『うたコン』若き正指揮者・岩城直也、伝統をリスペクトしつつ新風を吹き込む【インタビュー】
1993年4月にスタートした『NHK歌謡コンサート』時代から、「生放送」「生歌唱」「生演奏」のコンセプトを貫き、演歌・歌謡曲からポップス、洋楽、ミュージカル音楽まで、多彩なジャンルの音楽を届けているNHK総合『うたコン』(毎週火曜 19:57)。今年3月まで指揮者を務めてきたフラッシュ金子氏が還暦を機に勇退し、その後は栗田信生氏や上杉洋史氏、青柳誠氏がピンチヒッターという形で指揮棒を振っていたが、今年7月9日に新しいコンダクターが誕生した。新進気鋭の音楽家・岩城直也(30)だ。
【写真】貴重な“本番直前”舞台裏フォト 10年来の付き合いの城田優と談笑も
■生放送・生歌唱・生演奏のカギを握る“心臓に毛の生えた”若きコンダクター
岩城が生まれたのは1993年、『うたコン』の前身番組である『歌謡コンサート』の放送がスタートした年。ある意味、岩城と『うたコン』は同い年だ。そんな『うたコン』の正指揮者のオファーを受けたのは今年の3月のことだった。
「『心臓に毛の生えた若手はいないか?』と探しているうちに、僕に話が来たようです(笑)。最初にお電話をいただいて、ほぼ二つ返事でお引き受けしました。というのも、『うたコン』の醍醐味といえばフルバンドの生演奏! 日本の音楽文化にとって貴重で大切な番組だなと思っていたんです」
オファーを受けてから何度か生放送を見学し、7月9日に正指揮者としてデビューを飾った。
「僕が見学に伺ったときには、すでにフラッシュ金子さんはご勇退されていたので、栗田信生さんや上杉洋史さん、青柳誠さんが指揮をする姿を近くから拝見しました。その際に、指揮を振るということはもちろん、演奏するうえでテンポの指標となる“クリック”の4拍子の曲だったら1小節に4つのビートを一定の周期で刻むガイド音のことで、この“クリック”を聴いて専属バンドのmusic concerto(ミュージック・コンチェルト)の皆さんが演奏しています」
“クリック”の管理を間違えると、音楽がずれたり、放送全体に影響が出たりする。この“クリック”の管理も『うたコン』生演奏の肝となっている。
「『うたコン』ではMCやVTRを挟まず数曲続けてお届けすることも少なくありません。たとえば10月22日の放送回では、由紀さおりさんの『夜明けのスキャット』に続けて城田優さんが『未来予想図II』を歌いました。『夜明けのスキャット』は、ラストで由紀さんの歌に合わせて演奏を止める“ブレイク”が入って、一度“クリック”を切ります。そして、指揮に合わせてエンディングの音を奏でている間に『未来予想図II』の“クリック”をオンにし、僕の口元につけたマイクを通じてバンドの皆さんに『1、2、3、4』とカウントして演奏がスタートする、という流れが求められるのです。アメリカ・ブロードウェイでも使われているソフトウェアをここ最近導入し、僕の手元でこの“クリック”を管理しています。
口元のマイクのオン・オフは足元のペダルで管理していて、指揮を振ることはもちろん、演奏を進めていくための機材類の操作も担うので、かなりスリリングです。こうした進行や機材整備、音楽環境などは、少しでも良い番組をつくろう! と日夜奮闘してくださっている素晴らしい番組スタッフの皆さんのおかげで成り立っています」
岩城の手元に楽譜が届くのは、本番前日の夕方だ。基本的には隔週で音楽監督を務める栗田信生氏と上杉洋史氏が、それぞれ担当する放送回の編曲を手掛けている。
「譜面が僕の手元に届いたら、まずはフルスコアを見やすくするために8小節ずつ色線を引いて区切って、テンポ変化を確認したり、譜面を読み解いたりします。僕自身が作・編曲家でもあるので、『アレンジャーの方がどんな音楽にしたいという思いでこのアレンジを書いたのか』をしっかりと考察する。この作業によって、リハーサルのときにバンドの方たちに、音の強弱や曲のニュアンスなどを伝えることができるんですよね。原曲のアレンジと、この『うたコン』のためだけのアレンジ、どちらへのリスペクトも表するという意味でも、とても大切な作業だと思っています」
曲をかみ砕いた後に、パソコンを使って“クリック”の作業にとりかかる。
「だいたい毎回10曲くらい演奏するので、月曜の夕方から翌朝にかけて準備をすることが多いですね。本番当日は午前11時半くらいにNHKホールに入って、機材の準備、“音楽担当”と呼ばれるスタッフさんと放送の進行・演奏開始のタイミングなどの打ち合わせをし、サウンドチェック、カメラリハーサルを行っていきます。月曜と火曜はほぼ『うたコン』一色です」
