AGARAKiiLifeみかんKiiSearch

「田原湿地の春」

 串本町の田原湿地は日本の重要湿地500選に選定されている。20年ほど前の夏、熊野古道・大辺路を歩いていて迷い込み、シロバナサクラタデの花が群生している様子に感動したことを思い出した。いまは国道42号に沿って遊歩道が整備され、のんびり散策することができる。

 ▼もう桜が散る時季だというのに、湿地はようやく春が来たという風情だった。立ち枯れたガマの穂先には綿がわずかに残り、湿地は全体がまるで枯れ野原のようだった。それを取り囲むようにヤナギが黄緑色の葉を輝かせている。

 ▼遊歩道沿いの水路には、水の流れに揺れる緑色の葉があった。ミクリという水草だそうだ。そこに覆いかぶさるようにしなだれるのはアケビのつる。淡い紫色の花がかわいい。

 ▼隣り合うように咲いているのはムベの花。アケビは山野のそこかしこにあるが、ムベは見る機会が少ない。アケビの仲間だが実は裂けず、食べれば甘くて美味だという。国道を隔てた山の斜面にはナツトウダイが群生しているが、切ったときに出る白い汁は有毒なので触らない方がいい。

 ▼10年前の調査で、この湿地には高等植物だけでも約260種が確認されたが、その後陸地化と乾燥が進みずいぶん減ったそうだ。原因の一つは水田の耕作放棄。人の手が加わることで豊かな植生が保たれていたという。人も自然の一部だと感じる。

 ▼季節の移ろいに合わせて何度でも訪ねたい場所である。 (長)

更新)