10~20代はおせんべいを買わない? 老舗企業が“お菓子”離れを食い止めるために見出した“エンタメ性”
健康志向が高まる昨今、菓子市場にも新風が巻き起こっている。チョコレートやグミに多かった機能性表示食品が、米菓やスナック菓子にも広がりを見せ、「お菓子を食べながら健康にも気を遣える」と、好調に推移している。『亀田の柿の種』や『ハッピーターン』など、ロングセラーを抱える老舗・亀田製菓も、昨年、『亀田の柿の種』史上初となる機能性表示食品を発売し、今年9月には新商品の機能性表示食品『熱風焙煎 黒ごまチップス』を発売した。若者のスナック離れもニュースになる昨今、業界の課題や今後の菓子市場の展望について、亀田製菓の担当者に聞いた。
【画像】ファミリー層に大ヒットの『無限エビ』、”エビエビエビ”パッケージ
■50~60代が購買層の米菓業界…目指す先は「美味しさと健康機能価値を両立させたもの」
「糖の吸収を抑える」、「体脂肪を減らす」など、身体に効く機能をうたった機能性表示食品。近年は、米菓やスナック菓子にも広がりを見せており、亀田製菓は、今年9月に「お肌の潤いを維持する」&「おなかの調子を整える」という2つの機能性がある成分を配合した『熱風焙煎 黒ごまチップス(届出番号 I948)』を発売した。
近年の健康志向の高まりから、「おいしさと健康機能価値を両立させた商品を開発していきたい」と考えていた同社。そこでまず、注目したのが“黒ごま”だった。
「黒ごまは、米菓との相性も良く、長年愛されている組み合わせであることからお客様に受け入れられやすいのではないかと考え、手軽においしく食べられるチップスとして開発をスタートしました。長年研究しているお米由来の機能性素材・植物性乳酸菌K-1の機能を活用する事で、慣れ親しんだお米由来の安心感と機能をお届けできる商品を開発することができました」(亀田製菓・マーケティング戦略部・方違耕太氏・以下同)
本商品のターゲットはご自身の健康が気になり始める年代でもある50代女性。購買者データを分析したところ、米菓のメイン購買層である50~60代の中でもとくに、50代女性の割合が顕著に高く、健康に気を遣った本商品のターゲットにぴったりだったという。
「米菓での機能性表示食品という新しい領域の商品なので、まずは日常的に米菓を食しているユーザーの方に、おいしさと健康機能価値を両立させた商品として手にとっていただきたいという狙いがありました。売り上げは、読者層にも合致する新聞広告を出させていただいたことから、お問い合わせも多くいただき、順調な滑り出しをみせています」
■美味しいもの=高カロリーでジャンクなもの? “お米”由来だからこそ提供できる価値
健康志向の高まりから、様々なカテゴリーで需要が右肩上がりしている機能性表示食品。近年、機能性表示食品を摂取したことで健康被害を訴える問題も発生したが、食品に限ってはこの問題に関するネガティブな影響はほとんどないと明かす。
「お茶などの飲み物や、お菓子類で機能をうたっているものに関しては、季節によって変動がある程度で、通常と変わらない動きを見せています。お客様としては、お菓子を選ぶときに機能性表示食品であるか否かは、そこまで気にされておらず、食品においては、機能性表示食品=ネガティブな事案には繋がらないと考えています」
同社としては、今後、より機能性表示食品に注力していくことよりも、「お客様に最も価値が伝わる形での商品開発を心がけている」という。
「お客様の需要や商品コンセプトによって、その都度どのような表現が最もお客様に価値を感じて頂けるか判断するという姿勢で臨んでおります。
同商品のように、健康機能価値があるお菓子がある一方で、米菓の中でも揚げたおせんべいやザラメのついたものは、おいしい分カロリーが高いと敬遠されがちな側面もある。ジャンクさを全面に出してその背徳感を売りに出している商品もあるが、おいしさと健康のバランスはどのように取っていくべきだろうか。
「お菓子ですので、やはりおいしさが最重要であり、“おいしくて楽しい”というのが一番コアの価値だと考えています。主成分がお米ということで、どうしても高カロリーなイメージがあると思うのですが、それと同時に、パワフルなエネルギー源、持っているタンパク質の質がいいという利点も大きいです。当社でもNICE RICEというスローガンを掲げ、お米の「いいところ・栄養価値」を伝えていく活動を通じお米の価値を皆様に改めてお伝えして参りたいと思います」
■自ら積極的に買うイメージが弱い米菓「だからこそカテゴリー成長のポテンシャルがある」