本番の前週木曜に、ピアノ、キーボード、ギター、ベース、ドラムスというリズムセクションによってガイド伴奏が録音される(“仮録”と呼ばれる)。シンガーは、そのガイド伴奏を聴いて、曲のサイズの確認とともに練習や準備をすることになる。
「music concertoの弦楽器、管楽器、パーカッションやコーラスの皆さんに楽譜が配られるのは基本的に本番当日の午前中で、音を合わせるのは正味2~3回ですが、バンドはヴァイオリンのクラッシャー木村さん、トランペットの鈴木正則さんをはじめ、一流のミュージシャンが集まっていますし、ドラムスの伊藤史朗さんのように10年近くmusic concertoのメンバーとして演奏をしている大ベテランもいらっしゃいます。放送の見学に伺った際にバンドの皆さんにご挨拶をして、少しずつコミュニケーションを取りながら7月のデビューに備えました。
正指揮者に就任してからも、よりクリエイティブな環境を実現するために、時折バンドの皆さんに相談をしながら放送を重ねています。どういう進め方をしたらいいのかは百戦錬磨の先輩方がよくご存知ですから。そんな素敵なミュージシャンの方々がいて、栗田先生や上杉先生ほかアレンジャーの皆さんの素晴らしい編曲があるので、音の合わせが2~3回でも本番はバッチリ演奏が決まるんです!」
これまであまり縁のなかった演歌の演奏も、“心臓に毛の生えた”指揮者ならではのスタンスで立ち向かっている。
「演歌を指揮するようになったのは『うたコン』を始めてからです。演歌は独特のテンポ感があって、特にラストに向けてゆっくりになっていく際の伝統的な間合いはとても勉強になります。この番組ではあらゆるジャンルの音楽を演奏するわけですが、それぞれの伝統や系譜をリスペクトしながらも、30歳の音楽家が振る音楽としてどこか新しさを感じて、それを面白いな、楽しいなと思っていただけたら嬉しいですね」
■『うたコン』のためだけにアレンジされた曲を読み解き、火曜の夜にスパイスの効いたステージを届けたい
7月9日に『うたコン』デビューしてから10回以上の放送を経験した。なかでも印象に残っている曲が『星に願いを』と『マツケンサンバII』だ。
「デビュー初日に指揮をした『星に願いを』は、僕の音楽人生の原点ともいえるディズニー音楽の名曲中の名曲。大好きな曲を、正指揮者に就任したというお披露目もかねて演奏でき、僕がアレンジも手掛けました。9月17日放送の『マツケンサンバII』も思い出の曲です。『マツケンサンバII』は小学校6年生の時に学年全員で踊った曲で、僕が先頭を切って踊っていました。その18年後、まさか松平健さんご本人と共演させていただく未来が待っているなんて夢にも思わず……。そのときに使った“サンバ棒”は大切にとってあったのでNHKホールに持ってきて、放送では曲の最後に少し踊っちゃいました!(笑) 恩師にも『うたコン』を観てくださいと連絡したのは言うまでもありません」
10月22日放送回では、出会ってから10年ほどが経ち、互いに絶大な信頼を置く城田優とも共演を果たした。
「優さんは、“優”という字が物語っているように、本当に優しくて愛にあふれた方です。音楽の現場でもいつもリスペクトを持って接してくださいます。10月に東京と大阪で開催した『城田優 25th Anniversary Orchestra Concert 〜featuring Naoya Iwaki』では、僕が全曲編曲・ピアノ・指揮を務めました。その際も「やりたいようにやっていいよ」と、僕の音楽を尊重してくださいました」
そんな城田優は、『うたコン』放送当日のリハーサルでステージに入ると岩城のもとへ直行し、熱い抱擁を交わした。
「まだ30代に突入したばかりの岩城さんが『うたコン』の正指揮者なんてすごいですよね。岩城さんとは10年来のお付き合いですが、彼の魅力はファンタジックなアレンジメント。原曲には原曲の良さがありますが、岩城さんは原曲とはまた違うアプローチで曲の素敵な側面を見せてくれるアレンジャーというかコンダクターというか……。彼の肩書はいったい何なのでしょう(笑)。かつて、僕が作詞作曲した曲を彼にアレンジしてもらったこともありますが、自分が作った曲ですから自分の頭の中には自分の作ったコードが鳴るわけです。ところが、彼がアレンジするとまったく違う展開を見せる。『なるほどこれは面白いな』という化学反応が結構ありまして、ワクワクしました」(城田)
