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【東芝】小型化と世界最高レベルの精度を両立した物体の動きや姿勢を検出する「慣性センサーモジュール」と、同モジュールを用いた「可搬型ジャイロコンパス」を開発

2024-9-2
株式会社 東芝
東芝電波プロダクツ株式会社


小型化と世界最高レベルの精度を両立した物体の動きや姿勢を検出する「慣性センサーモジュール」と、同モジュールを用いた「可搬型ジャイロコンパス」を開発
~慣性センサーモジュールは太平洋航路をGPSなしで飛行可能な精度を達成。
可搬型ジャイロコンパスは防衛用途にも適用可能な方位推定を実現~

概要
 株式会社東芝(以下、東芝)は、物体の動きや位置を検出する慣性計測装置のキーパーツである慣性センサーについて、小型化と世界最高レベルの精度を両立した「慣性センサーモジュール」の開発に成功し、東芝電波プロダクツ株式会社(以下、東芝電波プロダクツ)は、東芝の開発技術を応用し、持ち運び可能なサイズの「ジャイロコンパス」を開発しました。

 慣性センサーは、物体の動きや姿勢を検出するためのセンサーで、代表的なものとして物体の回転や向きの変化を検出する「ジャイロセンサー」と物体の速度の変化を検出する「加速度センサー」があります。センサーは物体そのものに搭載することから、GPS等の電波が届かないビル陰や水中、暗くてカメラで対応できないトンネルや屋内暗所などでも物体の動きや姿勢を正確に検出することができ、スマートフォンの画面の向きを自動に変える機能や歩数計に用いられている他、自動車、航空機など多くの製品に組み込まれています。モビリティの自動化の進展に伴い、移動ロボットやドローンへの搭載などその利用用途は拡大していますが、小型のモビリティにも搭載できるコンパクトなセンサーは精度が十分ではないという課題がありました。
 今般東芝が開発した慣性センサーモジュールは、独自のMEMS技術(*1)を活用し小型化しつつ、ジャイロセンサーは0.01dph(*2)以下、加速度センサーは1µG(*3)以下のバイアス安定性(*4)を実現し、ジャイロセンサーと加速度センサーいずれも、小型モジュールとしては世界最高レベル(*5)の精度を達成しました。高精度な慣性計測装置は「ナビゲーショングレード」と呼ばれ、航空機に搭載すれば太平洋航路をGPSなしで飛行可能な精度とされています。本技術の活用により、どのような環境においてもモビリティが自己の動きや位置を高精度に推定することができ、インフラ点検の無人化や完全自動運転の実現に貢献できます。

 また、東芝電波プロダクツは、今般東芝が開発した「ジャイロセンサー」のモジュールを用いて、持ち運び可能なサイズのジャイロコンパスを開発しました。一般的な方位磁石が地球の磁場を利用して北を指すのに対して、ジャイロコンパスは地球の自転を基にして真北を指します。磁気の影響を受けないという特徴があり、船舶や航空機などに使用されます。今般開発したジャイロコンパスは可搬サイズでありながら0.056°の方位角精度で真北を推定することに成功しました。0.056°の方位角精度は、極めて高い正確性が求められる防衛分野でレーダーなどの設置方向を決める際にも用いることができる精度であり、防衛以外の分野でも、土木工事における正確な測量、地中の掘削における精密な方角推定など、幅広い場面での活用が見込めます。

 両社はこれらの技術の詳細を、9月1日~4日にハンガリーで開催される、センサーやMEMSの分野で最も権威のある欧州学会のひとつであるEUROSENSORS XXXVIにて発表します。

開発の背景
 近年、少子高齢化に伴う人手不足などを背景に、社会基盤を維持するために、車の自動運転や、ドローンや移動ロボットなど自律移動するモビリティを活用する流れが加速しています。モビリティの自律移動には自己位置の正確な把握が不可欠です。現在、モビリティの位置測定にはGPSが用いられていますが、GPSは衛星からの電波が届かない水中やビルの谷間などの環境においては位置測定ができなかったり極端に位置測定精度が落ちたりします。また、GPSを補うために使用するカメラについても、急に周囲が明るくなったり暗くなったりすると検出が困難になる課題がありました。
 こうした背景から、位置測定に無線や画像のような外部からの情報を用いず、モビリティの並進方向、回転方向の動きを計測し、その計測値を積算することで位置を推定する慣性センサーを搭載した慣性計測装置による位置推定が注目されています。慣性計測装置はどのような環境変化や条件でも性能を維持する特長がありますが、ドローンなどの小型のモビリティにも搭載できるコンパクトサイズで、ナビゲーショングレードを実現した装置がないのが実態です。慣性計測装置の活用に向け、小型でありながらナビゲーショングレードを満たす高精度な慣性計測装置に対する期待が高まっており、実現には、要求仕様を満たす高精度な小型慣性センサーが求められていました。

