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熊野古道 息づく伝承を訪ねて(5)清姫の生誕地(田辺市中辺路町)/熊野広めたヒロイン

清姫が水浴びしたと伝えられる富田川の「清姫淵」。左手に「清姫の墓所」があり、「清姫の墓」とされる石塔が立っている
清姫が水浴びしたと伝えられる富田川の「清姫淵」。左手に「清姫の墓所」があり、「清姫の墓」とされる石塔が立っている
清姫の生誕地地図
清姫の生誕地地図
 熊野古道中辺路を、田辺市の鮎川王子から北郡越を経て滝尻王子に向かう途中、真砂の道筋に「清姫の墓所」と刻字された石碑が立っている。

 清姫とは、能や歌舞伎、浄瑠璃で知られる「安珍・清姫伝説」に登場する悲運の娘。ここ真砂の庄は彼女の生誕地とされる。

 墓所に入ってみると、清姫像と一族の位牌(いはい)を祭ったお堂があり、その前に石塔や板碑が並んでいる。石塔は「清姫の墓」という。毎月23日に供養が続けられており、地元ではいまも清姫が大切な人と思われていることがうかがえる。

 その墓所のそばを富田川が流れる。夏には子どもたちが岩から飛び込むなど川遊びで人気の場所。「清姫が水浴した」という故事から清姫淵(庄司ケ淵)と呼ばれるが、「安珍との恋が実らずに身を投げた」という伝承も残る。

 集落まで歩くと、清姫の生家だと伝わる「真砂一族住居跡」がある。さらに遠く三栖から潮見峠に通じる古道には「捻木(ねじき)ノ杉」と呼ばれる大木が存在感を誇っている。

 清姫は平安初期に真砂の庄屋だった真砂一族4代目、清次の娘。伝承では13歳の頃、熊野参拝の途中に宿泊した奥州の僧・安珍に恋心を抱き、夫婦になることを約束したが、それが違えられて心が傷つき、大蛇に姿を変えて安珍を追い掛ける。道成寺(日高川町)の鐘に隠れたところを火炎で焼死させたという。

 この伝承はその後、物語として世に広まり、熊野が広く大衆に知られるきっかけにもなった。真砂一族の歴史を調べている地元の庄司喜代和さん(83)は「伝説は熊野の深い歴史を物語っている。しかし、清姫は悪女ではなく純真な娘。熊野が生んだ歴史のヒロイン」と力を込める。
(山本敏弘)

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