和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2022年06月27日(月)

基礎研究の小径から 和歌山高専総合教育科/-82-/ジュール・ヴェルヌ『地底旅行』/―暗号解読作業(二)―/ドイツ文学吉田芳弘/(5)

図4
図4
図3
図3
 アクセルの暗号については教授の暗号解読法の有効性が実証されました。こうして「上から下へ」と移動する/読むという操作でサクヌッセンムの暗号の解読が始められます。まずルーン文字をラテン文字に転写した原暗号(前回掲載の図1)は、横に並んだ一行にある三単語を一単語ずつ縦方向に並べる作業を七行分行うと「図3」の文面となります。これを「上から下へ」と「messunk…」のように読んでいくと、教授の仮説が正しければ、そこに現れるのは秘密を伝える平文のはずです。しかしその文面は相変わらず意味不明な第二の暗号文(図4)でした。リーデンブロック教授の理性と論理に基づく暗号解読はここで限界となり、これを引き継ぐのは恋する若者アクセルの感性と幻想による解読です。暗号解読にふけるあまり、暗号を構成する百三十二個の文字が幻覚のなかで辺りを飛び回りはじめ、息苦しくなったアクセルが暗号をつづった紙で顔をあおいだとき、紙の表裏が交互に視界に入り、突然その裏面に「craterem(火口)」や「terrestre(地球)」といったラテン語の単語を発見します。第二の暗号文を解読する鍵は、テキストを「裏から/逆から」読むことにあったのです。第二の暗号文は、その最後の文字「I」から最初の文字「m」までを「下から上へ」と逆方向に読むことで平文が復元され、秘密を伝えることとなります。隠されていたのはラテン語による次の文面でした。「In Sneffels Yoculis craterem kem delibat umbra Scartaris Julii intra calendas descende, audas viator, et terrestre centrum attinges. Kod feci. Arne Saknussem」(大胆な冒険者よ、七月一日のまえにスカルタリスの影が愛撫(あいぶ)しにやってくるスネッフェルスのヨルクの火口のなかに降りよ。そうすれば地球の中心にたどり着くだろう。それは私がなしたことだ。アルネ・サクヌッセンム)

 さてこうして暗号解読の作業は完了しました。次回は、前後三章を費やして行われたこの暗号解読作業の経験が、「地球の中心への旅」と要約される主人公たちの冒険の経験とどのように関係しているのかについて考えます。ところで、教授が発見できなかった「下から上へ」の秘密を、どうしてアクセルが見つけることができたのでしょうか。それは愛するグラウベンが地上で待っているからです。無事に地上へと帰還することが、恋する若者の使命なのです。だから物語『地底旅行』の要約は、正確には「地球の中心への旅と地上への帰還」ということになります。