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【東京医科大学】炎症性腸疾患のヒト腸内細菌・ファージ・真菌の同定と世界共通性を発見



東京医科大学(学長:宮澤啓介/東京都新宿区)消化器内視鏡学分野の永田尚義 准教授、河合隆 主任教授、筑波大学 医学医療系消化器内科の秋山慎太郎 講師(筑波大学附属病院IBDセンター副部長)、土屋輝一郎 教授(筑波大学附属病院IBDセンター部長)、および国立国際医療研究センター 消化器内科の小島康志 医長、大杉満 糖尿病情報センター長、植木浩二郎 糖尿病研究センター長、上村直実 国府台病院名誉院長らの研究グループは、潰瘍性大腸炎およびクローン病患者に特有の腸内細菌叢、機能代謝遺伝子叢、抗生剤耐性遺伝子叢、腸内ファージ叢、腸内真菌叢(これらを総称してマルチバイオームと呼ぶ)を同定しました。




【概要】
 東京医科大学(学長:宮澤啓介/東京都新宿区)消化器内視鏡学分野の永田尚義 准教授、河合隆 主任教授、筑波大学(学長:永田恭介/茨城県つくば市)医学医療系消化器内科の秋山慎太郎 講師(筑波大学附属病院IBDセンター副部長)、土屋輝一郎 教授(筑波大学附属病院IBDセンター部長)、および国立国際医療研究センター(理事長:國土典宏/東京都新宿区)消化器内科の小島康志 医長、大杉満 糖尿病情報センター長、植木浩二郎 糖尿病研究センター長、上村直実 国府台病院名誉院長らの研究グループは、潰瘍性大腸炎およびクローン病患者に特有の腸内細菌叢、機能代謝遺伝子叢、抗生剤耐性遺伝子叢、腸内ファージ叢、腸内真菌叢(これらを総称してマルチバイオームと呼ぶ)を同定しました。また、世界4カ国のショットガンメタゲノムデータを解析し、日本人IBD患者に特有のマルチバイオームの特徴が、世界のデータにも共通して確認できることを発見しました。この研究成果は「Nature Communications」オンライン版に掲載されました(現地時間2024年11月27日公開)。

【研究のポイント】
●本研究では、Japanese 4D(Disease Drug Diet Daily life)コホートと呼ばれる大規模マイクロバイオームデータを用いて、UCとCDのマルチバイオームの全貌を解明しました。
●また、これら疾患に特徴的な細菌の機能代謝遺伝子叢や抗生剤耐性遺伝子叢を明らかにしました。
●さらに、海外4か国のIBDショットガンメタゲノムデータを解析し、我々が発見した日本人IBDマルチバイオームの特徴が、世界でも共通して認められることを明らかにしました。
●これら発見は、IBD病態解明の研究を加速させるだけでなく、腸内の微生物種をターゲットとした診断や治療法の開発が、国や地域に依存せず広く適用できる可能性を示唆しており、重要な基盤知見になると期待されます。


【研究の背景】
 炎症性腸疾患(IBD)は、腸に慢性の炎症が生じる厚生労働省指定難病のひとつであり、潰瘍性大腸炎(UC)*¹ とクローン病(CD)*² に分類されます。若年層に発症することが多く、一生涯に渡り生活の質に影響を及ぼすだけでなく、患者数の増加による医療経済の圧迫も問題となっています。原因が不明なため完治は困難であり、手術による腸管切除を余儀なくされる患者が多数存在します。
 ヒトの腸内には、細菌だけでなく、ウイルス(バクテリオファージ:以下ファージ)、真菌などの微生物も生息しており、これらを総称してマルチバイオームと呼びます。従来のIBD研究では、腸内細菌叢に着目した解析が中心的であり、IBD患者では、腸内細菌叢の乱れや特定の腸内細菌種の変化が確認されております。しかし、腸内細菌種以外の微生物やそれらが有する機能代謝遺伝子がどのように相互作用(クロストーク)し、IBDの病態形成に関与しているかは分かっておりません。これら微生物や遺伝子を網羅的に調べることで、IBDの新たな疾患メカニズムの解明、IBDの新たなバイオマーカーの同定、そして、微生物制御を介した治療法の開発につながる新知見が創出される可能性があります。

