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高脂肪食による脂肪肝の発生を防ぎうる新たなメカニズムを解明

藤田医科大学(愛知県豊明市)内分泌・代謝・糖尿病内科学 鈴木敦詞教授、消化器内科学講座、医科プレ・プロバイオティクス学講座 廣岡芳樹教授らの共同研究チームは、糖尿病研究の最先端技術と腸内細菌研究の解析技術を組み合わせ、プログルカゴン由来ペプチド(PGDPs)が脂質代謝において重要な役割を果たしていることを解明しました。また、PGDPsの欠如マウスの腸内細菌ではパラバクテロイデスの増加やラクトバチルスの減少など肥満抵抗性に関与する腸内環境の変化を認めました。この発見は、高脂肪食(HFD)が引き起こす脂肪肝などの代謝異常の予防や治療に新たな道を開く可能性があります。
本研究成果は、国際誌「Nutrients」の2024年7月14日(オンライン版)に公開されました。
URL:https://www.mdpi.com/2072-6643/16/14/2270


<研究成果のポイント>

プログルカゴン由来ペプチド(PGDPs)が欠損しているマウスでは、高脂肪食を与えると肝臓における脂肪酸の酸化を促す遺伝子の発現が低下していましたが、それにもかかわらず、肝臓や脂肪組織への脂質蓄積が少なく、脂肪肝の発生が抑制されることがわかりました
この現象の要因として、PGDPs欠損マウスでは小腸での脂質吸収が低下していることが示され、糞中のコレステロール量が増加していることも確認されました
特定のプレバイオティクス注1)による新たな食事指導方法の開発が期待されます


<背 景>
プログルカゴン由来ペプチド(PGDPs)は、グルカゴン、GLP-1、GLP-2などのホルモンを含み、肝臓、脂肪組織、腸管における脂質代謝を調節する重要な役割を果たします。これまで、PGDPsがエネルギーバランスや脂肪分解に関与していることが分かっていましたが、特に高脂肪食摂取によって引き起こされる脂質代謝の変化において、PGDPsがどのように作用するかは十分に解明されていませんでした。肥満や脂肪肝は現代の食生活に関連する大きな健康問題であり、その発生メカニズムを理解することは、予防や治療の新たな手段を見つける上で重要です。


<研究方法>
本研究では、PGDPsが欠損したマウス(GCGKOマウス)を用いて、高脂肪食による脂質代謝の変化を調査しました。
プログルカゴン由来ペプチド(PGDPs)が欠損したマウス(GCGKOマウス)と対照マウスに、高脂肪食(HFD)を7日間負荷して脂質代謝の変化を検討しました。実験開始後、マウスに高脂肪食を与え、7日後に肝臓、白色脂肪組織、十二指腸からサンプルを採取し、脂質代謝に関する詳細な分析を行いました。
肝臓では、脂肪のβ酸化に関連する遺伝子の発現をリアルタイムPCR(qPCR)を用いて測定しました。また、肝臓に蓄積されている遊離脂肪酸(FFA)や中性脂肪の量を調べ、どれほどの脂質が蓄積されているかを評価しました。十二指腸においては、脂質吸収に関連する遺伝子の発現を分析し、糞中のコレステロール量を測定することで、腸管での脂質吸収がどの程度行われているかを調査しました。さらに、白色脂肪組織におけるホルモン感受性リパーゼ(HSL)のリン酸化レベルを測定し、脂肪分解の活性化状態を確認しました。
これらの手法により、PGDPs欠損マウスと対照マウスの脂質代謝における違いを詳細に調べ、特に肝臓と腸における脂肪酸酸化や脂質吸収の変化を明らかにしました。


<研究成果>
本研究では、PGDPsが欠損したマウス(GCGKOマウス)は、肝臓における脂肪のβ酸化・分解が低下しているにもかかわらず、肝臓の遊離脂肪酸(FFA)および中性脂肪の蓄積が抑えられ、脂肪組織の増加も抑制されました。これにより、PGDPsの欠如が高脂肪食による脂肪肝の発生を防ぐ可能性が示されました。さらに、GCGKOマウスでは十二指腸における脂質吸収に関連する遺伝子Cd36の発現が低下し、糞中のコレステロール量が増加していることから、腸管での脂質吸収が抑制され、脂肪組織重量増加や肝臓でのFFAや中性脂肪の蓄積が抑制されていることが示唆されました。またGCGKOマウスでは肝臓におけるCd36の発現の低下も見られ、PGDPsの欠損は肝臓でのFFA取り込みも減弱している可能性があります。
また、PGDPsの欠如マウスの腸内細菌ではパラバクテロイデスの増加やラクトバチルスの減少など肥満抵抗性に関与する腸内環境の変化を認めました。


