和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2024年06月18日(火)

思春期には白杖を持つことに葛藤も…視覚障害者・白杖ガールが発信し続ける“心のバリアフリー”「物理的なバリアフリーは誰かのバリアになる」

SNSなどで“白杖ガール”として視覚障害者について発信する杉本梢さん
SNSなどで“白杖ガール”として視覚障害者について発信する杉本梢さん
 先天性の視覚障害者の杉本梢さんは、特注のコンタクトをして最大視力0.09の弱視。視覚障害についての「なるほど」と思える情報をSNSやYouTube、TikTokなどで積極的に発信する彼女は、身近なテーマを取り上げ、多くの視聴者に気づきを与えている。特別支援学校の教員を経て、現在は一般社団法人「日本心のバリアフリー協会」の代表理事を務める彼女が伝えたい、物理的なバリアフリーを越えられる「心のバリアフリー」について聞いた。

【写真】笑顔が素敵! こちらに微笑む明るく活発的な杉本梢さん

◆自治体によって異なる条件のある盲導犬、迎えられたら心強いなと思うことはある

──杉本さんの現在の視覚の症状について教えていただけますか。

【杉本梢さん】 私は先天性の弱視なのですが、具体的な診断名をつけるのは医師でも難しく、直近の診断では「黄斑部の異常」とされています。目を酷使しすぎると失明リスクもあると言われているので、なるべく大切に管理しながら、それでもアクティブに過ごしている方だと思います。

──お仕事の出張や旅行なども1人でされるそうですね。

【杉本梢さん】 はい。視覚障害者の歩行をサポートする白い杖、白杖(はくじょう)が私の頼もしいパートナーです。

──盲導犬をパートナーとする視覚障害者もいますが、なぜ白杖を選択されたのですか?

【杉本梢さん】 盲導犬をお迎えするにはさまざまな条件があり、おおむね“見えにくさ”の程度が重い方が優先されます。条件は自治体によって異なるのですが、私の住む北海道では、私の障害等級は対象外となっています。

──もし条件に合えば、盲導犬をお迎えしたいですか?

【杉本梢さん】 盲導犬は頭数も限られていますし、お迎えが難しい理由も十分理解しています。ただ、盲導犬の目を借りられたら心強いなと思うことはあります。私の目はまぶしいとより見えにくくなる特性があり、特に冬は雪の反射で目の前がまったく見えなくなることもあります。また点字ブロックが雪で覆われてしまい、冬は外出困難になる要因が多々あります。

──白杖を使い始めたのはいつ頃からですか?

【杉本梢さん】 小学生の頃から使ってはいるのですが、思春期の頃は周りの目が気になって「なるべく持ちたくないな」と思っていました。“白杖=視覚障害のマーク”になってしまうことに抵抗感を持つ当事者は少なくないんです。私自身は社会人になり、特別支援学校の教員(2007年より11年勤務)として子どもたちの引率などをするため「白杖が必須」になりました。さらにその時期を経て、いまでは「白杖を積極的に持ちたい」という認識に変わっています。

◆思春期には持ちたくないとも…“白杖=視覚障害のマーク”は決してネガティブなことばかりではない

──白杖を積極的に持つメリットとは?

【杉本梢さん】 自分が歩きやすいのはもちろんですが、周りの方の安全に繋がるのも白杖の役割です。目が見えにくいとどうしても俯いて歩きがちだったり、人にぶつかることもあります。人混みで「邪魔だ」と怒鳴られたこともありました。ただその方も私が視覚障害だとわかっていたら、怒鳴らずに済んでいたと思うんですね。白杖を持っていることで人の優しさにもたくさん気づきますし、“視覚障害のマーク”は決してネガティブなことばかりじゃないんです。

──逆に白杖を持っていることで、心無い声をかけられることはないですか?

【杉本梢さん】 白杖で地面をコツコツ叩く音が「うるさい」と言われるのは、実は“白杖ユーザーあるある”だったりします。音を立てるのは自分の存在を知らせたり、周囲の様子を知るためなのですが、こうした白杖の役割、あるいは“白杖=視覚障害者”ということをご存知ない方も意外とたくさんいるのだと思います。でもそれは必ずしも学校で習うわけでもないですし、教えてくれなければわからないですよね。

──だからこそ“白杖ガール”としてYouTubeやTikTokで積極的に発信しているわけですね。

【杉本梢さん】 はい。当事者は、「周りに自分が何に困っているのか?」を伝えることを、「迷惑をかけてしまうのではないのか?」と躊躇してしまう人が、とても多いです。一方、「障害者が困っているならサポートしたい」と思っている方もたくさんいます。だけど何に困っているのかがわからなければ、何もできないですよね。そこをお互いに理解すること、そのための対話がとても大事だと思っていて、私が動画発信する理由もその1つの手段です。

──町で白杖を使っている人を見かけたら、どのようなサポートをするのがベストですか?

