アン・イェウン、人生に影響を与えた日本のマンガ愛語る「日本のアニメのOSTを作ってみたい」【インタビュー】
アン・イェウンは、韓国の伝統音楽の手法を用いた独特の楽曲を得意とするシンガー・ソングライター。JYPエンターテインメントのJ.Y. Park、YGエンターテインメントのヤン・ヒョンソク、アンテナミュージックのユ・ヒヨルという韓国音楽界の重鎮が審査員を務め、2015~16年に放送されていたオーディション番組『K-POPスターズ シーズン5』を足掛かりとして2016年にデビューを果たした。『逆賊-民の英雄ホン・ギルドン-』『王になった男』などの歴史ドラマや人気ウェブトゥーンのOSTも手掛けている。
今年、BTSのジョングク、(G)I-DLEのソヨン、SEVENTEENのバーノンらとともに、韓国音楽著作権協会会員の中で条件を満たした上位25人だけが昇格できる正会員なったことからも韓国での人気がうかがえるだろう。「ずっと夢だった」という初来日コンサートを数日前に終えたばかりの彼女は、楽曲のイメージとはかけ離れたカジュアルなスポーツウェアでインタビューに現れた。
■韓国の伝統音楽を用いたアン・イェウンの音楽の魅力とは
――10月に大阪と川崎で初来日コンサートを開催されましたが、いかがでしたか。
日本でライブをするのが昔からの夢でしたから、ずっと夢の中にいた感じです(笑)。思っていた以上に、私のことを知っている方が多かったので、感謝の気持ちでいっぱいになりました。日本でライブをするのが初めてだったので、「上手くやりたい」という気持ちが大きくて緊張しましたが、良いライブになったと思います。
――今も日本語でインタビューに答えてくださっていますが、なぜそんなに日本語がお上手なんですか?
先生について日本語を習っていますし、7年ほど前から旅行でたびたび日本を訪れています。飲みに行ったお店で日本人の友だちができて、日本語が上達しました(笑)。その友だちのおススメで、先日は神保町のカレー屋さんにも行ってみたんですよ。
――通な場所に行かれましたね(笑)。イェウンさんは、オーディション番組『K-POPスターズ シーズン5』に自作曲で臨み、独自の音楽性が高く評価されてデビューしましたが、大学で作曲を学んだ後、オーディション番組に出演するまではどんなことをしていたのですか。
クラブやライブカフェ、ストリートでライブをするために、いろいろなバイトをしていました。でもなかなか芽が出なくて、「音楽を辞めた方がいいのかな?」と思ったこともあります。最後のチャンスだと思って参加したのが『K-POPスターズ』でした。
――イェウンさんの楽曲は韓国の伝統音楽が根底にあり、史劇のOSTに多く起用されています。そのような音楽性にたどり着くきっかけは何だったのでしょうか。
子どもの時から史劇は好きでしたけれど、音楽を始めたきっかけは、4人組のロックアンド・紫雨林(ジャウリム)です。子どものころに紫雨林のボーカルのキム・ユナさんを見て、「私もあんな人になりたい」と思いました。私の大学生までの夢は、ロックスターだったんです。
――だいぶイメージが違いますね(笑)。ロックスターから、今の作風にどうつながっていったのですか?
私にもよくわからなくて(笑)。昔から韓国のロック、日本のロックを聴いて、史劇を見て……。その全部が交じり合って、今の私ができあがったんだと思います。
――日本のロックはどんなものを聴いていたのでしょう。
たくさん聴いていましたが、椎名林檎さんと東京事変が私の高校時代のすべてでした。ネットサーフィンをしていて偶然知ったのですが、本当にカッコよくて!
――女性ボーカルのバンドが好きなんですね。ご自身のアーティストとしての強みは何だと思われますか。
私は曲を作る時に、聴いてくださる方を非現実的な世界に連れて行きたいと思っているんです。リアルな世界は、私にはむしろ難しくて。考えることが好きなのかな。
――いつも、どんなこと考えているのですか?
