和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2024年11月29日(金)

ウミガメの産卵始まる 序盤は少なめ、みなべ

ウミガメの産卵を確認する町教育委員会の職員(和歌山県みなべ町山内で)
ウミガメの産卵を確認する町教育委員会の職員(和歌山県みなべ町山内で)
ウミガメの産卵を確認するため砂浜に向かう日本ウミガメ協議会の事務局職員(右)と専門学校生
ウミガメの産卵を確認するため砂浜に向かう日本ウミガメ協議会の事務局職員(右)と専門学校生
砂浜に沿った柵に張られた遮光ネット
砂浜に沿った柵に張られた遮光ネット
 和歌山県みなべ町山内の千里の浜で、アカウミガメの産卵シーズンを迎えた。町教育委員会の調査では今季、13日までに産卵が確認されたのは4回。ここ数年は減少傾向にあり、今季も序盤は少なく、調査や保護に関わっている人たちは回復を期待している。


 千里の浜は全国有数のアカウミガメの産卵地で、本州では最も産卵密度が高い。毎年5月中旬から8月上旬にかけてが産卵シーズンで、ウミガメの保護調査や研究をする「NPO日本ウミガメ協議会」(松沢慶将会長、大阪府枚方市)の事務局職員らが現地に滞在し、調査研究を続けている。町教委も調査や保護に加わり、地元の有志でつくる「みなべウミガメ研究班」(尾田賢治会長)や若者でつくる「青年クラブみなべ」も協議会の活動をサポートしている。

 町教委によると今季初めて上陸が確認されたのは5月30日で、産卵もしていた。その後、13日までに足跡を5回確認でき、そのうち3回は産卵もしていた。例年に比べると初産卵の日は1週間ほど遅く、現時点での産卵数は少ないという。

 ウミガメの調査が始まった1980年代後半以降、90年代初めに1シーズンに約350回の産卵が確認できたが、その後に減り始め、98年に29回まで落ち込んだ。再び増え始め、2012、13年にはいずれも300回近くまで回復。しかし、翌年から減少傾向となっている。19年の産卵数は47回で、調査以来ワースト3。昨年の産卵数も63回と低調だった。

 調査を続けるみなべ町教委教育学習課の前田一樹副課長は「たくさん上陸していたころは一晩に何匹も産卵していたが、ここ数年は全く上陸しない日が何日も続くこともある。今季も少ない。ピークはまだ先だが心配だ。回復に期待したい」と話している。

 町教委は今季の観察の受け入れを、昨年に続き新型コロナウイルスの感染防止を考慮し中止にしている。

■今季の調査開始 日本ウミガメ協

 「日本ウミガメ協議会」は12日、今季の調査を始めた。8月中旬まで続ける予定。

 初日は協議会の松沢会長ら事務局職員4人と神戸市で動物や自然環境を学ぶ専門学校生3人が参加。午後8時から1時間置きに午前3時まで、交代で延長約1・3キロの砂浜を歩き、ウミガメが上陸していないか確認した。この日も13日も確認はできなかった。

 シーズンを通して上陸数と産卵数を数え、個体識別のための標識を付ける。タヌキによる卵の食害を防ぐため、産んだ場所に防護柵をかぶせる。子ガメがかえって穴から出た後には、卵の殻やかえらなかった卵を数え、ふ化率を調べる。

 松沢会長は「ウミガメの生態には謎が多く、長期間かけてダイナミックに移動するため、研究対象として大変興味深い。そんなウミガメの生態を調べることで減っている原因を明確にしたい。絶滅させるわけにはいかない。息の長い活動が必要だ」と話している。

■遮光ネット張る

 みなべウミガメ研究班は今年も、千里の浜の駐車場近くの柵に、遮光ネットを張った。車両のヘッドライトの光が砂浜に差し込むのを防ぐのが狙い。

 ウミガメは光を嫌うため、ヘッドライトが差し込むと砂浜に近づかなかったり、上陸しても産卵せずに帰ってしまったりすることがあるという。このため毎年、道に沿った柵に延長約50メートルに渡って遮光ネットを張っている。

■向陽中の生徒が学習

 11日には県立向陽中学校(和歌山市)の3年生80人が千里の浜を訪れ、アカウミガメについて学んだ。砂浜のごみ拾いもした。

 総合的な学習の時間で、環境をテーマに現地学習するために訪れた。前田副課長から、千里の浜での調査や保護の歴史のほか、今季の産卵状況などの説明を聞いた後、砂浜を歩き、ウミガメが上陸した足跡や産んだ卵を観察。掘った穴の中に見える卵に「ピンポン球みたい」「真っ白だ」などと感想を漏らしていた。