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「鳥の心、魚の気持ち」

 「夕焼け空がマッカッカ。とんびがくるりと輪を描(か)いた」と歌えば、三橋美智也の世界。単純明快だ。

 ▼これが藤沢周平の句になると、「鳶(とび)は春憂いつつ輪にめぐるなり」となる。鳶は一躍、人間の心を持つかのように春の到来に思いを寄せる高貴な存在と化す。

 ▼俳句にはこういう視点は珍しくない。金子みすゞの詩の世界もそうだ。通常の目線を下げて、対象の動物、自然現象などと一体化を図れば、まったく違う世界が眼前に現れるだろう。英国の自然科学者、チャールズ・フォスターの『動物になって生きてみた』(河出書房新社)は、そんな試みだ。

 ▼作者はアナグマ、カワウソ、キツネ、ツバメなどの動物と同じように生きてみる。穴で暮らし、川に潜り、例えばミミズなど、カワウソと同じような餌も食ってみる。「何もそこまで」とは思うが、この体験による洞察は鋭い。視覚からの情報だけではなく、臭覚で構成される景色がどれほど人間の体験世界と異なるか。実際にカワウソが歩む川底をたどってみると、大地がどれだけしわくちゃかも実感できるという。

 ▼山、海、川などの自然が豊かな紀南に住むことは、こんな環境が身近にあふれているということだ。言い換えれば、紀南の開発の遅れは、造化の神に貴重な自然を豊かに残してもらっていることになろう。

 ▼私は毎日届く本紙の記事や写真を見ながら、故郷の本当の豊かさをしばしば思う。 (倫)


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