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大谷翔平、盗塁数激増の“秘密” 一番近くで支えたコーチが明かす「準備を変えたというわけではない」

『L.A. TIMES』公式・独占本『OHTANI’S JOURNEY 大谷翔平 世界一への全軌跡』より 写真:WALLY SKALIJ / ロサンゼルス・タイムズ
『L.A. TIMES』公式・独占本『OHTANI’S JOURNEY 大谷翔平 世界一への全軌跡』より 写真:WALLY SKALIJ / ロサンゼルス・タイムズ
 前人未到の50-50(50本塁打、50盗塁)、ワールドチャンピオン、3度目のMVPを成し遂げた米大リーグ(MLB)・ドジャースの大谷翔平。

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 その大谷の取材にエンゼルスへの移籍前から精力的に取り組み、地元紙ならではの肉薄した視点で精緻に報道し続けてきたのが、アメリカ最大の日刊紙・Los Angeles Times(ロサンゼルス・タイムズ)。

 最終的に「59」まで伸ばした大谷の今シーズンの盗塁数。意外にも前半折り返し地点では「16」だった。後半戦にどんな劇的変化があったのか。地元紙・L.A. TIMESは裏側に迫っていた。

 100点を超える写真と13万字以上の詳述で大谷の全足跡を記した「L.A. TIMES」公式独占本『OHTANI’S JOURNEY 大谷翔平 世界一への全軌跡』(L.A. Times編/児島修訳、サンマーク出版刊)。12月24日の日本発売を前に、本書からその一部を届ける。

■本文(一部抜粋)

(ジャック・ハリス 2024年9月24日)

6月末のシーズンの折り返し地点で、大谷の盗塁数はわずか16。「30-30」すら確実とは言えず、「50-50」など想像すらできなかった。

しかし、状況が一変する。ムーキー・ベッツが手を怪我したことで、大谷が一番打者の座に収まった。打線が主力を欠く中で、大谷の塁上の積極性が高まった。

突然、忘れていたターボスイッチを押したか、リミッターをオフにしたかのように、7億ドルのスターの盗塁は爆発的に増えた。今季のすさまじいパフォーマンスの中でも、盗塁面ではとりわけ期待を超えた超・好成績でシーズンを終えそうだ。

「ショウヘイは自分の盗塁がうまくなったこと、もっとうまくなれることに気づいたんだろうね」デーブ・ロバーツ監督は言う。

「7月と8月には、一塁に出るたびに盗塁を狙っているようだった」一塁コーチのマッカローが付け加えた。「そして、セーフになるんだ」

実際、7月4日以降の69ゲームで、大谷は39回盗塁して刺されたのは2回だけ。6戦以上連続で盗塁がなかった期間もない。さらに、ナ・リーグ優勝を決める天王山、パドレスとの3連戦が迫る今、過去5戦すべてで盗塁を記録している。

「彼は使命感を抱えているんだ」とロバーツは語る。「こんなに長い間集中力を保っていられるなんて信じられないね」

これは、盗塁のみならず大谷のプレーすべてに当てはまる。3回目のMVPはほぼ確実。現時点で53本塁打、123打点、OPS1.023はいずれもリーグ1位。さらに55盗塁はリーグ2位、打率.301はリーグ3位だ。

MLB全体で大谷を盗塁数で上回る選手はシンシナティ・レッズの遊撃手エリー・デラクルーズただ1人で、現時点で65回。しかし、盗塁死も16回あり、大谷はわずか4回。大谷の盗塁成功率93.2%は、これまでMLBでシーズン50盗塁以上を記録した全選手のうち2位に入る。

大谷は先週、史上最も異論のなさそうなナ・リーグの週間MVPを受賞した。直近7ゲームで、32打数16安打、6本塁打、17打点、そして先週木曜日のマイアミでは史上初のシーズン50本塁打50盗塁に到達した。しかも、まだ「60-60」、すなわちシーズン60本塁打60盗塁の可能性をわずかながら残している。

