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「アサマリンドウ」

 暦は11月。朝はひんやりとした冷気に包まれ、夕方は日が落ちる速さに驚かされる。まさに「つるべ落としの秋の夕暮れ」だ▼この季節になると、大好きなアサマリンドウが紀南各地で咲き始める。三重県・志摩半島の朝熊山(あさまやま)で初めて見つかったことから名付けられた▼初めて見たのは10年ほど前、田辺市本宮町の発心門王子から赤木越で湯の峰温泉に向かう途中だった。茎は10センチから25センチ前後。その先端や葉のわきに3〜5センチの青紫の花が数輪ずつ上向きに咲いている。その色合いといい、花の大きさといい、清楚(せいそ)という言葉がぴったりだった▼以来、この花のとりことなり、毎年この季節はこの花を訪ねて紀南の各地を歩いている。熊野古道沿いなら伏拝王子から熊野本宮大社に続く道沿いに見られるし、那智勝浦町の妙法山も有名だ。田辺の市街地から近い所では、みなべ町の清川天宝神社。参道沿いに咲く群落は、町の指定文化財にもなっている▼熊野古道沿いに咲くこの花を見るたびに、かつてこの道を歩いた熊野詣での人たちに思いをはせる。彼らもこの花を眺めて旅情を深め、花一輪の風情に心を慰められたことだろうと想像するだけで、気持ちが温かくなる▼湿度、気温、林地の三拍子がそろって初めて咲くというこの花と、身近に接することができるのも紀南の魅力である。この自然環境をいつまでも、と願わずにはいられない。(石)


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