たとえば、『進撃の巨人』の世界に自分がいたら何をするのか、どうやって逃げようかと考えたり(笑)。
――本当に、非現実的な世界ですね(笑)。その想像力が曲作りにつながるのでしょうね。
そうですね。曲を作るときも、いろいろなことを想像しています。小説を書くことに似ているかもしれませんね。私の場合はまず作業室に行って、椅子に座って「どんな曲にしようかな?」と考えてから作業に入ります。何かをきっかけに、曲が降ってくるということはないですね。「やるぞ!」と決めて向き合う感じ。歌詞と曲は一緒にできます。特に歌詞は先に書いしまうと、歌ったときにメロディに合わない単語があるので、歌いながら作っています。
――今まで作った曲の中で、1番自分らしくできたなという曲は何でしょう。
「チャンギ」という曲です。チャンギとは虎に殺された人の霊。自分が成仏するためにほかの人間を虎に差し出すという言い伝えをモチーフにしました。私自身は怖がりでお化けの話は苦手なのですが、非現実な話は好き。「チャンギ」は韓国の伝説を韓国の伝統音楽をベースに、ミュージカルのように仕上げました。
■リクエストされることで自分の新しい面を知ることができる 夢は日本のアニメのOSTを作ること
――非現実が好きでファンタジーが好きなイェウンさんは、普段はどんな生活をしているんですか。
本をたくさん読んでいます。ゴロゴロしながら(笑)。よく読むジャンルは、やはりファンタジーですね。でも幅広く読む努力をしています。マンガもたくさん読みますよ! アニメよりもマンガが好きで、私の人生に影響を与えたといえるマンガは、『からくりサーカス』(藤田和日郎)です。20歳のときに読んで、人生のバイブルになりました。伊藤潤二さんのホラーマンガも好き。アクティブに外に出かけるというよりも、家で過ごす派です。
――好きな作品も、曲の世界観に近いですね(笑)。独特な世界を歌っているイェウンさんに、ライバルといえる存在はいるのでしょうか。
今は、いません。私は自分が独特だと思ったことがなかったから、ずっと上手い人はみんなライバルだと思ってきました。でも今は、自分のライバルは自分だと思っています。ライバルというより、闘う相手かな? 私って、怠け者なんですよ(笑)。だから、いつもサボりたいと思う自分の心と戦っています。
――10月に初来日公演を開催されましたが、イェウンさんには日本の音楽マーケットがどのように見えているのかが気になります。
日本は、音楽のジャンルがすごく広くていいですよね。韓国は、アイドル、トロット、バラードが3本柱だけれど、私はどこにも入れなくて……。
――とはいいつつ、2021年に(G)I-DLEの4thミニアルバム『I burn』の「HANN(Alone in winter)」という曲で、ソヨンさんと共作されています。アイドルとの交流もあるんですね。
いや、ないです(笑)。私はもともと(G)I-DLEのソヨンさんのファンだったのですが、いきなりソヨンさんから連絡が来てびっくりしたんです。「絶対嘘でしょ?」と思いました。ソヨンさんは、アニメ『犬夜叉』のような曲を作りたくて、私に声をかけてくださったそうです。初めてソヨンさんにお会いした時は、現実離れした美しさに、初音ミクかと思いました(笑)。それでまず、ソヨンさんから楽曲のイメージをきいて、曲と詞を書きました。最初にできたものは、「アイドルの曲には歌詞が重すぎるかな?」と思ったのですが、それをソヨンさんがブラッシュアップしてくれて。やっぱりソヨンさんが書くと、(G)I-DLEに似合う歌詞になるんです。より大衆的になるというか。結果的に歌詞がかなり変わったので、「HANN(Alone in winter)」はコラボのようになりました。
――歴史ドラマのOSTもたくさん手掛けていますが、OSTと自分の曲を作る時の違いはどんなところにあるのでしょう。
OSTの場合は「こんな感じで」というリクエストがあるし、ドラマとしての物語がすでにあるので、自分の曲を作るよりもやりやすいですね。
リクエストされることで、自分の新しい面を知ることができるのも楽しい部分です。ミュージカル『ユジンとユジン』を作ったときは、2人の女子中学生の話だったこともあり、明るい曲ができて、自分自身でもびっくりしました(笑)。史劇のOSTの場合は、私の世界観に共感して依頼してくださるので私らしい曲ができるのですが、ミュージカルは状況にあわせてさまざまな曲が必要ですからね。
――リクエストがないと、自分の中から明るい曲は出てこない?