本技術の特徴
 そこで東芝は、独自のMEMS技術を用いて、小型でありながらナビゲーショングレードを満たす高精度な慣性センサーモジュールの開発に成功しました(図1)。東芝は以前より慣性センサーの研究開発を進めており、2020年には独自のMEMS技術を用いて、小型のジャイロセンサーモジュールの開発に成功しています(*6)。今般開発した慣性センサーモジュールでは、その技術を活用し、加速度センサーも小型化しています。また、ナビゲーショングレードを実現するにあたり、ジャイロセンサーと加速度センサーに求められる精度は、それぞれ0.01dph以下、1µG以下です。今般東芝が開発したセンサーはいずれもその要求仕様を満たしており、小型モジュールとしては世界最高レベルの精度を達成しました。
 今般開発したジャイロセンサーは、地球の自転の角度を計測できるフーコーの振り子と同じ物理的原理に基づき、物体の角度を直接検出することができる「角度直接検出モード」と、コリオリの力(*7)を利用して物体の角速度を測定する「角速度計測モード」を切り替えて使用できる、拡張型の「角度直接検出型ジャイロ(Rate Integrating Gyroscope: RIG)」を採用しています。また、加速度センサーは、共振周波数(*8)の変化で加速度を計測する「差動共振型加速度センサー(Differential Resonant Accelerometer: DRA)」を採用しています。一般的な慣性センサーは、回転角速度や加速度の入力に比例した錘の動きの変位を元に計測を行いますが、その場合、精度と測定レンジの間に原理的なトレードオフが存在します。一方、今回採用した方式では原理的なトレードオフが存在しないため、測定レンジの影響を受けることなく精度を大幅向上することができました。今般開発した慣性センサーモジュールを慣性計測装置に搭載すれば、GPS等の電波が届かない場所や、暗くてカメラでの対応が困難なトンネルや屋内暗所でも、ドローンや車、移動ロボットなどの小型モビリティが正確に自己の動きや位置を推定することができ、インフラ点検や工場の無人化、完全自動運転の実現に貢献できます。


[画像1]https://digitalpr.jp/simg/1398/94264/500_365_2024090209323166d5079fe8b7e.png


図1:東芝が開発した慣性センサーモジュール

 さらに、東芝電波プロダクツは、今般東芝が開発したジャイロセンサーモジュールを用いて、持ち運び可能なサイズ(約4リットル、Φ180mm x 高さ161.6mm)でありながら高精度な方位角測定が可能なジャイロコンパスを開発しました(図2)。ジャイロコンパスとは、地磁気を利用する一般的な磁気コンパス(測定精度:数°程度)と異なり、ジャイロセンサーを用いて地球の自転を計測することで地磁気等に頼らずに真北の方位を正確に測定する装置で、周囲の環境変化に影響されず性能を維持できる点から近年注目が高まっています。現在市販されているもののうち、精度が高い機械式・光学式のジャイロセンサーを用いたものは数十リットル以上のサイズで持ち運びが難しい一方、可搬型サイズのものは十分な精度が出ないという課題がありました。これに対し、今般開発したジャイロコンパスは、搭載したジャイロセンサーの設置方向を90°刻みで切り替えていく「メイタギング法」と呼ばれる手法を用いることで、現在市販されている、MEMS技術を用いた可搬の小型ジャイロコンパスの測定精度である1°程度を大きく凌駕する0.056°の方位角精度での真北推定を実現しました。現段階では、世界最高の精度です(*9)。
 0.056°は1ミルとも呼ばれ、1km先で1m以内の誤差となる精度に相当します。この精度は、極めて高い正確性が求められる防衛分野でレーダーなどの設置方向を決める際にも用いることができる指標とされています。また、可搬サイズであることを生かし、正確性が求められる土木工事における測量や地中掘削における方角推定など、幅広い場面での活用が見込まれます。


[画像2]https://digitalpr.jp/simg/1398/94264/500_375_2024090209323966d507a731fca.jpg


図2:東芝電波プロダクツが試作した可搬型ジャイロコンパス

今後の展望
 今後東芝は、搭載物の軽さが重視される飛翔体や空中ドローンなどに対しても、飛行に影響を与えることなく搭載できる10cc級の超小型サイズ(ペットボトルキャップの大きさ)の慣性センサーモジュールの実現に向け、さらなる小型化を目指し研究開発を進めます。これにより、防衛・民生の幅広い市場への展開を目指します。また、東芝電波プロダクツは、今般開発したジャイロコンパスについて、2026年度以降の製品化を目指します。

 なお、今回開発した技術成果の一部は、防衛装備庁が実施する安全保障技術研究推進制度JPJ004596の支援を受けて得られたものです。

*1 : Micro Electro Mechanical Systemsの略で、半導体加工技術で作成した、微細な機械構造を持つ電子部品もしくはシステム。
*2 : degree per hourの略で1時間あたりの角度変化を表す単位。0.01dphは1時間で0.01°しかずれないことを差す。
*3 : 重力加速度Gの100万分の1を表す単位。 1µGは高感度の地震計と同等レベルの精度。
*4 : センサーの性能を評価するための指標。センサーの出力がどれだけ安定しているかを示しており、値が小さいほど高精度。
*5 : 体積200cc以下の小型センサーモジュールについて世界最高レベルの精度。2024年8月東芝調べ。
*6 : https://www.global.toshiba/jp/technology/corporate/rdc/rd/topics/20/2001-02.html
*7 : 慣性力の一種で、物体の回転によって引き起こされる見かけの力。
*8 : 物体やシステムが最も効率よく振動する特定の周波数。
*9 : 2024年8月東芝調べ。



プレスリリース詳細へ https://digitalpr.jp/r/94264
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