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(4)懐かしい田んぼ道

追う者の動体視力振り切って駆け抜くつばめ、そう駆け抜けよ


 田辺の町を抜け、左会津川の土手に出た。

 真っ青な空の下、一直線の土手道を行く。見下ろせば、早苗田の若い緑と、梅畑の深い緑。つばめが目の前を何度も横切っては、川の上の空を切るように飛び交う。

 いかにも城下町といった田辺の細やかな街並みも楽しいが、少し離れれば、こんなに爽やかな田園風景が広がっている。

 梅の木を、これまで花の時期以外にはあまり注意して見たことがなかったが、葉が密に茂って、とてもよい木陰を作る木だ。強い日射しに濃い影を落としている。

 三栖王子は、細い道を山側へ入った、少し分かりにくい場所にある。いよいよ中辺路は少しずつ山へ入ってゆくのだ。

 それでもここまでは迷うことはなかったが、ここから先は苦労した。昨年の台風12号による崩落箇所を避ける迂回(うかい)路が設定されていて、手持ちのガイド地図は役に立たなくなった。

 道が分かれる所には「熊野古道」を示した臨時の案内表示が設置されていてありがたいのだが、その矢印の角度がややあいまいで、2本の道のどちらを指しているのか、悩んで立ちつくすこともしばしばだった。

 それでも勘が当たったらしく、なんとか大きな車道に出た。迷う心配はなくなったが、今度はすぐ横を飛ばしてゆく車に注意しながらの歩行となった。

 中でも新岡坂トンネルは、とても長く感じられた。車なら1〜2分で通過するだろうが、徒歩では10分ほどかかったのではないか。私の横を一瞬で通り過ぎる車のタイヤ音が近づくずっと前から、そして追い抜いたずっと後まで、トンネル内を反響して耳に聞こえ続けるのだから、運転者と私とは、違う時間スケールの世界を生きているかのようである。

 トンネルを出た後、汗を拭くつもりで、ウエットティッシュで腕を拭き上げたら、ティッシュが真っ黒になった。

 間もなく八上王子に着いた。田辺ではもう聞かれないウグイスの声が、ここではまだ聞こえてくる。

 飲み物の自動販売機があった。ずいぶん久しぶりに見る気がする。暑さのせいか、緊張したせいか。2本たたき出し、立て続けに飲み干した。

 道に沿い、住宅の間に作られた田んぼが、なぜか懐かしく感じられ、道ばたに座り込んで、オタマジャクシやミズスマシの動きを、しばらくぼうっと眺めていた。



迷い戻るふたたびみたびの目には見え風に吹かれている道標






市街地を離れると川沿いに爽やかな風が吹き抜ける

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