はい。努力して作ってみたこともありましたが、全部ボツにしちゃいました(笑)。
――初来日公演をきっかけに、今後も日本活動があると考えてよいのでしょうか。
まだ正式に決まっていることはないのですが、日本での活動はぜひ行いたいと思っています。バンド形式のコンサートをまたやってみたいですね。それと、大きな夢としては、日本のアニメのOSTを作ってみたいです。
文・坂本ゆかり
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――10月に大阪と川崎で初来日コンサートを開催されましたが、いかがでしたか。
日本でライブをするのが昔からの夢でしたから、ずっと夢の中にいた感じです(笑)。思っていた以上に、私のことを知っている方が多かったので、感謝の気持ちでいっぱいになりました。日本でライブをするのが初めてだったので、「上手くやりたい」という気持ちが大きくて緊張しましたが、良いライブになったと思います。
――今も日本語でインタビューに答えてくださっていますが、なぜそんなに日本語がお上手なんですか?
先生について日本語を習っていますし、7年ほど前から旅行でたびたび日本を訪れています。飲みに行ったお店で日本人の友だちができて、日本語が上達しました(笑)。その友だちのおススメで、先日は神保町のカレー屋さんにも行ってみたんですよ。
――通な場所に行かれましたね(笑)。イェウンさんは、オーディション番組『K-POPスターズ シーズン5』に自作曲で臨み、独自の音楽性が高く評価されてデビューしましたが、大学で作曲を学んだ後、オーディション番組に出演するまではどんなことをしていたのですか。
クラブやライブカフェ、ストリートでライブをするために、いろいろなバイトをしていました。でもなかなか芽が出なくて、「音楽を辞めた方がいいのかな?」と思ったこともあります。最後のチャンスだと思って参加したのが『K-POPスターズ』でした。
――イェウンさんの楽曲は韓国の伝統音楽が根底にあり、史劇のOSTに多く起用されています。そのような音楽性にたどり着くきっかけは何だったのでしょうか。
子どもの時から史劇は好きでしたけれど、音楽を始めたきっかけは、4人組のロックアンド・紫雨林(ジャウリム)です。子どものころに紫雨林のボーカルのキム・ユナさんを見て、「私もあんな人になりたい」と思いました。私の大学生までの夢は、ロックスターだったんです。
――だいぶイメージが違いますね(笑)。ロックスターから、今の作風にどうつながっていったのですか?
私にもよくわからなくて(笑)。昔から韓国のロック、日本のロックを聴いて、史劇を見て……。その全部が交じり合って、今の私ができあがったんだと思います。
――日本のロックはどんなものを聴いていたのでしょう。
たくさん聴いていましたが、椎名林檎さんと東京事変が私の高校時代のすべてでした。ネットサーフィンをしていて偶然知ったのですが、本当にカッコよくて!
――女性ボーカルのバンドが好きなんですね。ご自身のアーティストとしての強みは何だと思われますか。
私は曲を作る時に、聴いてくださる方を非現実的な世界に連れて行きたいと思っているんです。リアルな世界は、私にはむしろ難しくて。考えることが好きなのかな。
――いつも、どんなこと考えているのですか?