機能性表示食品も誕生し、米菓の売上自体は安定的に推移しているが、 一方で“若い世代のスナック菓子離れ”も始まっている。コンビニのホットスナックなどが盛り上がりを見せ、購買者の選択肢の幅が広がったことも要因のひとつと考えられるが、同社が行ったアンケート調査でも、若者がコンビニで手に取るお菓子はグミやチョコが中心で、スナック菓子やおせんべいの名前はなかなか上がらない現状にある。
「日頃、米菓を買わない方に調査すると、おせんべい=家にずっとあったもの、おじいちゃん、おばあちゃんの家にあったものという回答があがります。親しみもあるし、食べたこともあっておいしいイメージはあるけれど、自ら積極的に買うカテゴリーイメージが弱いのかもしれません。今後、そこがカテゴリー成長のポテンシャルであるとも言えます。」
米菓は、買い置き菓子のような感じで、家に長く置かれる作りで内容量が多いのも特徴。イベントや学生の打ち上げの際に、みんなで食べるお菓子のバリエーションのひとつとして親しまれ、おいしいイメージもある。積極的には選ばないが、受動的に関与はあるカテゴリーと言えるだろう。同社でも、「今後、10代、20代の方に、自分たち向けのお菓子があると思ってもらえるコンセプト作りは必要」と考えている。
とはいえ、米菓においてはそもそも50代、60代がメインの購買層であるため、直近の課題はいかに30代、40代を取り込むか。
「年を重ねるにつれ食べる量も減っていくので、まずはその下の世代である30~40代の方に手に取っていただく商品開発が、優先課題だと思っています」
たとえば、2021年に発売した『無限エビ』は、子どもを持つ30~40代のファミリー層を中心に、同社を代表するブランドの1つに成長。
「“無限エビ”というネーミング・“エビエビエビ”と書かれた遊び心あるパッケージ・キャラクターなど、エンタメ感が強い一方で、こだわりの原料を使っていてしっかりおいしさも追求しています。確かなおいしさと、従来の米菓にはないエンタメ感の強さも加わって、米菓売り場で楽しい気持ちで手に取っていただけたと思います」
ロングセラー商品『ハッピーターン』では、粉を増量したバージョンや、8種のスパイスをブレンドした『ハッピーターン スパイス』なども発売。『こつぶっこ ビターキャラメル風味』や、『技のこだ割り 濃厚チーズ』など、数多くの新味を展開して消費者を飽きさせない工夫を続けている。
「新商品を開発する際は、各ブランドのコンセプトやルールから外れないことが鉄則。世界観も含め、その商品シリーズのコンセプトを守りつつ、新しい味を考えています。どうせお菓子を食べるなら、おせんべいの方が身体にもいいし、何よりおいしいと選択肢のひとつとして選んでいただけるように、お米の価値をしっかり訴求していきたいと思っています。お米だからこそできることを、お菓子を通じてこれからもお届けしていきたいです」
(取材・文/辻内史佳)
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■50~60代が購買層の米菓業界…目指す先は「美味しさと健康機能価値を両立させたもの」
「糖の吸収を抑える」、「体脂肪を減らす」など、身体に効く機能をうたった機能性表示食品。近年は、米菓やスナック菓子にも広がりを見せており、亀田製菓は、今年9月に「お肌の潤いを維持する」&「おなかの調子を整える」という2つの機能性がある成分を配合した『熱風焙煎 黒ごまチップス(届出番号 I948)』を発売した。
近年の健康志向の高まりから、「おいしさと健康機能価値を両立させた商品を開発していきたい」と考えていた同社。そこでまず、注目したのが“黒ごま”だった。
「黒ごまは、米菓との相性も良く、長年愛されている組み合わせであることからお客様に受け入れられやすいのではないかと考え、手軽においしく食べられるチップスとして開発をスタートしました。長年研究しているお米由来の機能性素材・植物性乳酸菌K-1の機能を活用する事で、慣れ親しんだお米由来の安心感と機能をお届けできる商品を開発することができました」(亀田製菓・マーケティング戦略部・方違耕太氏・以下同)
本商品のターゲットはご自身の健康が気になり始める年代でもある50代女性。購買者データを分析したところ、米菓のメイン購買層である50~60代の中でもとくに、50代女性の割合が顕著に高く、健康に気を遣った本商品のターゲットにぴったりだったという。
「米菓での機能性表示食品という新しい領域の商品なので、まずは日常的に米菓を食しているユーザーの方に、おいしさと健康機能価値を両立させた商品として手にとっていただきたいという狙いがありました。売り上げは、読者層にも合致する新聞広告を出させていただいたことから、お問い合わせも多くいただき、順調な滑り出しをみせています」
■美味しいもの=高カロリーでジャンクなもの? “お米”由来だからこそ提供できる価値
