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【大阪大学】数滴の血液でAIが見抜く、あなたの本当の健康年齢 ― 未来を予測する新手法 ―
【研究成果のポイント】
◆血液中の22種類のステロイド*¹の測定値を用い、人工知能(AI)*²と生物学的知見を組み合わせることで、人体の生理健康状態を反映する「生物学的年齢」の予測モデルを構築
◆従来、ステロイドの個体間での濃度差や測定のばらつきが課題であったが、各ステロイド間の相対濃度を基準とする新たな方法により、測定データに基づく生物学的年齢の評価が可能に
◆個人の健康管理や早期の健康リスク評価、さらには個別化医療への応用が期待され、医学研究の新たな指標として社会に貢献する可能性
◇概要
大阪大学蛋白質研究所の汪秋益助教(研究当時、現:大阪大学・島津分析イノベーション協働研究所 招へい研究員)、大阪大学理学研究科生物科学専攻王梓さん(博士後期課程)、水口賢司教授、高尾敏文教授(研究当時、現:特任教授)を中心とする研究チームは、人体の代謝調節経路*³の知見を最先端の人工知能(AI)アルゴリズムに組み込み、健康状態を反映する「生物学的年齢」を定量的に評価するモデルを開発しました。この予測モデルでは、数滴(約5滴)の血液サンプルから得た22種類のステロイドレベルから生物学的年齢を算出することが可能です。
生物学的年齢とは、体の健康状態や老化の進行度を示す指標です。本研究は、高精度なステロイド測定データを基に、AI技術と生物学的知見を融合した生物学的年齢予測モデルを構築することで成果に結実しました。この革新的なアイデアは、蛋白質研究所所属研究者の分野横断的な連携のもと実現しました。
今後、健康管理の新たな指標として活用され、加齢に伴う健康リスクの早期発見や予防策策定に貢献することが期待されます。
本研究成果は、日本時間2025年3月15日(土) に米国科学誌「Science Advances」に公開されました。
◇研究の背景
生物学的年齢とは、体の健康状態や老化の進行度を示す指標です。実際の暦年齢と必ずしも一致せず、生活習慣や遺伝などの影響により大きく異なる場合があります。人の一生を一本の川に例えるならば、その上流にあたる乳児期では、各人の生物学的年齢にほとんど差は見られません。しかし、川が下流へと進むにつれ、遺伝的要因や生活習慣、環境要因などの影響で同じ暦年齢であっても生物学的年齢に個人差が生じるとされています。このような現象を定量的に捉えることは可能なのか――この問いに対し、本研究チームは生物学的年齢の精密な評価手法の開発に取り組みました。
◇研究の内容
私たちの体内では、ステロイドは生理的な恒常性*⁴を維持するうえで重要な役割を果たしており、その発現バランスは健康状態と密接に関連しています。そこで研究チームは、血液中の22種類のステロイドに着目し、これらの代謝調節経路が生物学的年齢の評価に有用ではないかと考えました。
本研究では、ステロイドの代謝調節経路をもとに、その動態を深層ニューラルネットワーク(DNN)*⁵によるAIアルゴリズムに導入し、独自の計算手法を開発しました。これにより、代謝調節経路と生物学的年齢との関連をモデル化でき、時間の経過により拡大する生物学的年齢の個人差を捉えることができました。
本予測モデルでは、わずか240マイクロリットル(約5滴)の血液を採取するだけで、独自に開発した高精度質量分析技術(LC-MS/MS)*⁶により、22種類の主要なステロイドを同時に測定できます。さらに、研究チームが構築したAIモデルを活用することで、このステロイドの血中濃度データに基づいた生物学的年齢予測を実現しました。
従来の方法と比較し、本モデルは以下の三つの革新性を有しています。
1. 個体差を補正するための前処理手法
・各ステロイドの相対濃度比を保持しつつ、個体ごとの総ステロイド量の違いを補正
・実験バッチ*⁷間の誤差を抑制し、一貫性のある測定を実現
2. 独自に損失関数*⁸を考案、設計
・集団内の生物学的年齢差が時間とともに拡大する特性をAIモデルの学習プロセス*⁹に導入
3. 生物学的に解釈可能なAIモデルの構築
・ステロイドの代謝調節経路をDNNに統合
・「ブラックボックス*¹⁰型」AIとは異なり、得られた生物学的年齢に対する生化学的根拠を提示可能
本研究は、ステロイドの血中濃度という客観的なデータにより生物学的年齢を予測する新たなアプローチを提供するものです。さらに、ストレスホルモンの一種であるコルチゾール*¹¹が「加齢促進因子」として作用することが明らかになりました。具体的には、コルチゾールのレベルが通常の2倍に上昇すると、生物学的年齢上昇の度合いが約1.5倍になるという結果が得られました。この知見は、ストレス管理を通じた老化抑制の可能性を示唆しており、今後の健康管理や加齢制御の研究において重要な示唆を与えるのではないかと考えられます。
◇本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果は、個人の健康管理における新たな生物学的年齢評価指標として活用されることが期待されます。これにより、加齢に伴う健康リスクの早期発見や予防策の策定に貢献するとともに、医学研究の新たな方向性を示す可能性があります。