【杉本梢さん】 白杖を持って1人で歩いているということは、ある程度の1人歩きスキルがあるはずなので、まずは見守って、大丈夫そうならそのまま素通りしてください。この「見守りサポート」があるからこそ、明らかに大丈夫そうじゃない状況──キョロキョロ周りを見渡していたり、道路に出て危ないといったことにも気づけるわけで、実は大きなサポートになっています。

──視覚障害者のためのバリアフリー設備として、昔から普及しているのが音響式信号です。しかし昨今は近隣住民からの騒音の苦情もあり、全国8割の音響式信号機が音の稼働時間を制限したり、音を小さくしているという調査もあります。実際、音響式信号はないと困るものですか?

【杉本梢さん】 難しいですよね。視覚に障害がある人にとって、音響式信号は町の交通安全のためにもなくてはならないものです。ただ騒音の“お困り度”も人それぞれで、なかには聴覚過敏の特性を持つ発達障害者の方もいます。また視覚障害者にとっては、大切なバリアフリー設備となっている点字ブロックも、車椅子ユーザーには“バリア”になってしまっているという声もあります。

◆物理的なバリアフリーは誰かのバリアに…心のバリアフリーは障害者だけでなく、すべての人のためのもの

──最近は点字ブロックの間に車椅子が通りやすい幅を設置する動きもありますね。

【杉本梢さん】 ただそうしたハードを設置するのは時間もコストもかかりますし、物理的、制度的にすべての人にパーフェクトなバリアフリーを実現するのは、どこまで行っても無理なんじゃないかと思うこともあります。だからこそ私は「心のバリアフリー」を社会に普及したいと思って活動しています。

──「心のバリアフリー」とはどういうことだと理解すれば良いのでしょうか。

【杉本梢さん】 社会にはいろんな体や心の特性、考え方を持っている人が暮らしています。障害者だけでなく、怪我や病気の人、お腹に赤ちゃんのいる人、高齢者や外国籍、LGBTQ──そのどれに当てはまらなくて、誰しも「困ったな」という状況になることはあると思います。相手のすべてを受け入れるのは難しいかもしれません。それでも少なくとも違いを否定せず、お互いを理解し、歩み寄ったり、譲り合ったりすれば、誰もが優しい気持ちで過ごせるようになります。誰かのバリアになってしまうこともある「物理的バリアフリー」に対して、「心のバリアフリー」は障害者だけでなくすべての人のためのものなんです。

──杉本さん自身は視覚障害をコンプレックスに感じたことはありましたか?

【杉本梢さん】 視覚障害によって「挫折」したことは何度もありますね。最も大きかったのは天職だと思っていた特別支援学校の教員を、目の酷使によるドクターストップで辞めざるを得なかったことです。ただコンプレックスに感じた記憶はあまりないです。「前向きだね」「明るいね」とよく言われるのですが、それはきっと親の育て方が大きかったと思うんです。

──お母さまとはどんな思い出がありますか?

【杉本梢さん】 私は3人きょうだいなのですが、目が見えるきょうだいと分け隔てなく育ててくれました。「目が見えないからこれはダメ」と言われたことはなかった。小学1年生の時に姉の自転車がうらやましくて、「私も乗りたい」と言ったら買い与えてくれましたし、ある程度、乗れるようになったら1人で遠くに行ったこともありました。母も心配だったのでしょう。後から聞いたらこっそりついてきていたらしいです。私はぜんぜん気が付かなかったのですが。そしてある時、土手に突っ込んでしまったんです(笑)。

──その時、お母さまは?

【杉本梢さん】 駆け付けなかったんです。もちろん大ごとになっていたら駆け付けたでしょうけど、私がムクッと起き上がったのを見て大丈夫だと思ったんでしょうね。私もその時のことはよく覚えています。泣きたかったけれど、「自転車に乗りたい」と言ったのは自分だし、なるほど、無茶するとこういう痛い目を見るんだなと学び、グッとこらえて家まで自転車を押して帰りました。

──お母さまとしても、転んで痛みを知るのも経験というお考えだったんでしょうね。

【杉本梢さん】 包丁や火を使うのも制限されなかったですし、おかげで日常生活にも困りません。母は私を「尊重し受け入れてくれる」人でしたが、障害への理解に関する研究論文によると、社会の障害者に対する意識と態度の程度は、4つの領域に類別されているとも言われています。障害者を社会的悪とみなし、傷つけるような事件が時々起こりますが、残念ながら、社会にはいろんな人がいるということですよね。

──「同情」という感情も根強くありそうですが、これはいけないことなのでしょうか。

【杉本梢さん】 一概に否定はできないですよね。障害者と接したり、障害について学ぶ機会も少なかったりするので、障害への理解の程度は個人で異なるわけですから──。実は障害者の親にも、本来は日常で経験を積めばできることも「かわいそうだから」と過度な手助けをし、成長の機会を逃してしまう方もいるんですね。最近は小学校で講演をする機会も増えているのですが、1人でも多くの子どもたちに、障害への関心と理性的な考え方を伝えていくことが、「心のバリアフリー」を実現するためには大切だと思っています。

(文/児玉澄子)



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