜ペンシル』を発売。こちらのパッケージには「粘膜詐欺」「下まつげ詐欺」の文字が配置されている。「詐欺」というキーワードを用いたのはかなり思い切った発想だが、これも社内の話し合いから生まれたという。
「前の商品に代わるインパクトのあるワードをチョイスしようと検討がありました。『詐欺メイク』自体、そこまでネガティブな印象ではなくなっていた時期でしたが、『詐欺』自体は決して良い言葉ではありません。『どう受け入れられるか』との懸念もあったので、社内でも検討を重ね、得意先さんにもご意見をいただきながら最終決定になりました。こちらも発売してみると、やはりワードの分かりやすさという点でお客様に認知されたと思います」
■”自然に見える”ことが重要な詐欺メイク、やりすぎに見えないよう細部まで工夫
より自然に見えることも、現在の詐欺メイクのトレンドになっている。詐欺メイクは一つ間違えると不自然になり、「メイクが変」と言われてしまうほど、塩梅が難しい部分もあった。ユーザーは”自然に見える”ことに強くこだわるため、新商品発売の際には、パウダーの質やペンシルの筆感など、やりすぎに見えないように細部まで工夫を凝らしたという。
「涙袋で言うと、アイシャドウやアイライナーで強調しすぎてしまうと、それが不自然な印象を与えるきっかけになっていたと思います。『コンシーラーペンシル』はコンシーラーを使って涙袋を描くので、そうした不自然さの軽減にもなっています。ツヤのない、マットな質感を使って涙袋を作ることで、より本物の涙袋であるかのように見せるのがポイントです。また、涙袋を高く大きく見せるコンシーラーと、影をつけるリキッドライナーが一緒になっていて、これ1本で自然な涙袋が作れます。色味も薄くてナチュラル。口コミサイトでも『超自然』というコメントをいただいていますが、本当に自然な仕上がりになるように検討を重ねた色味になっています。
『描く粘膜ペンシル』は、目の際や下まぶたに描くものですから、より細かい作業になります。手元が安定するように、一般的なものよりも少し筆先が短く、コシのある肌当たりや形状にもこだわりました」
今後の展開については「やはり目元のブランドですので、今後も目元に特化したラインナップの製品を検討しております」という小川さん。「今後のトレンドもしっかりチェックしつつ研究を重ねて、今ユーザーの方がどういうふうにお顔を作っていきたいかということに寄り添った製品開発をしていきたいと思っています」。
PROFILE/小川麻衣
スタイリングライフ・ホールディングス BCLカンパニー 商品開発本部 企画2部 課長。『アイホリック』他、メイクコスメの企画・開発を行う。
文・水野幸則 撮影・小泉賢一郎
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