今後、関連する代謝調節経路の詳細なメカニズムが明らかになることで、加齢調節の仕組みがより詳細に解明されると考えられます。これにより、健康寿命の延伸や社会全体の健康水準の向上に寄与し、将来的には個別化医療や予防医学の発展にもつながることが期待されます。
◇特記事項
本研究成果は、米東部時間2025年3月14日14:00/日本時間2025年3月15日3:00に米国科学誌「Science Advances」(オンライン)に掲載されました。
・タイトル:" Biological age prediction using a DNN model based on pathways of steroidogenesis"
・著者名:Qiuyi Wang†, Zi Wang†*, Kenji Mizuguchi, Toshifumi Takao*
(†: Equal contributors, *: Corresponding authors)
・DOI: https://doi.org/10.1126/sciadv.adt2624
なお、本研究は科研費特別推進研究 (JP17H06096)(高尾敏文、蛋白質研究所(分担))の支援を受けて実施されました。
◇用語説明
*1 ステロイド
脂溶性ホルモンの一群で、エストロゲン、プロゲステロン、テストステロン、コルチゾールなどが含まれます。これらは、細胞膜を容易に通過できる性質があり、細胞内の受容体と結合して遺伝子発現を制御することで、代謝、成長、免疫反応などの生理機能を調節します。
*2 人工知能(AI)
コンピュータが人間の知能を模倣し、学習・判断・推論を行う技術です。近年、膨大なデータからパターンを抽出し、複雑な問題の解決に活用されています。
*3 代謝調節経路
体内で行われる一連の化学反応の経路で、栄養素の分解や合成、エネルギー変換などを調節します。特に、ホルモン間の相互作用を通じて内環境のバランスを維持する仕組みとして重要です。
*4 恒常性
体が外部環境の変化に左右されず、内部の状態(体温、血糖値、ホルモンバランスなど)を一定に保つ仕組みを指します。
*5 深層ニューラルネットワーク(DNN)
多層の人工ニューラルネットワークを用いた技術で、入力データから複雑なパターンや関係性を自動的に学習します。各層でデータを抽象化し、最終的に予測や分類を行うため、科学や工学の分野で幅広く活用されています。簡単に言えば、大量の情報から意味のある特徴を抽出し、「賢く」判断する仕組みです。
*6 質量分析技術(LC-MS/MS)
液体クロマトグラフィー(LC)と質量分析計(MS/MS)を組み合わせた技術で、血液などのサンプル中に含まれる微量な成分を高精度に測定します。化学構造の解析や物質の定量に用いられます。
*7 実験バッチ
同じ条件下で同時に実施されるサンプル群のことです。これにより、測定の一貫性や再現性を確保するために利用されます。
*8 損失関数
機械学習において、モデルの予測結果と実際のデータとの差を数値化する指標です。この値を最小化することで、モデルの精度を向上させることが可能になります。
*9 学習プロセス
AIモデルがデータからパターンやルールを学習し、予測精度を高めていく一連の過程を指します。
*10 ブラックボックス
システムやモデルの内部の動作が外部からは見えず、どのように結果が出ているか分かりにくい状態を指す用語です。特に複雑なAIモデルで用いられます。
*11 コルチゾール
副腎から分泌されるホルモンで、ストレス反応、代謝、免疫機能の調節に関与します。過剰な分泌は、老化の促進や健康リスクの増加と関連しているとされています。
◇研究概要図(添付画像)
[左上]
ごく少量の血液を用いて22種類の主要なステロイドを定量し、そのデータを本研究で開発したAIモデルに入力して生物学的年齢を推定する。
[右上]
AIが予測した生物学的年齢は、一定の程度で実際の年齢と相関するが、個人間の差は時間の経過とともに拡大していく。
[下]
人の一生を川の流れに例え、時間の経過とともに様々な要因で変化する生物学的年齢。
【高尾教授のコメント】
本研究の成果は、汪氏による高精度なステロイド測定データの取得を基盤とし、それをもとに王氏がAI技術と生物学的知見を融合した「生物学的年齢」予測モデルを構築することで得られました。
■SDGs目標
3.すべての人に健康と福祉を
○参考URL
高尾 敏文教授
・研究者総覧 URL https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/1fca80b60354c25e.html
【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/
プレスリリース詳細へ https://digitalpr.jp/r/106429
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