<今後の展開>
今回の研究により、プログルカゴン由来ペプチド(PGDPs)の欠損が高脂肪食による脂肪肝や脂肪組織の増加を抑制することが明らかになりました。特に、腸管での脂質吸収の抑制がこのメカニズムの鍵となっていることが示唆され、PGDPsが脂質代謝において重要な調節因子であることが分かりました。グルカゴンには基礎代謝亢進作用と肝臓におけるβ酸化促進作用があり、GLP-1は摂食抑制作用と腸管からの脂質吸収抑制作用を有することから、現在グルカゴン/GLP-1受容体作動薬が新規の肥満・脂肪肝への創薬として期待されています。一方、GLP-2作用の遮断は腸管からの脂質吸収の抑制作用を有しますが著明なインスリン抵抗性を惹起し、脂肪肝を増悪することが報告されています。今回GLP-2作用の遮断に加えてグルカゴン作用を遮断するとインスリン感受性がよくなり、脂肪肝抵抗性を来したと考えられました。またPGDPs作用が欠損したマウスの腸内細菌を解析したところ、一部肥満抵抗性に関与する腸内細菌の変化を示しました。PGDPs作用の欠損が肥満・脂肪肝の治療標的となりうるか今後の検討課題です。

今後は、PGDPsが具体的にどのように腸での脂質吸収を制御しているかをさらに詳細に解明する必要があります。GCGKOマウスの表現型は腸管特異的PPARαの欠損と非常に類似しています。腸管での脂肪吸収に関わる他の因子や分子メカニズムとの相互作用を調査し、PGDPs欠損がどのように腸内環境や微生物叢に影響を与えるのかを明らかにすることが重要です。また、今回の実験は短期間(7日間)で行われたため、長期間にわたる高脂肪食の影響についても追跡し、PGDPs欠損が長期的な脂肪肝や代謝性疾患の予防にどのような影響を及ぼすかを調べることも有益です。
さらに、このPGDPs欠損モデルを用いた研究から得られた知見を基に、新たな治療法の開発も期待されます。PGDPsの調節をターゲットとした薬剤や栄養療法は、脂肪肝や肥満といった代謝性疾患の治療に応用できる可能性があります。特に、腸管での脂質吸収をコントロールするアプローチは、新しい治療戦略として有望です。
最終的には、この研究を基にヒトでの臨床応用を見据えた臨床研究を行い、PGDPsの調節を介した脂質代謝制御がヒトにおいても有効であるかどうかを検証することが今後の大きな課題となるでしょう。これにより、肥満や脂肪肝の発生を抑える新たな治療法の確立が期待されます。
将来的には、腸内環境をコントロールする素材であるプレバイオティクスなどを活用して膵・腸ホルモン分泌を制御することができれば肥満を効率的に抑制することが可能になるかもしれません。
手段の一つとして、本学で進めているプレバイオティクスを用いた補完治療が有用である可能性が高いと推察されます。


<用語解説>
●プレバイオティクス
体に存在する良い効果を発揮する菌を選択的に増やす食品成分。オリゴ糖・食物繊維など。


<文献情報>
●論文タイトル
Impaired Fat Absorption from Intestinal Tract in High-Fat Diet Fed Male Mice Deficient in Proglucagon-Derived Peptides

●著者
西田康貴1、上野慎士1、清野祐介1、日高志保美1、村尾直哉1、浅野友貴1、藤沢治樹1、四馬田恵1、髙栁 武志1、飯塚 勝美2、藤井匡3,4、栃尾巧3,4、椙村益久1、廣岡芳樹3,4、鈴木敦詞1

●所属
1 藤田医科大学 医学部内分泌・代謝・糖尿病内科学
2 藤田医科大学 医学部臨床栄養学
3 藤田医科大学 医学部消化器内科学
4 藤田医科大学 医学部医科プレ・プロバイオティクス

●掲載誌
Nutrients

●掲載日
2024年7月14日

●DOI
10.3390/nu16142270




本件に関するお問合わせ先
学校法人 藤田学園 広報部 TEL:0562-93-2868 e-mail:koho-pr@fujita-hu.ac.jp


プレスリリース詳細へ https://digitalpr.jp/r/95462
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