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(2)天神崎の海と山

《遊び場は現れ出たり消えたりし遊んでいるのは誰より海だ》


 南部から田辺への道中。少し寄り道し、海岸線をたどって天神崎へ向かった。

 小雨は降り続いているが、明るい夕方。海は引き潮だ。テーブル状の岩礁が露出し、沖へ向かって遠くまで広がっている。不思議な光景だ。

 まるで大地が手のひらをさしのべたように、岩礁が海へとさしのべられている。この上を歩いていけば、かなり沖まで行ける。海の上を歩くなど人間にできるはずはないが、この岩礁を先端まで歩いたら、自分の足で海面に立っている気がするかもしれない。

 平らな岩礁の、誰をも拒まない穏やかな表情に安らぐ。一方、それに誘われてあまり先まで行くと、そのうち潮が満ちて帰れなくなるのではと、少しの恐れも感じる。

 いずれにしても、今日は雨で足元が悪い。たたずんで、遠くの釣り人の小さな影を眺めていた。

 夜、田辺のホテルの部屋で、海辺の光景を思い出すうち、満ち潮の景色も見てみたくなった。177番に電話し翌日の干満を確かめると、満潮は午前7時半ごろ。早めに朝食を済ませて出掛けよう。今日は行けなかった日和山にも登ってみよう。

 翌朝は晴れた。歩いて天神崎に着き、まず日和山の登り口の階段を登り始めた。と、散歩中の初老の男性に呼び止められた。

 「山、登んの?」

 「はい」

 「この山、登ったことあんの?」

 「初めてです」

 男性は私をしげしげと眺めた。私の外見はそんなにも不安を誘うのだろうか。

 「…大丈夫や思うけどな。まあ、気いつけて」

 お礼を言って山に入る。道はシダ、岩盤、笹やぶ、岩盤とめまぐるしく変わる。木々も多様な種類が入り混じる。

 ひときわ大きな岩盤が現れ、それが山頂だった。足の下の岩は、海辺で踏んだ岩礁と同じ感触だ。海と山がひと続きであることがよく分かる。

 山を下り、再び海岸へ。満ちた潮がひたひたと岩礁を洗う。先とは別の、しかし同じような年輩の男性が、膝を抱えて海を眺めている。

 「お姉さん、どっから来たの」

 「東京です。あの、向かい側に見える町はどこですか」

 「あれは、白浜や」

 少し雑談する。

 「今日は波がある方や」

 そばに自転車がある。きっと毎朝来ているのだろう。

 「和歌山の海で、ここが一番ええからな。気候がええ」



 心からの声と聞こえた。海も人も静かな、天神崎の朝だった。


《海洋性気候のおよぶ精神は朝おだやかにほほえんでいる》






潮が引いた天神崎の海。思わず島に渡りたくなった

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