【本研究で得られた結果・知見】
1.UCとCDにおける腸内細菌叢の変化は異なることを発見
 Japanese 4Dコホート*³ より、UC患者111人、CD患者31人、健常者540人を抽出し、糞便ショットガンメタゲノムシークエンス解析を実施しました。その結果、腸内細菌4,364種(種レベル)、機能代謝遺伝子(KEGG)10,689個、抗生剤耐性遺伝子403個、ファージ1,347種、真菌90種を同定しました。健常者と比較して、日本人IBD患者では、Bifidobacterium (B. breve、B. longum、B. dentium)、Enterococcus (E. faecium、E. faecalis)、Sterprococcus salivariusなどが増加し、Faecalibacterium prausnitziiなどの短鎖脂肪酸産生菌の低下が確認されました。一方、CD患者では、Escherichia coliが増加しており、この菌種が抗生剤耐性遺伝子や接着性浸潤性大腸菌(AIEC)の病原性遺伝子を複数獲得していることも示しました。UC患者では、これらの所見は認められないため、CDに特異的な腸内細菌叢の変化と考えられました。さらに、重要な点として日本人IBD患者における腸内細菌叢の変動は、米国(図1a)、スペイン、オランダ、中国のIBD患者と類似しており、特に、全てのCDコホートに共通して、Escherichia coliが増加していることを発見しました(図1b)。このことから、腸内細菌種の変動はUCとCDで異なることがわかりました。そして、特にCDで増加するEscherichia coliはAIECの特徴を有し、抗生剤耐性遺伝子を複数獲得していたことから、CD患者の薬剤耐性菌感染症リスクが示唆されました。

2.IBDの細菌叢変化に応じてファージ種が変動し、病原因子を有する新規ファージを発見
 次に、IBD患者の腸内に生息するファージを評価しました。その結果、UC、CDで減少することが確認された短鎖脂肪酸産生菌に感染するファージが減少していました。また、CD患者で増加することが確認されたEscherichiaに感染するファージ種(vOTU77、vOTU89、vOTU90)が、CDで顕著に増加することも確認されました(図2a)。vOTU89とvOTU99は、これまでに報告のない新規ファージであり、これらのゲノムには、炎症を惹起する可能性がある遺伝子であるpagC(図2b)がコードされていることがわかり、CD病態との関連が示唆されました。さらに、日本人IBD患者で同定されたこれらのファージの変化は、世界データでも再現できることを発見しました。これらの結果より、IBD患者では腸内細菌種の変化に応じて、それに感染するファージ種も変化すること、さらに、潜在的な病原因子を有するファージのIBD病態への関連も示されました。我々の発見は、CD患者で確認された抗生剤に耐性を有するEscherichia coliを排除するためのファージ療法の開発などに役立つ重要な情報を提供すると考えます。

3.UCとCDでは増加する真菌種も異なることを発見
 腸内の真菌叢についても網羅的解析を行いました。その結果、UC患者において、Saccharomyces paradoxusとSaccharomyces kudriavzeviiが増加し、CD患者では、Saccharomyces cerevisiae とDebayomyces hansenii が増加することを発見しました。世界データにおいても、米国、スペインのUC患者で、Saccharomyces paradoxusまたはSaccharomyces kudriavzeviiの上昇が確認されました。また、米国、スペインのCD患者のデータにおいて、Saccharomyces cerevisiaeが増加していることを確認しました(図3)。以上より、我々は、腸内細菌やファージだけでなく、真菌も含むマルチバイオームの特徴がUCとCDで異なること、そして、それが世界データでも共通に確認されることを発見しました。

4.UCとCDにユニークな細菌、ファージ、真菌のクロストークを発見
 最後に、細菌、ファージ、真菌間の相互作用を調査するため、細菌、ウイルス、真菌種の相関ネットワークを構築しました(図4a, b)。その結果、UC、CDともに、短鎖脂肪酸産生菌がクラスターを形成していることを明らかにしました。また、UC患者ではRuminococcus bromiiやFusicatenibacter saccharivorans、CD患者ではEscherichia coli、Bacteroides thetaiotaomicron、Anaerostipes hadrusなどの細菌が、それらに感染するファージと正の相関することが確認されました。一方、CD患者での増加が確認されているEscherichia coliとSaccharomyces cerevisiaeは、Eubacterium ventriosum、Anaerostipes hadrus、Blautia obeumなどの短鎖脂肪酸産生菌と負の相関を示しました。そして、この我々の発見は、米国、スペイン、オランダ、中国のコホートでも同様に確認されました(図4c, d)。このことから、CD患者において、細菌と真菌、あるいは細菌同士の競合関係が存在し、特に短鎖脂肪酸酸生菌が、病原性を有するEscherichia coliなどの細菌を排除する可能性が示唆されます。従って、IBDにおいて、マルチバイオームの相互作用が新たな治療ターゲットとなると考えられ、今後の研究で、これらの菌種が相互排他的か、あるいは共生的に相互作用するかを明らかにすることが重要です。