指揮者としての岩城については、しっかりと曲調をとらえた状態で演奏を進めていく安心感があると、城田は語る。
「ブレスの位置や『ここは一緒にいこうね』というタイミングなどもとても丁寧に合わせてくださいますし、音楽に聴きいってしまったときも、歌が入り損ねることのないように『ここだよ!』という顔で合図を送ってくださったりするので助かっています」(城田)
『うたコン』のためだけにアレンジされた曲に合わせてアーティストが生歌唱するというマリアージュに、生放送の緊張感というスパイスが加わるのが、『うたコン』最大の魅力だと語る岩城。11月12日のオーケストラで贈る珠玉の名曲集では、岩城が以前オーケストラコンサートで指揮・編曲を担当した薬師丸ひろ子との共演も予定されている。
若い感性と強心臓、そして自分でもしゃべりだしたら止まらないというおしゃべりの才を武器に、伝統をリスペクトしつつ新風を吹き込んでいく新星コンダクターが、火曜日の夜に視聴者をどんな音楽の世界へといざなってくれるのか。30代に突入したばかりの彼が、『うたコン』で経験を積み重ね、指揮者・作編曲家としてますます飛躍していく姿に注目したい。
文・森中要子
■岩城直也 プロフィール
イマジネーション溢れるオーケストレーションや、色彩豊かな唯一無二のサウンドを創り奏でる、作・編曲家、鍵盤奏者、指揮者。
東京音楽大学在学中に玉置浩二オーケストラ公演の編曲を担当したのを皮切りに、これまでに八神純子、佐藤竹善、薬師丸ひろ子、スガシカオ、斉藤由貴、一青 窈、城田 優などヴォーカリストや、武部聡志、小曽根 真・Robert Glasper・Lang Langなどのアーティストの編曲、土屋太鳳(監督・主演)& 有村架純(出演)のショートフィルム『Prelude』などの映画音楽、テーマパーク音楽、CM音楽などの作曲を手掛ける。また根本 要・鈴木雅之・中山美穂・小林武史らとの共演を重ねる。
東京音楽大学 作曲〈映画・放送音楽コース〉首席卒業。バークリー音楽大学に奨学金を得て留学後、日米の垣根を超え活動。Naoya Iwaki Pops Orchestra 代表/ミュージック・ディレクター。今年7月からNHK『うたコン』の正指揮者を務める。
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■生放送・生歌唱・生演奏のカギを握る“心臓に毛の生えた”若きコンダクター
岩城が生まれたのは1993年、『うたコン』の前身番組である『歌謡コンサート』の放送がスタートした年。ある意味、岩城と『うたコン』は同い年だ。そんな『うたコン』の正指揮者のオファーを受けたのは今年の3月のことだった。
「『心臓に毛の生えた若手はいないか?』と探しているうちに、僕に話が来たようです(笑)。最初にお電話をいただいて、ほぼ二つ返事でお引き受けしました。というのも、『うたコン』の醍醐味といえばフルバンドの生演奏! 日本の音楽文化にとって貴重で大切な番組だなと思っていたんです」
オファーを受けてから何度か生放送を見学し、7月9日に正指揮者としてデビューを飾った。
「僕が見学に伺ったときには、すでにフラッシュ金子さんはご勇退されていたので、栗田信生さんや上杉洋史さん、青柳誠さんが指揮をする姿を近くから拝見しました。その際に、指揮を振るということはもちろん、演奏するうえでテンポの指標となる“クリック”の4拍子の曲だったら1小節に4つのビートを一定の周期で刻むガイド音のことで、この“クリック”を聴いて専属バンドのmusic concerto(ミュージック・コンチェルト)の皆さんが演奏しています」
“クリック”の管理を間違えると、音楽がずれたり、放送全体に影響が出たりする。この“クリック”の管理も『うたコン』生演奏の肝となっている。
「『うたコン』ではMCやVTRを挟まず数曲続けてお届けすることも少なくありません。たとえば10月22日の放送回では、由紀さおりさんの『夜明けのスキャット』に続けて城田優さんが『未来予想図II』を歌いました。『夜明けのスキャット』は、ラストで由紀さんの歌に合わせて演奏を止める“ブレイク”が入って、一度“クリック”を切ります。そして、指揮に合わせてエンディングの音を奏でている間に『未来予想図II』の“クリック”をオンにし、僕の口元につけたマイクを通じてバンドの皆さんに『1、2、3、4』とカウントして演奏がスタートする、という流れが求められるのです。アメリカ・ブロードウェイでも使われているソフトウェアをここ最近導入し、僕の手元でこの“クリック”を管理しています。