健康志向の高まりから、様々なカテゴリーで需要が右肩上がりしている機能性表示食品。近年、機能性表示食品を摂取したことで健康被害を訴える問題も発生したが、食品に限ってはこの問題に関するネガティブな影響はほとんどないと明かす。
「お茶などの飲み物や、お菓子類で機能をうたっているものに関しては、季節によって変動がある程度で、通常と変わらない動きを見せています。お客様としては、お菓子を選ぶときに機能性表示食品であるか否かは、そこまで気にされておらず、食品においては、機能性表示食品=ネガティブな事案には繋がらないと考えています」
同社としては、今後、より機能性表示食品に注力していくことよりも、「お客様に最も価値が伝わる形での商品開発を心がけている」という。
「お客様の需要や商品コンセプトによって、その都度どのような表現が最もお客様に価値を感じて頂けるか判断するという姿勢で臨んでおります。
同商品のように、健康機能価値があるお菓子がある一方で、米菓の中でも揚げたおせんべいやザラメのついたものは、おいしい分カロリーが高いと敬遠されがちな側面もある。ジャンクさを全面に出してその背徳感を売りに出している商品もあるが、おいしさと健康のバランスはどのように取っていくべきだろうか。
「お菓子ですので、やはりおいしさが最重要であり、“おいしくて楽しい”というのが一番コアの価値だと考えています。主成分がお米ということで、どうしても高カロリーなイメージがあると思うのですが、それと同時に、パワフルなエネルギー源、持っているタンパク質の質がいいという利点も大きいです。当社でもNICE RICEというスローガンを掲げ、お米の「いいところ・栄養価値」を伝えていく活動を通じお米の価値を皆様に改めてお伝えして参りたいと思います」
■自ら積極的に買うイメージが弱い米菓「だからこそカテゴリー成長のポテンシャルがある」
機能性表示食品も誕生し、米菓の売上自体は安定的に推移しているが、 一方で“若い世代のスナック菓子離れ”も始まっている。コンビニのホットスナックなどが盛り上がりを見せ、購買者の選択肢の幅が広がったことも要因のひとつと考えられるが、同社が行ったアンケート調査でも、若者がコンビニで手に取るお菓子はグミやチョコが中心で、スナック菓子やおせんべいの名前はなかなか上がらない現状にある。
「日頃、米菓を買わない方に調査すると、おせんべい=家にずっとあったもの、おじいちゃん、おばあちゃんの家にあったものという回答があがります。親しみもあるし、食べたこともあっておいしいイメージはあるけれど、自ら積極的に買うカテゴリーイメージが弱いのかもしれません。今後、そこがカテゴリー成長のポテンシャルであるとも言えます。」
米菓は、買い置き菓子のような感じで、家に長く置かれる作りで内容量が多いのも特徴。イベントや学生の打ち上げの際に、みんなで食べるお菓子のバリエーションのひとつとして親しまれ、おいしいイメージもある。積極的には選ばないが、受動的に関与はあるカテゴリーと言えるだろう。同社でも、「今後、10代、20代の方に、自分たち向けのお菓子があると思ってもらえるコンセプト作りは必要」と考えている。
とはいえ、米菓においてはそもそも50代、60代がメインの購買層であるため、直近の課題はいかに30代、40代を取り込むか。
「年を重ねるにつれ食べる量も減っていくので、まずはその下の世代である30~40代の方に手に取っていただく商品開発が、優先課題だと思っています」
たとえば、2021年に発売した『無限エビ』は、子どもを持つ30~40代のファミリー層を中心に、同社を代表するブランドの1つに成長。
「“無限エビ”というネーミング・“エビエビエビ”と書かれた遊び心あるパッケージ・キャラクターなど、エンタメ感が強い一方で、こだわりの原料を使っていてしっかりおいしさも追求しています。確かなおいしさと、従来の米菓にはないエンタメ感の強さも加わって、米菓売り場で楽しい気持ちで手に取っていただけたと思います」
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「新商品を開発する際は、各ブランドのコンセプトやルールから外れないことが鉄則。世界観も含め、その商品シリーズのコンセプトを守りつつ、新しい味を考えています。どうせお菓子を食べるなら、おせんべいの方が身体にもいいし、何よりおいしいと選択肢のひとつとして選んでいただけるように、お米の価値をしっかり訴求していきたいと思っています。お米だからこそできることを、お菓子を通じてこれからもお届けしていきたいです」
(取材・文/辻内史佳)
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