【今後の展開】
 この結果から、我々が同定した潰瘍性大腸炎(UC)およびクローン病(CD)に関連する腸内細菌、ファージ、真菌の特徴は、日本人に限らず、世界の炎症性腸疾患(IBD)患者に共通するものでした。すなわち、日本と世界で共通するIBD関連のヒト微生物種を同定したことになります。この結果は、微生物種を介した病態解明の研究を加速させるだけでなく、微生物種とそれらの相互作用をターゲットとした診断や治療法の開発が、国や地域に依存せず広く適用できる可能性を示唆しており、重要な基盤知見を提供したと言えます。

【論文情報】
タイトル:Multi-biome analysis identifies distinct gut microbial signatures and their crosstalk in ulcerative colitis and Crohn's Disease
著  者:Akiyama S, Nishijima S*, Kojima Y, Kimura M, Ohsugi M, Ueki K, Mizokami M, Hattori M, Tsuchiya K, Uemura N, Kawai T, Bork.P, Nagata N*.
(太字:Equal Contribution / *:責任著者)
掲載誌名:Nature Communications
DOI :doi.org/10.1038/s41467-024-54797-8

【用語の解説】
*1 潰瘍性大腸炎(UC: ulcerative colitis)
炎症性腸疾患に分類される原因不明の慢性腸炎。食事や喫煙などの環境因子や遺伝的因子などの複数の要因が関連し、治癒が困難であり、難病に指定されている。近年、本邦では急激に患者数が増加し、22万人を超えると推定されている。

*2 クローン病(CD: Crohn's disease)
炎症性腸疾患に分類される原因不明の慢性腸炎であり、UCとは対照的に大腸だけでなく小腸を含む全消化管に病変が出現する病態である。難病に指定されており、UCと同様に本邦では急激に患者数が増加しており、7万人を超えると推定されている。

*3 Japanese 4D コホート
Japanese 4D(Disease、Drug、Diet、Daily life)マイクロバイオームコホートは、東京医科大学の永田尚義准教授らが中心となって進めている大規模な進行中プロジェクトである。本プロジェクトでは、日本人の腸内細菌叢、口腔細菌叢、代謝物質、宿主遺伝子、サイトカイン・ケモカインなどの膨大なオミクス情報と詳細な生活習慣や臨床情報を統合したデータを構築している。このオミクス情報を基に、健康や個々の疾患を予測するバイオマーカーの同定、生活習慣や微生物叢からみた疾患予防や健康長寿の実現、さらに微生物をターゲットとした新しい疾患治療法の開発に取り組んでいる。
https://www.tokyo-med.ac.jp/news/2022/0720_140210003017.html

【主な競争的研究資金】
 本研究は、AMED Research Program on HIV/AIDS JP22fk0410051(代表:永田尚義)、AMED  Emerging and Re-emerging Infectious Diseases: JP22fk0108538(代表:永田尚義)、日本学術振興会科学研究費助成事業 基盤研究(C) JP17K09365(代表:永田尚義)、COCKPI-T Funding(代表:永田尚義)、武田科学振興財団研究助成(代表:永田尚義)、喫煙財団研究助成(代表:永田尚義)、ダノン学術研究助成(代表:永田尚義)、J-milk学術研究助成(代表:永田尚義)、上原記念生命科学財団研究助成(代表:永田尚義)、武田化学振興財団(代表:永田尚義)、東京医科大学学長裁量経費(代表:永田尚義)、基盤研究(C) JP 20K08366(代表:河合隆)、国際医療研究開発費19A1011、24A1010(代表:小島康志)、国際医療研究開発費28-2401(代表:永田尚義、上村直実)の支援を受け実施しました。


▼本件に関する問い合わせ先
企画部 広報・社会連携推進室
住所:〒160-8402 東京都新宿区新宿6-1-1
TEL:03-3351-6141(代)
メール:d-koho@tokyo-med.ac.jp


【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/



プレスリリース詳細へ https://digitalpr.jp/r/100195
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