たとえば、『進撃の巨人』の世界に自分がいたら何をするのか、どうやって逃げようかと考えたり(笑)。
――本当に、非現実的な世界ですね(笑)。その想像力が曲作りにつながるのでしょうね。
そうですね。曲を作るときも、いろいろなことを想像しています。小説を書くことに似ているかもしれませんね。私の場合はまず作業室に行って、椅子に座って「どんな曲にしようかな?」と考えてから作業に入ります。何かをきっかけに、曲が降ってくるということはないですね。「やるぞ!」と決めて向き合う感じ。歌詞と曲は一緒にできます。特に歌詞は先に書いしまうと、歌ったときにメロディに合わない単語があるので、歌いながら作っています。
――今まで作った曲の中で、1番自分らしくできたなという曲は何でしょう。
「チャンギ」という曲です。チャンギとは虎に殺された人の霊。自分が成仏するためにほかの人間を虎に差し出すという言い伝えをモチーフにしました。私自身は怖がりでお化けの話は苦手なのですが、非現実な話は好き。「チャンギ」は韓国の伝説を韓国の伝統音楽をベースに、ミュージカルのように仕上げました。
■リクエストされることで自分の新しい面を知ることができる 夢は日本のアニメのOSTを作ること
――非現実が好きでファンタジーが好きなイェウンさんは、普段はどんな生活をしているんですか。
本をたくさん読んでいます。ゴロゴロしながら(笑)。よく読むジャンルは、やはりファンタジーですね。でも幅広く読む努力をしています。マンガもたくさん読みますよ! アニメよりもマンガが好きで、私の人生に影響を与えたといえるマンガは、『からくりサーカス』(藤田和日郎)です。20歳のときに読んで、人生のバイブルになりました。伊藤潤二さんのホラーマンガも好き。アクティブに外に出かけるというよりも、家で過ごす派です。
――好きな作品も、曲の世界観に近いですね(笑)。独特な世界を歌っているイェウンさんに、ライバルといえる存在はいるのでしょうか。
今は、いません。私は自分が独特だと思ったことがなかったから、ずっと上手い人はみんなライバルだと思ってきました。でも今は、自分のライバルは自分だと思っています。ライバルというより、闘う相手かな? 私って、怠け者なんですよ(笑)。だから、いつもサボりたいと思う自分の心と戦っています。
――10月に初来日公演を開催されましたが、イェウンさんには日本の音楽マーケットがどのように見えているのかが気になります。
日本は、音楽のジャンルがすごく広くていいですよね。韓国は、アイドル、トロット、バラードが3本柱だけれど、私はどこにも入れなくて……。
――とはいいつつ、2021年に(G)I-DLEの4thミニアルバム『I burn』の「HANN(Alone in winter)」という曲で、ソヨンさんと共作されています。アイドルとの交流もあるんですね。
いや、ないです(笑)。私はもともと(G)I-DLEのソヨンさんのファンだったのですが、いきなりソヨンさんから連絡が来てびっくりしたんです。「絶対嘘でしょ?」と思いました。ソヨンさんは、アニメ『犬夜叉』のような曲を作りたくて、私に声をかけてくださったそうです。初めてソヨンさんにお会いした時は、現実離れした美しさに、初音ミクかと思いました(笑)。それでまず、ソヨンさんから楽曲のイメージをきいて、曲と詞を書きました。最初にできたものは、「アイドルの曲には歌詞が重すぎるかな?」と思ったのですが、それをソヨンさんがブラッシュアップしてくれて。やっぱりソヨンさんが書くと、(G)I-DLEに似合う歌詞になるんです。より大衆的になるというか。結果的に歌詞がかなり変わったので、「HANN(Alone in winter)」はコラボのようになりました。
――歴史ドラマのOSTもたくさん手掛けていますが、OSTと自分の曲を作る時の違いはどんなところにあるのでしょう。
OSTの場合は「こんな感じで」というリクエストがあるし、ドラマとしての物語がすでにあるので、自分の曲を作るよりもやりやすいですね。
リクエストされることで、自分の新しい面を知ることができるのも楽しい部分です。ミュージカル『ユジンとユジン』を作ったときは、2人の女子中学生の話だったこともあり、明るい曲ができて、自分自身でもびっくりしました(笑)。史劇のOSTの場合は、私の世界観に共感して依頼してくださるので私らしい曲ができるのですが、ミュージカルは状況にあわせてさまざまな曲が必要ですからね。
――リクエストがないと、自分の中から明るい曲は出てこない?
はい。努力して作ってみたこともありましたが、全部ボツにしちゃいました(笑)。
――初来日公演をきっかけに、今後も日本活動があると考えてよいのでしょうか。
まだ正式に決まっていることはないのですが、日本での活動はぜひ行いたいと思っています。バンド形式のコンサートをまたやってみたいですね。それと、大きな夢としては、日本のアニメのOSTを作ってみたいです。
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