口元のマイクのオン・オフは足元のペダルで管理していて、指揮を振ることはもちろん、演奏を進めていくための機材類の操作も担うので、かなりスリリングです。こうした進行や機材整備、音楽環境などは、少しでも良い番組をつくろう! と日夜奮闘してくださっている素晴らしい番組スタッフの皆さんのおかげで成り立っています」
岩城の手元に楽譜が届くのは、本番前日の夕方だ。基本的には隔週で音楽監督を務める栗田信生氏と上杉洋史氏が、それぞれ担当する放送回の編曲を手掛けている。
「譜面が僕の手元に届いたら、まずはフルスコアを見やすくするために8小節ずつ色線を引いて区切って、テンポ変化を確認したり、譜面を読み解いたりします。僕自身が作・編曲家でもあるので、『アレンジャーの方がどんな音楽にしたいという思いでこのアレンジを書いたのか』をしっかりと考察する。この作業によって、リハーサルのときにバンドの方たちに、音の強弱や曲のニュアンスなどを伝えることができるんですよね。原曲のアレンジと、この『うたコン』のためだけのアレンジ、どちらへのリスペクトも表するという意味でも、とても大切な作業だと思っています」
曲をかみ砕いた後に、パソコンを使って“クリック”の作業にとりかかる。
「だいたい毎回10曲くらい演奏するので、月曜の夕方から翌朝にかけて準備をすることが多いですね。本番当日は午前11時半くらいにNHKホールに入って、機材の準備、“音楽担当”と呼ばれるスタッフさんと放送の進行・演奏開始のタイミングなどの打ち合わせをし、サウンドチェック、カメラリハーサルを行っていきます。月曜と火曜はほぼ『うたコン』一色です」
本番の前週木曜に、ピアノ、キーボード、ギター、ベース、ドラムスというリズムセクションによってガイド伴奏が録音される(“仮録”と呼ばれる)。シンガーは、そのガイド伴奏を聴いて、曲のサイズの確認とともに練習や準備をすることになる。
「music concertoの弦楽器、管楽器、パーカッションやコーラスの皆さんに楽譜が配られるのは基本的に本番当日の午前中で、音を合わせるのは正味2~3回ですが、バンドはヴァイオリンのクラッシャー木村さん、トランペットの鈴木正則さんをはじめ、一流のミュージシャンが集まっていますし、ドラムスの伊藤史朗さんのように10年近くmusic concertoのメンバーとして演奏をしている大ベテランもいらっしゃいます。放送の見学に伺った際にバンドの皆さんにご挨拶をして、少しずつコミュニケーションを取りながら7月のデビューに備えました。
正指揮者に就任してからも、よりクリエイティブな環境を実現するために、時折バンドの皆さんに相談をしながら放送を重ねています。どういう進め方をしたらいいのかは百戦錬磨の先輩方がよくご存知ですから。そんな素敵なミュージシャンの方々がいて、栗田先生や上杉先生ほかアレンジャーの皆さんの素晴らしい編曲があるので、音の合わせが2~3回でも本番はバッチリ演奏が決まるんです!」
これまであまり縁のなかった演歌の演奏も、“心臓に毛の生えた”指揮者ならではのスタンスで立ち向かっている。
「演歌を指揮するようになったのは『うたコン』を始めてからです。演歌は独特のテンポ感があって、特にラストに向けてゆっくりになっていく際の伝統的な間合いはとても勉強になります。この番組ではあらゆるジャンルの音楽を演奏するわけですが、それぞれの伝統や系譜をリスペクトしながらも、30歳の音楽家が振る音楽としてどこか新しさを感じて、それを面白いな、楽しいなと思っていただけたら嬉しいですね」
■『うたコン』のためだけにアレンジされた曲を読み解き、火曜の夜にスパイスの効いたステージを届けたい
7月9日に『うたコン』デビューしてから10回以上の放送を経験した。なかでも印象に残っている曲が『星に願いを』と『マツケンサンバII』だ。
「デビュー初日に指揮をした『星に願いを』は、僕の音楽人生の原点ともいえるディズニー音楽の名曲中の名曲。大好きな曲を、正指揮者に就任したというお披露目もかねて演奏でき、僕がアレンジも手掛けました。9月17日放送の『マツケンサンバII』も思い出の曲です。『マツケンサンバII』は小学校6年生の時に学年全員で踊った曲で、僕が先頭を切って踊っていました。その18年後、まさか松平健さんご本人と共演させていただく未来が待っているなんて夢にも思わず……。そのときに使った“サンバ棒”は大切にとってあったのでNHKホールに持ってきて、放送では曲の最後に少し踊っちゃいました!(笑) 恩師にも『うたコン』を観てくださいと連絡したのは言うまでもありません」