そして、ドジャースがポストシーズン進出を確実にし、ナ・リーグ西地区優勝にもぐっと近づく中で、大谷は初のプレーオフ出場に向けギアを上げている。7年間、850ゲーム以上の間、待ち続けていた10月が、ついに、ついにやってくるのだ。

「アメリカに来てから夢に見ていた舞台です」大谷は日本語で言った。

それは、今季成長を続ける盗塁スキルがフルに発揮される舞台でもある。

「ポストシーズンでは1試合の重要性がグッと増します」先週、大谷は付け加えた。「先の塁を陥れられれば、チームにとってもいいことだと思います」

今年に入って大谷の盗塁数が増えることは十分予測できた。トミー・ジョン手術からのリハビリのため投手としての出場ができない中、盗塁ならチームの勝利に貢献できる。春先には、チームのパフォーマンスコーチやストレングス&コンディショニングコーチと協力して、敏捷性アップとストライドの見直しに着手。エンゼルス時代の6シーズンで20盗塁以上を2回記録した彼は、さらに盗塁数を増やしたいとコーチ陣に申し出た。

「彼は本当にパワフルで、強さとスピードを兼ね備えている」ドジャースの特別補佐を務めるロン・レニキーは、大谷が持つスピードと爆発力にうっとりしながら、今シーズンの開幕前に語った。

「NFLでは(そのような能力を)見ることがあるけれど、これほどのスピードと強さは野球ではあまり見かけないね」

しかし、大谷がさらに加える必要があったのは、いつ盗塁し、どうタイミングを取るかという「判断力」の部分だ。ここで重要な役割を果たしたのがマッカローで、彼は対戦チームが変わるたびに投手のクセに関するレポートをドジャースの全野手に伝えていた。シーズンが進むにつれ、大谷は自分でそうしたヒントを見つけることに関心を持ちはじめる。ダグアウトでストップウォッチを持って動画を見直すこともあったという。

「ピッチャーを観察して、クセを学ぶのが好きなんだと思うね」ロバーツは言う。「好奇心をそそるんじゃないかな」

大谷がさらにアクセルを大きく踏んだのは後半戦に入ってからだった。本人はこの変化に特別なきっかけがあるわけではないと言い、盗塁に関しては「行けると思ったら積極的に行くという感覚です」とシンプルに語った。

ロバーツもマッカローも、チームが指示を与えたわけではないと強調した。

「僕たちは、『もっとアグレッシブになって、(次の塁に)行ってほしい』みたいなことは言っていないんだ」とマッカローは言う。

マッカローは、盗塁に対する大谷の考え方が徐々に変わったことに気づいたという。シーズン前半は盗塁死をやや警戒しているようだったが(ちなみに、2021年にMLBキャリアハイの26盗塁をマークした際の盗塁死は、両リーグ最多の10回)、後半は積極性が上がった。そこに1番への打順変更が重なった。

「彼は打撃や投球と同じように、(走塁でも)熱く燃えるようなんだ」とマッカローは語る。

「盗塁してセーフになって、気分が上がり、リズムができて、すべてがうまくいく」

まもなく、大谷の盗塁は当然視されるようになる。全メジャーリーガー中、上位3分の1の平均スプリント速度を誇る大谷は、7月23日以来、盗塁死はゼロ。

「以前は、あまり盗塁がうまいようには見えなかった。一歩目の速さがいまいちだったんだ」とロバーツは語る。「でも今は、特に投手と打者がよく見えるホームの三塁側ダグアウトから彼を見ていると、的確な動きをしているようだね」

大谷はドジャースの10月の流れも変えてくれそうだ。ドジャースが2023年のポストシーズンでアリゾナ・ダイヤモンドバックスに3連敗を喫したときにはチーム全体で盗塁ゼロ。2022年にサンディエゴ・パドレスに敗れたときにチーム全体で3回しか盗塁を試みておらず、そのうち成功したのは2回だった。

マッカローは大谷の盗塁について次のように語る。

「前と比べてとりたてて準備を変えたというわけではないと思う。単に今のほうが自信をもって走っているんじゃないかな」

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