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(5)天の猛威と滝の力と

《装わず傷みのままを見せてくれたあなたを見つめ返すまっすぐ》


 大辺路・長井坂を歩き終えた後、JRとバスを乗り継いで、串本・大島・古座・勝浦と移動し、それぞれの町を少しずつ歩いた。この間、何本の川を渡っただろう。

 和深川、姫川、伊串川、古座川。その前には日置川、太間川、周参見川と渡ってきた。訪れてみて分かった、南紀は川の国だ。南紀を旅することは、大小無数の川を渡り続けることだ。

 旅の最後は、那智・浜の宮から熊野那智大社へ、そして熊野速玉大社へと向かう。

 那智勝浦町井関地区の旧道では、格子窓が印象的な伝統建築の家が並ぶ。いずれも修繕された様子がある。新しそうな保育所もあるが、1階の壁が不自然に抜けているのを不思議に思った。

 そんなに鈍い私も、県道に出てはっとした。29人の名が刻まれた慰霊碑と、最高水位3メートル55センチを示す背の高い標識が立っていた。ここが昨年の台風12号で那智川が氾濫し、甚大な被害を受けた地区だったのだ。

 あちこちで道路や橋の工事が行われている。昨年ニュースで見ていたはずなのに、その現場を歩きながらここが被災地と気付けなかった。

 大門坂の石段と、それに続く階段を登り切り、那智大社の拝殿前で、通り掛かった神職に「こちらは昨年の台風の時は…」と、思わず尋ねた。

 神職は「あれ見てください。石垣壊れてるでしょ」と神殿の裏山を指し「私たちも2カ月くらい、これ、やりましたよ」と、スコップで泥をかき出す仕草をした。「まだまだ、これからです」。表情は厳しかった。

 滝への石段を下り始めると、まだ相当の距離があるのに、水の冷気を感じた。ゴーッという落下の音も聞こえ、涼しさに包まれた。

 滝壺の周囲に流木がいくつも横たわっているのが目に入った。少し横へ視線を移すと、大型クレーンが据えられ、足場が組まれている。

 天の猛威を、この滝は今日までに幾度経験してきたのだろう。落石や流木で荒れた姿は、自然の厳しさを伝えるけれど、それに勝る健やかな爽快さを、私はこの滝から受け取る。

 水の動きを目で追うと、落下するばかりでなく、水が上へ向かって噴出するように見える所がある。細かいしぶきが顔にふりかかる。力をもらっている、と感じる。信仰というよりはもっと単純で直接的なもの。滝がその力を、しぶきにして私にふりかけてくれる。

 何の遠慮もしない。目を閉じて、その力をいただく。

《背を向けて立ち去りがたい滝を去れば追い来る音は一歩ごと増す》





爽快さと力強さを感じる那智の滝

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