10月22日放送回では、出会ってから10年ほどが経ち、互いに絶大な信頼を置く城田優とも共演を果たした。
「優さんは、“優”という字が物語っているように、本当に優しくて愛にあふれた方です。音楽の現場でもいつもリスペクトを持って接してくださいます。10月に東京と大阪で開催した『城田優 25th Anniversary Orchestra Concert 〜featuring Naoya Iwaki』では、僕が全曲編曲・ピアノ・指揮を務めました。その際も「やりたいようにやっていいよ」と、僕の音楽を尊重してくださいました」
そんな城田優は、『うたコン』放送当日のリハーサルでステージに入ると岩城のもとへ直行し、熱い抱擁を交わした。
「まだ30代に突入したばかりの岩城さんが『うたコン』の正指揮者なんてすごいですよね。岩城さんとは10年来のお付き合いですが、彼の魅力はファンタジックなアレンジメント。原曲には原曲の良さがありますが、岩城さんは原曲とはまた違うアプローチで曲の素敵な側面を見せてくれるアレンジャーというかコンダクターというか……。彼の肩書はいったい何なのでしょう(笑)。かつて、僕が作詞作曲した曲を彼にアレンジしてもらったこともありますが、自分が作った曲ですから自分の頭の中には自分の作ったコードが鳴るわけです。ところが、彼がアレンジするとまったく違う展開を見せる。『なるほどこれは面白いな』という化学反応が結構ありまして、ワクワクしました」(城田)
指揮者としての岩城については、しっかりと曲調をとらえた状態で演奏を進めていく安心感があると、城田は語る。
「ブレスの位置や『ここは一緒にいこうね』というタイミングなどもとても丁寧に合わせてくださいますし、音楽に聴きいってしまったときも、歌が入り損ねることのないように『ここだよ!』という顔で合図を送ってくださったりするので助かっています」(城田)
『うたコン』のためだけにアレンジされた曲に合わせてアーティストが生歌唱するというマリアージュに、生放送の緊張感というスパイスが加わるのが、『うたコン』最大の魅力だと語る岩城。11月12日のオーケストラで贈る珠玉の名曲集では、岩城が以前オーケストラコンサートで指揮・編曲を担当した薬師丸ひろ子との共演も予定されている。
若い感性と強心臓、そして自分でもしゃべりだしたら止まらないというおしゃべりの才を武器に、伝統をリスペクトしつつ新風を吹き込んでいく新星コンダクターが、火曜日の夜に視聴者をどんな音楽の世界へといざなってくれるのか。30代に突入したばかりの彼が、『うたコン』で経験を積み重ね、指揮者・作編曲家としてますます飛躍していく姿に注目したい。
文・森中要子
■岩城直也 プロフィール
イマジネーション溢れるオーケストレーションや、色彩豊かな唯一無二のサウンドを創り奏でる、作・編曲家、鍵盤奏者、指揮者。
東京音楽大学在学中に玉置浩二オーケストラ公演の編曲を担当したのを皮切りに、これまでに八神純子、佐藤竹善、薬師丸ひろ子、スガシカオ、斉藤由貴、一青 窈、城田 優などヴォーカリストや、武部聡志、小曽根 真・Robert Glasper・Lang Langなどのアーティストの編曲、土屋太鳳(監督・主演)& 有村架純(出演)のショートフィルム『Prelude』などの映画音楽、テーマパーク音楽、CM音楽などの作曲を手掛ける。また根本 要・鈴木雅之・中山美穂・小林武史らとの共演を重ねる。
東京音楽大学 作曲〈映画・放送音楽コース〉首席卒業。バークリー音楽大学に奨学金を得て留学後、日米の垣根を超え活動。Naoya Iwaki Pops Orchestra 代表/ミュージック・ディレクター。今年7月からNHK『うたコン』の正指揮者を務める。
『うたコン』11・12はオーケストラ編成SP 薬師丸ひろ子が6年ぶり出演
日本にポップス・オーケストラを! 岩城直也率いるNIPOがコンサート ゲストに大野拓朗が決定
【インタビュー】生歌唱、生演奏の生放送が生む熱量と出会いの場 幅広い音楽でアプローチする『うたコン』の意義
『うたコン』NHKホールで展示イベント開催 「紅白」出場者の直筆サインボードも展示
異色コラボが生み出すライブ感 「生ならではのリアル」届ける『うたコン』の個性と魅力